【公開記事】感熱紙だった夏(うた新聞2022年4月号)(エッセイ)
浪人時代、なのでもう二十五年以上前の夏になる。
通うと決めた予備校もドロップアウトしかかって、私は講義をさぼり小さな本屋をぶらぶらしていた。
毎日同じ白紙のページを繰り返しているようで、できることもやりたいこともどんどん減っていた時期である。
いつもの長野まゆみや鷺沢萠の小説ではなく、その日ふと手に取ったのは、すでに文庫になっていた『サラダ記念日』だった。
立ち読みしているうち、私の中にもリズムを持った言葉がどうっと溢れてきた。
早く私もこの閉塞感や無力感を文字にしなければ。