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LTADまとめ⑥第4章 スペシャライゼーション

第4章 スペシャライゼーション

スペシャライゼーション(Specialization)とは、
日本語では競技専門化や競技特化と訳されており、
平たく言えば、一つの競技を専門的に行うことを指します。

子どもに複数のスポーツを行わせている親にとっては、
何歳ごろまでに一つのスポーツを専門的に行うようにすれば良いのか?
非常に頭を悩ませる問題の一つと言えます。

また、タイガーウッズのように幼い頃から一つの種目に特化し、
早期教育を行うことが、成功への近道であると信じ、自分の子どもにも
幼い頃から一つの競技だけを徹底的に行わせている親も多く存在します。
そのような親にとっては
早期特化のデメリットは耳をふさぎたくなる内容かもしれません。

さて、この章では、LTAD10個のキーファクターの一つ、
スペシャライゼーションについてその詳細が語られます。

※ここから先はLTAD第4章「スペシャライゼーション」
 を訳したものを簡単にまとめた内容になります。

はじめに

○なぜ、競技特化のタイミングが重要なのか?

 1.アスリートは一つの競技に特化するために様々なレベル
   (身体的、精神的、情緒的、認知的)で準備が整っている必要があるから。
 2.一つのスポーツに特化した技術的、戦術的発達の前に、
   運動神経全般を発達させる必要があるから。
 3.アスリートは違う競技に移行することができる、
   幅広い運動能力が必要であるから。
 4.正しいタイミングで競技特化することで、
   燃え尽き症候群や使い過ぎによるケガを防ぐことができるから。

○早期特化の歴史とその背景

古くから、旧共産圏の国々では、スポーツはプロパガンダの手段でした。
1970年台から1980年台にかけて、
これらの国々ではアスリートの早期才能発掘、早期選抜、早期特化を行い、
世界的なアスリートをできるだけ短期間で育成することに取り組み、
オリンピックなどの国際大会において、顕著な結果を収めることに成功しました。

その結果、北米をはじめ世界各地でも早期特化の取り組みが進み、
多くのアスリートやコーチ、保護者たちが、
「我が子がトップレベルのアスリートになるためには、早期特化が必要である。」と考えるようになりました。

しかしながら、近年の研究結果から、
早期特化には多くのデメリットがあることがわかってきたのです。

スペシャライゼーションの定義

○定義

Hill(Hill&Simons)は
「競技特化とは、アスリートが参加するスポーツを一つに限定し、年間を通じてそのトレーニングを行い、その競技に参加することである。」と述べています。

○早期特化型スポーツと後期特化型スポーツ

また、LTADの著者でもあるBalyiは、
様々なスポーツを早期特化型スポーツと後期特化型スポーツに分類する
という概念を導入しています。

早期特化型スポーツは、飛び込み、フィギアスケート、体操などで、
これらは5〜7歳までにそのスポーツを開始し、
およそ12〜14歳(思春期のPHVの開始前)くらいまでに、
複雑な動きやスキルを習得する必要があると言われています。

一方で、後期特化型スポーツは、
球技や格闘技など早期特化型以外のスポーツ全般です。
これら後期特化型スポーツは、早期に特化してしますと、
後々、負の結果をもたらすと考えられています。

早期特化に対する否定的な結果

○早期特化の弊害

1.使い過ぎによるケガや慢性的なケガが増える。
2.勝つことに執着した結果、トレーニングに明け暮れ、社会生活に必要なスキルを身につける機会を失ってしまう。
3.卓越性の向上と引き換えに、自由を失う。
4.心理的な燃え尽き症候群につながる可能性がある。

○最適なタイミングで競技特化することのポジティブな効果

1.リラックスして楽しむことを経験したアスリートは、より充実した生活を送ることができるので、そのスポーツでエリートレベルに達する可能性が高い。
2.早期に特化した競技者よりも燃え尽きる可能性が低く、完璧主義者的な態度を取らない。
3.幼少期に多くのスポーツに触れることで、自分に最適なスポーツを選択することができる。
4.多様な運動能力や適応能力を身につけることができるので、チームスポーツにおいて、様々なポジションをこなすことができるようになる。

○サンプリング(多種目スポーツを経験させること)は親の責任

子どもが6歳から12歳の間に様々なスポーツに参加させるのは親の責任です。
多種目を経験すべきこの重要な時期を「サンプリングイヤー」と呼びます。
この時期に、様々なスポーツをお試しで活動することで、子どもたちは基本的な運動能力や、そのスポーツ特有の意思決定の方法などを経験することができます。

Bakerらが行った研究によると、あるスポーツでエリートレベルに達するには、
単一スポーツのトレーニングではなく、フィジカル・リテラシーの育成と後期特化が成功の要因であることが明らかになっているそうです。

最適な競技特化の時期

スポーツには、それぞれ最適な競技特化の時期があります。
これは、国際的な標準データを分析することで明らかにすることができます。
以下に示すのは、アイルランド、イングランド、スコットランド、北アイルランド、ウェールズ、カナダ、アメリカの各国スポーツ機関が自国のトップアスリートの競技特化の年齢などを調査して、特定されたものです。

