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【旅の記憶】光り輝く3人組(Sydney 3)

私が旅の最初にお世話になったのは、シドニーの北、セントラルコーストと呼ばれるエリアにある一軒家であった。
そこに週単位でリーズナブルに宿泊できるB&Bのような場所があったのを、webで見つけて、約3週間予約してあったのだ。
(残念ながら今はもうクローズされている)

日本人の方がオーナーだったのも、ここに決めたポイントで、いきなり海外初一人旅でオーストラリア大陸を一周しようという暴挙の、
その「暴挙感」を少しでも和らげるため、ここでしばらく生活に慣れさせてもらおうと思ってのことだった。

ちなみに、各国在住の日本人の方がこうした宿を営まれているケースは多く(今は当時よりも圧倒的に多いだろうし、探しやすくもなっているはず)
旅の宿探しのときには、これらも候補に入れるといいかもしれない。
実際、私もフィレンツェでも同様のB&Bに宿泊したし、
パリで泊まった週貸しアパートメントは、部屋のオーナーは日本人ではなかったけれど、
日本語でweb予約できるサービスを使い、だいぶ安心感があったものだ。

さて、到着して出迎えていただいたオーナーの第一声は、
「えっ、荷物これだけなの?」
であった。
ええ、ええ、そうなんです、何を隠そう、私は荷物が少ないようなのだ。
「ようなのだ」というのは、自分にその自覚がないからなのだが、
この後に訪れる町でも言われたし、別の旅の時にもよく言われる。
私が愛用していたのは、スーツケースではなく、あれはポリエステル製だったのか、
2輪のコマ付きのカート(L字型だが、畳める)と、そのカート部分とバックパックをぐるりとくくりつける専用の紐がついているもので
背負いたい人は背負えるし、転がしたい人は転がせる、そんな小振りのバックパックであった。
(時々、あんなでかいバックパックよく背負えるな、という方を見かけるが、
残念ながら荷物が少ないとは言え、パワーのない私では背負うことはできず、いつも転がしていた)
自分では必要最小限のものは揃っていると思っていたので
なぜ少なくて済んでいるのか、よくわからないのだけど
確か服はTシャツ×4、ジーンズやクロップドパンツ×3、カーディガン、念のためのウインドブレーカーぐらいで
スカートやワンピースはなし、予備のお洒落な靴もなし、という
「毎日同じ服になっても頓着しない」あたりがポイントだったのかもしれない。

3週間、私が過ごすことになったお家は大きくて、オーナーの居住スペースとは別に、
宿泊客用の部屋が幾つかと、宿泊客共同のキッチンやシャワールームがあった。
とは言え、他に宿泊客がいたのは、途中の10日間ぐらいで、後は一人で使っていたので、いいのか?と思うほど広々と過ごさせてもらった。
この後の町で恐るべき半地下の宿や、狭すぎる相部屋に泊まったりすることを思うと、リッチすぎるスタートと言えるだろう。

ここは町からも少し離れた住宅地(あのまばらなでかい一軒家群を住宅地と呼ぶのなら)で、
住むのには車が必須だろうと思うが、
少し歩くとバス停があったので、それに乗ってスーパーなんかに行くことはできた。
(この記事のトップ画像は、スーパーの驚異的な牛乳の品揃え)

ただ、問題は帰りである。
まばらなでかい一軒家群、と先ほど書いたけれど、初心者の私には、家や通りの区別がつかないのだ。
森→家→通り→森→家→森・・・
なので、私は目印になる標識を覚えて、それが登場したら次のバス停で降りることとし、ずっとバスの左手を凝視していた。

ところが、案の定失敗する日が来る。
一人で町へ行き、スーパーへ入ったり、図書館を覗いたり、
憧れの「一人カフェでマフィンとカプチーノ」を達成したりし、
達成感あふるる気持ちで帰りのバスに乗った。
そして、気持ちが大きくなっていたせいか、目印を見逃したのだ。
あれ、もうそろそろ出てきてもいいような、ちょっと長く乗りすぎている気がする・・・
いくら小さなバス停とはいえ、名前も番号もないことはないだろうし
今ならそれをメモするなりして、ドライバーに聞けばいいのに、と思うけれど
それもまだ、怖くてできなかったのかもしれない。

ああ、これはマズい、と焦って次のバス停で降りたのだが、自分がどこにいるのか全然わからない。
人通りもあまりないような場所だ。しかも炎天下。
途方に暮れていると、小学生ぐらいの女の子が3人、こちらに向かってくるのが見えた。光り輝いているようだった。天啓であろう。
私は彼女たちを呼び止め、宿のある通りの名前を告げて、そこに行きたいのだと言ってみた。
優しい彼女たちは口々に「下よ、下よ」と言い、バスが来た方を指さす。
「もう一つ、下の道よ。」
よ、よかった、たいして離れてはいなかったのだ。
私は盛大にサンキューを繰り返し、少し坂になっているその道をくだっていった。
そしてどうにか宿に帰り着いたのだった。


これまでの【旅の記憶】は、以下のマガジンにまとめています。


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