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社内承継で事業承継税制を活用する方法【M&A日記】

散々、内部昇格や社内承継の難しさを書いてきた。

社内承継の大きなハードルとして、後継者が会社を譲り受けるために必要な資金の調達がある。

良い会社は継ぎたい人もいるだろうけど、高い。
安い会社は、会社の内容が良くない可能性が高く、今度は継ぎたい人がいなくなる。

後者は、それでもやりたいという腹くくりのできている後継者がいれば、その人に託すのみ。
時間をかけて経営者の経験を積んでもらい、金融機関や取引先のサポートを得られるようにすることが大事。

前者について、前回のnoteでは価格が高くなく、承継対象会社に十分なキャッシュフローがあれば、金融機関調達できる可能性があるということを書いた。

今回はもう一つの方法。
現オーナー経営者が、後継者からの株式の対価を求めない、即ち贈与でも良いという場合には、事業承継税制を活用することで、選択肢が現実的になる。

対価を求めないとはいえ、価値のある株式を贈与すれば、受け取る側には当然贈与税が発生する。
仮に5億円の価値の株式を贈与されたとすれば、半分以上の金額を納税しないといけない。
納税のために株を売ってしまったら、贈与された意味がなくなる。
かといって、株に手を付けずに、3億円弱の税金を支払うことができるわけもない。
この贈与税を、一定の条件を満たす場合においては猶予する、というのが事業承継税制。
旧ジャニーズ事務所が使っていた仕組みだ。
更に、2024年3月末までは特例措置での申請が可能で、満たすべき条件が緩和される。

この特例措置は大きい。
事業承継税制の活用要件はハードルが高く、大きなリスクにもなるため、活用が難しかった。
適用件数が年間400件程度しかなく、後継者不在の会社が10万社以上と言われている中では、全く使われていないというのに等しい。
しかし、2018年に特例適用ができるようになり、件数は年間6000件程度にまで増えたそう。

さて、事業承継税制の要件は細かいが、主要な項目と、一般措置と特例措置の比較が下記の図。
国税庁が発行しているパンフレットの切り抜き。

引用:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-133_01.pdf

あくまで支払い猶予措置なので、払わないで良くなったということではない。
一定の条件を満たせば、支払いが猶予され、条件から漏れれば猶予が終了する。

一般措置では、株式の3分の2までしか適用されないため、残り3分の1に対しては課税されてしまうのに対して、特例は全株式を対象とできる。
そして、相続の場合は8割までしか猶予されなかったのが、これもまた特例では100%が適用となる。
この2点の違いはとても大きい。
株価の高い会社であれば、3分の1とか2割でも千万とか億円単位になることもあるし、それが特例なら0だ。

そして、条件として厳しかったのが、雇用確保要件。
一般措置では、承継後5年間平均8割の雇用維持が必要で、これを下回ると納税猶予が終了となる。
50人いたら、平均が40人を下回ってはいけない。
例えば数店舗の飲食店を展開する会社が1店舗閉めたら恐らく当てはまる。
業績が不安定になりやすい昨今の外部環境を踏まえるとかなり厳しい要件だが、これが特例措置では報告書を提出することで、猶予してもらえるということになった。

表にはないが、承継後5年間は後継者が代表取締役で居続けることも条件になっている。
また、株を譲り受けた後継者は、次の後継者に譲るまでは株を手放せない。
なのでM&A(会社の譲渡)が選択肢となりづらくなる。
他にも条件はたくさんあるので、興味のある方は以下の国税庁のHPにて確認してほしい。

国税庁HP事業承継税制について

条件が緩和されたことで使いやすくはなっているものの、条件を満たせずに猶予が終了となってしまった場合には、払うべきだった税金に加えて利子が加算されるということにもなっている。

なので、実際問題として活用にはかなり慎重にならざるを得ないものの、条件を満たせる自信があれば、有望な制度となる。

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