○早期特化(空中感覚)グループ

▷フィギアスケート、体操、飛び込みなど
これらの競技は9歳〜13歳(女子は−2歳)が特化に最適な時期です。
高度で緻密な技術が必要であると同時に、意思決定は単純な競技といえます。

○早期特化(高度運動感覚)グループ後期特化グループ

▷馬術、スノーボード、シンクロナイズドスイミング、水泳など
馬術や、スノーボードは6歳ごろから開始し、14歳での特化が最適です。
水泳の場合、8歳〜13歳が特化に最適な時期です。
どちらも女子は–2歳早く特化します。
雪や水、馬などの自然や動物を感じる必要があり、高度な技術が必要です。
意思決定は単純で、動作はルーチン的です。

○後期特化・早期開始(運動感覚/チーム競技/視覚的競技)グループ

▷(運動感覚)アルペンスキー、クロスカントリースキー、リュージュなど
競技開始は6歳ごろで、特化するのは14歳から16歳(女子は−1歳)くらいが最適です。
雪や氷に対する高度な感覚を必要としており、
レース運びに関する簡単な意思決定が必要とされます。

▷(チーム競技)バスケットボール、フィールドホッケー、サッカーなど
競技開始は6歳から8歳が望ましく、特化するのは15歳(女子は−1歳)くらいが最適です。
ボールやパック、バッドやスティックなどの感覚を発達させる必要があります。
複数のスキルの組み合わせが必要で、複雑な意思決定を必要とします。
一方で、一般的な運動能力が重要なので、早期特化にはデメリットもあります。

▷(視覚的競技)バドミントン、フェンシング、ラグビー、テニスなど
競技開始は6歳から8歳くらいまでが望ましく、特化するのは16歳前後(女子は–1〜2歳)が最適です。
物体を追跡するための鋭い視野が必要になるので、早期より取り組み必要があります。一方で、一般的な運動能力が重要なので、早期特化にはデメリットもあります。

○後期特化(一般的)グループ

▷陸上競技、野球、ボウリング、ボクシング、カヌー、サッカー(ポジションによって大きく異なる)、柔道、レスリングなど
開始時期はそれぞれですが、競技特化は男子で15〜16歳、女子は13歳〜14歳までが最適です。

○後期特化(超後期、競技変更)グループ

▷ボブスレー、自転車、ゴルフ、ボート、バレーボールなど
競技特化の時期は18歳〜20歳までが最適です。
これらのスポーツは成功するためには高いパワーが必要となるので、成功するためには身体的に成熟する必要があります。これらのスポーツの特化は非常に遅いので、他のスポーツから移籍することが可能です。

結論

特定のスポーツに特化するタイミングは非常に難しい問題です。
後期特化型スポーツでは、マルチスポーツ活動を通じて、卓越性の基盤となるフィジカル・リテラシーを幼少期に獲得する必要があります。

子どもたちが多くのスポーツに挑戦し、後に何か一つのスポーツに特化した場合、優秀な成績を収める可能性が高まります。より良い運動パターンと判断力を身に付け、燃え尽きる可能性も低くなります。そして、将来的に様々な身体的活動に参加する機会を増やすことにもつながるのです。

※ここまでの文章はLTAD第4章「スペシャライゼーション」
 を訳したものを簡単にまとめた内容になります。

まとめ

今回の章はスペシャライゼーション(競技特化)の詳細について説明したものでした。

この観点から、中学校の部活にLTADを応用するための視点としては
①他種目を実施している生徒の入部を認める。
②競技特化を望む生徒の進路保障を確実に行う。
③保健体育の授業と連携する。
ことなどが考えられると思います。

①他種目を実施している生徒の入部を認める。

バスケットボールという競技の特化最適時期は15歳前後であることから、
中学1・2年生の時期はまだ特化には早いということが考えられます。
競技特化するのは中学3年生、または高校生になってが最適時期です。
そう考えると、中学1年生が入部する時期に習い事で他種目を行っている生徒の入部を認める必要があると思います。
ただし、中体連は二つ以上の種目の試合に参加すること(二重登録)を認めていません(駅伝などは例外)ので、実際には、部活以外の習い事などで他競技を行っている生徒の入部を認めるにとどまるでしょう。

②競技特化を望む生徒の進路保障を確実に行う。

高校生に時期は競技特化に最適な時期です。
高校進学にあたり、自分の特化したい競技の部活がある高校へと進学できるよう、教師はサポートする必要があります。
また、部活ではなくクラブチームという選択肢もありますが、
バスケットボールにおいてはU18カテゴリーは99パーセントが部活によって占められています。
そう考えると、競技特化を望む生徒が進学したい高校へ進学できるようサポートすることが重要であると思います。

③保健体育の授業と連携する。

これは、フィジカル・リテラシーの章でも同じでしたが、
保健体育の授業で、様々な種目を経験させることで、マルチスポーツを行っていのと同じ利点が得られるはずです。
親が子どもにサンプリングの時期を設けるように
保健体育の教師は授業で多くの種目をお試しさせるわけです。

以上、3点を本章での学びを部活動に応用する視点とし、今後の部活動運営及び教科指導に取り組みたいと考えています。

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