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雑感109 村野藤吾の建築美

 「好きな建築家は」と問われたら、村野藤吾と宮脇檀と答える。村野藤吾は美術館のスロープで、宮脇檀は書籍に載っていた1/20の詳細図面(部分)を見て、美しいと感じたからだ。この美しさは、いわゆるキレイではない。言葉にならない心地よさとしか言い表せない、感覚的な感動である。
 まだ建築の楽しさを知らなかった頃、神戸の兵庫県立美術館王子分館に行った。新設の兵庫県立美術館が建設されていない時で、村野藤吾設計だとは後から知った。
 チケットを買い、1階の展示を見て、案内のとおりに進むと、ゆるやかなスロープがあった。白い壁、手すりにもなる白い腰壁、間には柔らかいグレーのカーペット。幅は広く、校外学習で来館した学生がいても余裕があると思われた。ただ上りやすいだけではない。このスロープこそが芸術品だと思った。
 この時の展示品が何だったのかは覚えていない。わたしはスロープだけを覚えていた。
 新しい県立美術館が建設されるにあたって、この分館の存続が問われたことがあったように記憶している。横尾忠則現代美術館として改修されたようだが、あのスロープは現役のようだ。兵庫県立美術館王子分館のホームページには、わたしが惚れたスロープと、村野藤吾の特徴ともいえる柱の写真がある。
 昨日、建築史専門で村野藤吾研究をされている笠原一人先生の講演に参加した。建築設計だけではなく、インテリアや家具のアイデアも村野藤吾はたくさん持っていた。笠原先生は村野藤吾をリアリズムと言われたが、わたしは塩梅の人だと思う。スライドの図面には細かい数字が並んでいたが、実用と心地よさの両方を兼ね備えた、魔物のような心地よさが潜んでいると思う。


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