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【旅の記憶】散策からのマルゲリータ(旅のなかの旅 サン・ジミニャーノ③)

町、と言っても20分も歩けば反対側に着いてしまいそうなこの世界文化遺産サン・ジミニャーノ歴史地区は、
そもそもエトルリア起源の町の一つであるらしい。
街道の合流地点にあったお陰で町は発展した。
この町を特徴づけている塔は、そんな発展の中、富の象徴として競って建てられたもので、現在では14本が残っている。
私は観ていないのだが、1972年の映画『ブラザー・サン シスター・ムーン』が撮影された場所としても有名なのだそうだ。

門をくぐると緩やかな坂道、サン・ジョヴァンニ通りが町の中心の広場まで続いている。
観光客は一様にここをぶらぶらと歩いて塔が幾つか立ち並ぶその広場へと向かうことになる。
まだ午前中だからだろうか、それともすでにクリスマス休暇に入っているのか、
お店の半分ほどが閉まっているのが少々気になる。
ほとんどがお土産屋の類で、陶器のお皿などを売る店が目につく。
着いた広場も小型で、ちょっと変形というか、二つの三角形(チステルナ広場とドゥオーモ広場)がくっついたような形をしている。
チステルナ広場には、その名前の由来になった13世紀の井戸(チステルナ)が真ん中にあり、
ガイドブックにはここに座り込んでいる沢山の観光客の写真が載っているが、寒いこの時期は皆覗き込むぐらいである。
隣のドゥオーモ広場は塔を持つ数々の建物や参事会教会、ポポロ宮(市庁舎兼市立美術館)といったそうそうたる建物に囲まれている。
曇り空なのが残念だが、幸い雨は降ってきておらず、
空ににょきにょきと塔が突き出る様は、実際に中世に迷いこんだような気持ちにさせる。

左からポポロ宮と塔、参事会教会

そこから町の反対側へと抜けるサン・マッテオ通りがとても趣ある道とのことで、そちらへ歩いていったつもりが、
どうやら間違って小高い丘の上の城塞の方へ歩いてしまったらしい。
この町は細い小道が多く、アップダウンもそこここにあって、
どの道がどこへ通じているのかわかりにくい。
慣れれば小さい町なので迷わないだろうが、その迷路のような構造が私にモロッコのフェズを連想させた。
フェズはまだ見ぬ憧れの地の一つであり、狭い路地を右往左往しているとロバと擦れ違ったりするという。
長らく私の旅情を誘う町なのだった。

えらく登るなあと不審に思っていると、やがてワイン博物館はこちら、という表示が出てきた。
博物館は町を見渡せる城塞にあるとガイドブックにはある。やはり道を間違えたのだ。
ワイン博物館に寄るつもりはなかったし、町を見渡すのは一通り町を歩いてからにしたかったので、一旦引き返すことに。

今度こそサン・マッテオ通りに入ることに成功。車が擦れ違うのは厳しいかな、というぐらいの狭い幅の両側に、
中世からそのままの建物が並んでいる(ちなみに町に車は入れない。許可を持っている車のみ可)。
落ち着いた赤茶色の煉瓦造りの壁がずっと続く様は美しく、道が少しカーブしているのも趣がある。
途中、両端の建物を繋いだアーチがあり、これは10世紀末に造られた最初の城壁の一部だそうである。
そこに今は季節柄、サンタクロースの人形が飾られている。

そこを行き来したあと、広場に戻り、まず目の前の参事会教会(12世紀建造)に入ることに。
ここの外観はフィレンツェの多くの教会とは違い非常にシンプルで、
煉瓦造りののっぺりした壁に丸い窓があるだけなのだが、
中は円柱が並び、天井は舟の底のような構造で、とても装飾性が高い。
また両サイドには聖書の物語(左右で旧約と新約に分かれている)が描かれている。
剥離しているところも多いが、こうして並んでいると、聖書の一場面を切り取ったものより物語性が強く感じられた。

外に出て、ここらで自分も入れて写真を撮りたいなあと思ったが、とにかく一人の旅行者がいない。
グループよりも一人旅の人の方が声をかけやすいのだが、
今、サン・ジミニャーノにいる一人の旅行者って私だけなんじゃない?というぐらい見かけない・・・
お昼ご飯も一人ではちょっと入りにくいレストランばかり目につき、
ピザ屋で4分の1のマルゲリータを買って、広場のベンチで食べることにする。
ちなみにここのピザ、4分の1の大きさちょうどの、紙製の三角の台に乗せられていてとても食べやすく、
これ日本でもあるのかなぁ、やってほしいなぁと考えたりもしたのだった。

さて、教会の隣のポポロ宮に入ろうとして、入口は一体どこだろうとうろうろしていると、
観光客の母娘がおり、その娘さんが親切にも「今日だけお休みなんだって」と英語で教えてくれた。
ショック!だってサン・ジミニャーノ一番の名所のはず。小さいながら市立美術館があり、中庭には14世紀の井戸があり、
同時代の54メートルの塔(最も高い)にのぼって町を一望することができる。塔の町で塔にのぼれるのはここだけなのだ!
もちろん何が何でもと言うなら事前に調べてきたわけで、今日の日帰り旅は勢いでもあったからいいんだけど・・・
諦めきれずに建物の周囲を回っていると、横の入口が開いていて、入るとそこは中庭だった。
あれ、入れちゃったけど、いいの?と動揺したが、そこにいた職員らしき人(市庁舎も兼ねているので)にも別に注意されないので、
せめて中庭はじっくり見学させてもらった。明るい茶色の外壁にフレスコ画が描かれ、古い井戸や鐘が残されていた。
窓を見上げると、中で仕事をしている人が見える。
こんな歴史的建造物で事務仕事をするのはどんな気分だろうか、としばし夢想したのであった。

ポポロ宮の中庭

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