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第3話 深夜バイト始める

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

2009年11月。

AM9時30分、JR姫路駅8番ホーム。
僕は深夜の仕事を終え、下り電車を待っている。

1日は24時間。
大きな借金を抱えた僕は24時間をフルに頑張らなきゃいけない訳で、水曜、木曜、日曜の週3日、夜の10時から朝の9時まで姫路駅前のビジネスホテルでアルバイトを始めた。

でも40歳すぎてからの深夜バイトはキツイ・・・。

僕は大学の頃は神戸で一人暮らしをしていて、昼から夜中まで当時流行りだったプールバーでバーテンをし、それが終わるとそのまま深夜コンビニに入り早朝までバイト。たまの休日もコンサートスタッフの会社に登録をしたりと、大学なんて行かずバイト漬けの生活を送ってた。

百貨店に就職してからもその性格は変わらず、会社には内緒で週3で早朝の牛乳配達のバイトをしていた。

「働かなきゃいけない種族」っていうのがあるのなら、僕はだぶんそれだ。

だからそんな僕が深夜バイトをする事くらいどうってことないと思ってたんだけど、もうその時とは年齢が違う訳でそんなに簡単な事ではなかった。

でもビジネスホテルの社員さんやアルバイトメンバーが皆いい人ばかりで親切に接してくれるものだから、そのおかげで何とか働けているって感じだった。何をしてもそうだけど「人」に救われるものなんだな。

そんな仕事終わりの朝の下りホーム。
姫路から神戸や大阪の方に向かう人は多いけど、西へ向かう人は全然いなくて、上りホームに比べるとひっそりとしてる。

僕はベンチに腰掛け、CDウォークマンにCDを入れイヤホンをつける。最近ハマってる女性ジャズヴォーカリスト、サラ・ガザレクの「RETURN TO YOU」だ。中でも「I've Got A Great Idea」に、やられている。ハリーコニックJRの曲で当時から好きだった曲だけど、サラの歌声で聴くと、薄暗い僕の世界が一気に華やかになるんだ。

それはとてもステキな事。
車窓から町や田畑の風景を眺めながら飲む100円缶コーヒーがこんなに美味しく感じられるのだから。

姫路駅から電車で約10分で僕の住む網干駅に着く。そこから自宅までは徒歩で20分ほど。帰宅するとワイフが作ってくれたあったかいご飯を腹に流し込んで、さっと仕事部屋に入る。

今は2階に僕のパソコン作業用の仕事部屋を作っているのだ。デスクに座り、100円缶コーヒーとは違うこだわりの深煎り豆から挽いた珈琲を飲みながら、ようやくちょっとひといき。

徹夜明けと思われるかもしれないけど、ホテルのバイトって休憩時間が多くて2時間ほどはしっかり仮眠できるから、睡眠については案外大丈夫なのだ。

今リヴェラデザインで注文を受けているのは、ペットショップのホームページデザイン。僕は可愛い系はそんなに得意ではないんだけど、デッサン用ノートにデザインの構想を思いつくままに書き込んでいく。得意ではないと言ってもデザインは好きな仕事なので、こういう事を考えている時はとても楽しいひとときだ。

しばらくして、3歳の次男坊が仕事部屋に入ってきた。

「パパ、おはよぉ」
そう言って、僕のひざの上にのってくる。

「パパ何してるの?」

「ちょっと考えたことをノートに書いてるんだよ」

「ボクも書いていい?」

「いいよ」

僕のデザイン構想メモの上に、次男坊の赤や青の色鉛筆が描き足されていく。僕と同じことをしてるのが嬉しいようで、ノートはみるみる内に彼の落書き帳へと進化していった。

よほど嬉しいのか、笑顔満面で僕にドヤ顔を見せてくれる次男坊。 でもこの子の屈託の無い笑顔を見てると、胸の奥が痛くなってくる。

失敗してだらしのないパパでごめんな・・・って。
この息子のためにも、もっと頑張らなきゃ。

僕は次男坊の身体をギュっと抱きしめた。


第4話につづく・・・


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