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【旅の記憶】ウフィッツィ?ウフィツィ?ウッフィッツィ?

フィレンツェではたくさん絵画、特に宗教画を観た。
一体何枚の宗教画を観たのだろうか?100だろうか、200か・・・
ともかく一週間でそれぐらいの単位を観ることになってしまった。
特に宗教画鑑賞を最大目的として観光していなくても、とにかく溢れ返っているのである。
もちろんこの街で、教科書などで見知っている絵の実物を観るということは、私の求めていたことではあるけれども
いかんせん、それだけの圧倒的数量でもって迫られると、こちらもかなりの力を必要とする。
想像してごらん、一週間で仏像100体観るってことを・・・

さて、そんな美術品の多い街であるが、ザ・フィレンツェと言えばやはりウフィッツィ美術館だろう。
ウフィッツィ美術館は発音もカタカナ書きも、おまけにPCでの入力さえどこを押さえたらよいのかわからなくなる厄介な名前だが、
元々は16世紀半ばに行政機関を一つに集める目的で建てられたもので、
行政機関、すなわちオフィスの語源である(イタリア語で事務所はufficio。ここからofficeまでもうひといき)。
それにしてもよくもまあこんな巨大な建物をオフィスにしようと思いましたね、という大きさで
でっかいコの字の造りはテレビなどで眼にすることもある。

昼間ともなると、このコの字の回廊部分で大道芸人が石像のごとく固まっていたり、人が集まって賑やかなのだが
私が予約していた朝9時はまだ閑散としている。
予約者もまばらで、ちっとも並ばずに入れてしまった。
回廊の上部分は長い長い廊下。まずここに凄まじい数の石像が並んでいる。それをちらりちらりと眺めながら、廊下の脇に並ぶ展示室へ入っては更に大量の宗教画などを観る、という趣向である。
絵は全然詳しくないけれど、初期ルネサンスのまだ硬く扁平な絵画から、徐々に柔らかく立体的な絵画へ、という感じ。
あまりに数が多くて散漫になるので、持っていたガイドブックやら絵に付けられているオーディオガイドの目印やらで、
押さえるべきと思われる絵画と、何となく気になる絵を中心に観て回る。

ウフィッツィで最も印象に残ったのは、意外にもレオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』だった。
『受胎告知』を題材にした絵画とは、イタリア旅のあいだにそれはそれはたくさん出会った。
大天使ガブリエルがマリアの元に現れ「あなたは神の子を身籠っていますよ」と告げる場面が描かれた絵のことである。
様々な天使、様々なマリアがそこには描かれるが、私はこのレオナルド・ダ・ヴィンチのマリアのウェーブがかった髪の毛が輝く様に魅了されてしまった。
服の襞や草花の繊細な表現など、言及すべき点はたくさんあるはずだけれど、ともかく金色の髪の毛の筆遣いが美しかった。
ここに来るまではラファエロの聖母の絵(『ヒワの聖母』)を楽しみにしていたので、びっくりした。
もちろん、ラファエロはラファエロでとても印象的だったのだけれど。

しかしこの美術館で一番の見どころは、ボッティチェリである。
特に神話に題材をとった『春(プリマヴェーラ)』と『ヴィーナス誕生』である。
ボッティチェリ・ルームへはそう易々とは行けない。
あの長い長い廊下から直接繋がる部屋ではなく、気を持たせる感じで二部屋ほど別の部屋を通過せねばならない。
それまで案内らしい案内もなかったのに、突如「ボッティチェリ・ルームはこちら」みたいなプレートが出現する。
入室すると真っ先にその二つの絵が視界に飛び込んでくる。
あ、想像より小さい。まずそう思った。二つはほぼ同じ大きさでそれぞれが2m×3mぐらい。いやいや充分大きいじゃないか。
私は一体どんな絵を想像していたのだろう?
やはり図録などでは大きさをあまり意識していないので、思い込みのイメージとずれているように感じてしまったのだろう。

『春』とはついに対面した!という気持ちになった。
高校時代、苦楽をともにした『世界史図説』の表紙がこの絵画だったのだ。華々しいようで不穏な絵。
『ヴィーナス誕生』は、ヴィーナスと周囲の神々に眼がいくが、実物を前にすると、海の波がはっきりしていて瑞々しい。
素敵なことに部屋の真ん中にソファが置かれているので、私はそれぞれの絵に向かい合って、しばらくぼんやり絵と相対した。
ちなみにこの時点ではまだ空いていたこの部屋だが、後からもう一度戻ると大混雑となっていた。
10時台になると、ツアー客がどっとやってくるからのようだった。

途中、どこかで見たおじいちゃんがいるなと思ったら、イタリアに来た時の飛行機で一緒だった方だった。
白髪で、絵描きさんみたいなよれよれのコートを着て、奥さまらしい人と私の斜め前に座って、フィレンツェのガイドブックを手にしていた。
おじいちゃんおばあちゃんになってもこうやって飛行機に乗って旅に出るっていいな、と思って眺めていたので覚えていたのだ。
同じあの小型飛行機に乗っていた観光客同士が美術館の中で偶然出会う。
向こうはもちろん何も知らないのだけど、何だかうきうきと楽しい気持ちになった。

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