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記事一覧

サナトリウムと少女/冬

訪ね来る人も少なくなりにけりサナトリウムは異国の響き
仲良しの看護師さんが点滴を打ちつつ彼氏の話を始める
「治ったらいいね」じゃなくて「治そうね」と連帯感で溢れる病室
今日は少し元気があるから大検の問題集を一ページ解く
目覚めたら不安と安堵が入り混じる両親の顔が飛び込んでくる
明日もまた目覚めさせてくださいとお祈りをして眠るに入る
生きてるとも死んでいるとも言い切れない穏やかだけど退屈な日々
寒空

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夏の思い出

ニョキニョキと海辺に生えるタワマンは向日葵のごと太陽を向く
四十度を超えし酷暑の道辺にはセミより他に生くるものなし
アフリカのサバナにそびゆるキリマンジャロその峰思わす入道雲かな
固唾のみ祈る 音なきプリウスに未だ気づかぬスズメの無事を
不意に目覚めた夏夜(かや)は静かで信号の青のまたたく音が聞こえる
私に水をお与えくださいと酷暑に首(こうべ)を垂れる紫陽花
八月の明け方に吹く風はふと子ども時代を

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ベランダにて

一日のうち六時間は眠ってて二時間はただ空を見ていた
コンビニの弁当でもいい自分のために誰かが作ったご飯が食べたい
自分でも演技と本気の境目がわからないまま子を叱責す
歌うたう時間も惜しし打ち込める仕事に出会えた最後の不惑
締め切った窓の外では知らぬ間に夏から秋へ空気が変わる
縁側が開け放たれた駅前のカフェで今だけ若返っている
人生という階段の踊り場のように静かな秋晴れの昼
通り過ぎるエンジン音が消

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梅雨

メールには添付できないぬくもりと共に手紙は海を越えゆく
深夜2時の路上でタバコを喫う人も見ている自分もどこか哀しい
気の早いセミが一匹鳴き始め慌てたように夏が来たりぬ
今だけは何も気にせず心地よく吹く夏風に身を委ねよう
空高く伸びる細身に連なったつぼみ弾けてタチアオイの花
雨だれを避けるが如く低空で右に左に飛ぶ燕たち
丑三つの闇世に響くカラスの声そうかお前も眠れないのか
マンションの軒にはためく洗

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徒然歌

「どれ今年も、坊らを祝ってやらう」かと蕾震わす老桜かな
雪が止み常より青の濃い空へボールを蹴っては追う子どもたち
俗っぽい光で霞む夜空にも道示す星は微かに瞬く
久方の光で満ちる公園で何もしないをただただ過ごす
初めてのハローワークへ歩を進める春風ふわりと背中を押して
塞翁が馬というけど君の死と釣り合う幸などあるはずもなく
手に持つは足元照らす灯りのみ行くも戻るも道は見えざる
一粒の種より育つ大木の

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題詠「数」、「断」

題詠「数」
散る花に連れられ吾子は旅立ちぬただの一度の夏も知らずに

題詠「断」
悪しき流れにあると知りつつそれを断つすべ知らぬまま時は流るる

幻桃題詠

セキラララ

お話なら「そして四年が過ぎ去った」とただ一文で時は経つのに
死にたいと願うわけではないけれど生きる理由も見つけれてない
秒針が午前零時を通り過ぎ今日がふたたび繰り返される
頑張っているねと褒められ返答に困ってしまう怠け者の僕
やり切ると誓ったことを反故にするそんな自分がとても嫌いだ
漆黒の水面にかかる細い綱をふらふら歩む先は見えねど
「助けて!」と誰に叫べば届くのか世間は優しい他人で満ちてる
もし

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疫病

青空に草木は息吹き鳥は飛ぶ人間だけは恐れ巣篭る
忖度を知らぬ相手はこれほどに恐ろしきと知れ先生方よ
この世から笑顔は消えたかあるいはただ見えないだけかマスクは語らず
刑務者にいるかの如き静寂に包まれ子らは給食を食む
外出はまるでロシアンルーレットいつまで無事に帰宅できるか
旅立ちの顔見れなくて次に会う君を君と分かるだろうか
「会いに行く」がしづらくなって久々に故郷の父に電話をかける
最新の科学も力

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題「味」

後味の悪いケンカをした君が手の届かない場所へ旅立つ

「NHK短歌」投稿作品

テーマ「スイーツ」

今ならばスイーツと呼ぶか幼き日に母が作りし林檎の焼菓子

「NHK短歌」投稿作品

テーマ「イベント」

一時の喧騒は過ぎ基礎だけのパビリオンにただ雲雀たちが舞う

「NHK短歌」投稿作品

テーマ「調理」

お二人をさっくり混ぜて三十年寝かせた未来がこちらになります

「NHK短歌」投稿作品

テーマ「励ます」

悟りでも開かぬ限り人間(じんかん)は頑張らないと居心地が悪い

「NHK短歌」投稿作品

題詠「降」

この街は砂漠と誰かが歌うけどわたしの空は土砂降りのまま

「NHK短歌」投稿作品