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【旅の記憶】行きと帰りのバスの落差よ(旅のなかの旅 サン・ジミニャーノ④)

町にもう一つある主要な教会、サンタゴスティーノ教会は長いお昼休憩に入っていたので、15時に再びオープンするまでサン・マッテオ通りをうろついて待つ。
お土産屋をひやかしたりしていたが、やはり朝から閉まっている店は閉まったままなので、
どうやら今はクリスマス休暇なのだろう。
残念だったのは「世界一美味しいジェラート屋」に選ばれたことのあるアイスクリーム屋まで閉まっていたこと。
世界一のアイスがここサン・ジミニャーノに、目の前にあるというのに、
と食いしん坊の私としては塔にのぼれないことと並ぶショックだった。

15時前に再び通りを町の反対側まで歩いてサンタゴスティーノ教会へ。
参事会教会同様、こちらも外観は赤茶色の煉瓦をシンプルに積んだ、箱型の教会だった。
午後の部がオープンしたばかりだからか、中には赤ちゃん連れの地元のお母さんぐらいしかいない。
こちらも美しい祭壇や宗教画に彩られた教会で、落ち着いた趣がある。
それらを眺めつつぐるりと内部を一周して初めて、中庭に通じる扉があることに気づいた。
出てみると、傍の部屋に数名の地元の方がいて何やら準備中だ。
これから近所の方が集まっての軽食会でもありそうな気配である。
気圧されたわけでもないのだけど、何となく中庭はそこそこに教会を出た。

曇り空とサンタゴスティーノ教会

そろそろ16時近く。急に団体客が町に増えたのは、シエナ経由コースの帰りのルートにでもなっているのだろうか。
日本人も見かけた。でも今からだと本当に「立ち寄っただけ」になりそうで、
二都市三都市を一日で回るのはやっぱりもったいないなあと思う。

私としてはチステルナ広場で最後に自分を入れた写真も撮ってもらえて満足、そろそろフィレンツェに戻ろう。
その時ふと、高台に眼がいった。しまった、朝、途中で引き返してから行くの忘れてた!
あそこからなら塔よりも高い位置から町を見渡せたはずなのに!
一日いたくせに!さっきあれだけサン・マッテオ通りを何往復もして時間を潰してたくせに!
でもバスの時間も気になるし、歩き回りすぎて城塞までの道がひどく急勾配に思える。
うーむ、残念ながらここは勇気ある撤退をしよう。下から塔を充分見上げまくったではないか。

行きと同じようにサン・ジョバンニ門から城壁を抜けると、前方にバスがちょうど停まっているのが見えた。
ラッキー、と駆け寄りドライバーに行き先を尋ねると、フィレンツェ方面とのこと。
この時点で私は帰りのチケットをまだ買っていなかったのだが、
すぐ傍に買う場所があるか、もしくはドライバーから買えばいいやと安易に考えていたのだ。
だって、行きのドライバーは皆ことごとくいい兄ちゃん達だったんだから。がしかし、「チケットはどこで買うの?」と尋ねると今度の兄ちゃんはものすごく面倒臭そうに「・・・ここで買えるけど・・・」とバッグを探る。
うわー、嫌な予感、と暗雲漂う。
「10ユーロね」と言われて「テン?」と声が裏返った。
いやいやいや行きは6.8ユーロでしたよね。
なんでよ?という顔をすると、「バスの中じゃあ税金がかかるんだよ」・・・
いやでもそれにしたって値段違いすぎるだろうと、一瞬むっとする。
500円の差やん、カプチーノ二杯飲めるやん!
税金に怒っても仕方ないので、というかそれをぶつぶつ言う語学力がないのでどうしようもないのだが、
「じゃあ外で買ってくるからどこで売ってるか教えて」という交渉をしようか迷った。
けれど私はやっぱり疲れていたのだと思う。
そちらに賭けてすんなり買えるかわからないし、
次のバスが何時に来るのかも、ちゃんとチェックしていなかったのでわからない。うっすら脳裏をよぎる自業自得の文字。
ケチケチ旅行で普段なら絶対払わない追加料金を、結局は払うことにした。サン・ジミニャーノへのワンデイツアーに参加することを思えばずっと安く来られているんだからと、自分を慰めつつ。

このチケットがまた、売場で買うのと違って2ユーロで1枚になっているらしく、
兄ちゃんが蛇腹状のショッキングピンクの用紙を5枚もべらべらと出してくるので参った。
「一人なんだけど(普通に考えたら一人1枚だと思ったので)」と若干嫌味を醸し出してしまったが(根に持ってる!)、
兄ちゃんは意に介さずで、1枚ずつ読み取り機に差し込んで刻印している。
後ろで待っている人も迷惑顔。やっと出発した時には何だか更に疲れが増してしまった。

行きと同様、ポッジボンシで乗り換え。今度も結構な待ち時間。
そして、おお神よ、どうして今回は次のバスのドライバーも愛想が悪いのですか。
でもって途中で気づいてしまったのだが、ミラー越しのドライバーの兄ちゃんの顔が眠そうに見えるのだ。
瞬きが多いし、あ、今あくびした!
真後ろの席じゃなし、そこまではっきりとは見えないのだが、
たまに目を閉じているように見えるのは、顔の彫りが深いせいだろうか。
突然、私は怖くなった。
実を言うとあんまり車に乗るのは好きではない。
免許は持っていないので運転するわけでもないくせに「自分でどうにもできないすごいスピードで移動するものに乗っている」
とリアルに意識してしまうと、たまに急に怖くなる。
まぁ、誰しも何がしか持っているものだと思うのだけど。
それでも公共の乗り物はまだましのはず・・・
だったのにこんなところで睡魔と闘っている恐れのあるドライバーのバスに乗車しているなんて、そりゃ怖くもなるでしょう。
しかもご他聞にもれず、かなりのスピードが出ている。
(ああ、高速なんて乗らないで)
(BGM大きくなったけど眠いからじゃあ)
などなどこちらは眠るどころか気が気ではなかったのだった。

フィレンツェに近づくと渋滞が起きていて、私にとっては救いの神であった。
ナイス、渋滞。ようやく肩の力を抜くことができた。
外はもう日が暮れていて、市内に入るとアルノ川の両岸の明かりも町のイルミネーションも美しかったが、
ターミナルに到着してバスから降り、真っ先に出てきた言葉は「ああ、怖かった」。
私の日帰りサン・ジミニャーノ旅はこうして幕を閉じた。

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