人間としてあり得ない

初めて焼肉ライクに行ってみた
金曜日だからかやけに混んでいる
ひとりです、と駆け寄ってきた店員さんに申し出たら、少々お待ちください、と言われた
おとなしく狭苦しい入り口で待つも、なかなか呼ばれない
とにかく腹が減っていた
たかだか五分だか十分だか大した時間ではなかったのだが、空腹には堪えた
目の前で次に来た人が満席を理由に入店を断られていた
あれ、私は?
しばし逡巡したが、ここが無理ならあと三十分でラストオーダーとなるお店に行きたいと思い、他の店員さんに声をかけてみる
あの、待っててと言われたんですが……
それはもうたどたどしい
低血糖なのか、頭も舌も回らなかったのである
すると店員さんは、鋭い目つきで私を貫いた後、
いつ席が空くかはこちらでもわかりかねますので……
と、私を裁くように言った
瞬間、私の脳みそは沸騰して頭蓋から溢れ出した
ゴリラがうんこを投げるように、体を伝い落ちていくぷるぷるの脳の破片を両手に引っ掴んでは店員さんと厨房に投げつけながら、私は喉から声を捻り出す
じゃあッ、最初からそう言ってくれますかァ?
そんな言葉しか奏でられない声帯なら潰してしまえばいい
レモンサワーにでも絞り入れろ
退店しようと踵を返す折、ひとり席のパーテーションを外して談笑している高校生二人を見た
死ね!
口から出そうになったがかろうじて抑えた
そんな言葉しか紡ぎ出せない言語中枢なら焼いてしまえばいい
ちょうどそこにロースターがあるだろう?
急いで第二希望の個人経営のローストビーフ丼屋さんに駆けていったが当たり前のように照明が灯っておらず、何かの間違いじゃないかと思って扉に書いてある営業時間やインターネットに記載の営業時間を何度も見直し、その全てに本日は営業日でラストオーダーまであと二十分はあると書かれているのに、無情で無慈悲な現実だけが眼前にあって、地団駄を踏んで泣き喚いてしまおうかとさえ思った
駅前のキッチンカーでタコライスを買って帰った

さて、買ってきたタコライスはとにかく量があり、なるほど前後が若い男性サラリーマンだっただけはあるなと思いながら完食する
あすけん二日目にしてもうカロリー超過を起こすやつ、居るんだ
最初の数日は頑張ってみるもんじゃないのか?
まあとりあえず腹十二分目まで到達することで見えてくる景色がある
ヤッホー!
……いや、にしたって人間としてあり得ない態度じゃなかった?
嫌なやまびこだな
店員のことか?
……いや、お前のことだよ、普通に
確かにイライラしてしまったが、待てと言ったのは向こう側なのに怒られるのも理不尽じゃないか?
……いや、忙しくて手が回らないのに怒られる店員側だって理不尽だと思ってるよ
そうかもしれないけど……客としてはそんなこと知らなくない?
……いや、店員としても、お前が来るかどうか迷いに迷ってあすけんに食べてもいない献立を打ち込んでなんとかミスジとハラミのセットならカロリー適正だという解に辿り着いて満を持してペッコペコのお腹でやってきたなんてこと知らないし、躁鬱病で絶賛躁状態、テンションは高いが沸点は低いことも別に知らないよ
誰が準備万端腹ぺこメンヘラだよ
いや言ってないが……いや言ってるか
まあ確かにお腹が空いてて、躁状態で、より怒りやすかったのかもしれない……
いやていうかさ、店員も、高校生も、みんなお前より若いよね
え、そうかな……そうかも……
いやあのね、誰よりも年齢的には大人なのに誰よりも子供じみた行いをしてるのが人間としてあり得ないって話なの
更に言ってしまえばお前は誰よりも年上だから威張っているフシまである
最悪だよ
お前にも安いチェーン店で長居する時代があっただろ?
お前にも繁忙日の接客で余裕がなくなった思い出があるだろ?
お前にも、若い子に当たる大人に冷たい視線を向けた過去が!
なんで経験があるのにわかってあげられないんだよ
無駄に年だけ食ってきたんだな?
焼肉もローストビーフ丼も食えなかったのに
お腹空いたくらいでイライラしたりすぐにキレ散らかしたり駄々をこねたりが許されるのは乳幼児までだ
お前は人間としてあり得ない存在なんだよ
重ねた歳月に逆行してるんだからな

ぎゅう
(※これは、ぐうの音が出なくてぎゅうになってしまったのと、牛肉をかけた、抱腹絶倒の、ユーモアです!)

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