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『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』島本理生

実は、この本を手に取るのは二度目だ。

一度目は、姉に借りて。
二度目は、長い夏がようやく終わり、読書の秋・食欲の秋が到来した、10月。
食思が刺激されるような本が読みたくなり、何か良い本ないかな〜と出向いた地元の図書館で再会した。

図書館や本屋さんの
まだ読んだことがない本が
ずらっと並んでる景色が好き
📚

私の地元の図書館では、
通常借りられる冊数の上限は6冊に設定されているが、貸出カウンターに「10月は、10冊まで借りられます」と張り紙がしてあって、なんだか嬉しくなった。


私は、お気に入りの本を何度も読み返す習性がある。

ふとした時に「あ、今この本読みたいな」という瞬間があり、家に帰ると本棚から引っ張り出してくる。

推しがいる人にとってのライブであったり、お酒好きな人にとっての行きつけの飲み屋だったりのような、日常の中で自分を元気づけてくれる存在が、私の場合本棚に並ぶお気に入りの本たちなのである。

「もう一度読みたい」を抱いた本、島本理生さんの『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』。

ハードカバー
📕

まず何と言っても食事シーンの描写が甘美で瑞々しく、食欲に向けてダイレクトにジャブを打ってくる。

ビールは脳が痺れるほど冷えていて、白いモツ煮はふわふわだった。関東と違い、味が濃すぎず、柔らかい脂が溶ける。

雑多な居酒屋で茶色いものたちをつまみにビールを飲みたくなり、

トムヤムクンには大きな海老が入っていて、酸っぱくて辛い味が食欲を刺激する。ワイシャツの袖を捲った男の子と、ちょっとだけ汗かいてきた、と言い合いながら食べていると不思議な感じがした。

スパイスや香辛料が効いたアジア料理が食べたくなる。

季節折々の料理を挟んで交わされる知世と椎名さんのコミュニケーションは、食事同様に甘美で瑞々しく、艶やかだ。

すれ違う時や衝突する時もあるが、一晩寝かせたり、何か一つ調味料を加えれば、きっと美味しいものが出来上がる。

どこへも行ける孤独だってあるだろう。だけど、どこへも行けない孤独だってあるんだ。

恋愛の行方はわからないけれど、美味しい食べ物はいつもそこにあり、私たちはいつだって旅に出られる。

もしかしたら一緒に焼き鳥が食べられるって、一緒に生きていけるくらい大きなことなのかもしれない。

柿のタルト
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