【話題の最新論文解説】歯周病菌が認知症の原因ってホント!?②
前回の記事
【話題の最新論文解説】歯周病菌が認知症の原因ってホント!?①
の続きです。
"Receptor for advanced glycation end products up‐regulation in cerebral endothelial cells mediates cerebrovascular‐related amyloid β accumulation after Porphyromonas gingivalis infection"
こちらの論文の簡単解説になります。
まずは現段階で分かっている事と分かっていない事の整理です。
①アミロイドβとアルツハイマー病の関係
まず、認知症!認知症!と煽ってますが、認知症にも種類があって、この研究ではアルツハイマー型認知症をテーマとして取り扱っています。アルツハイマー型認知症というより、アルツハイマー病がメインテーマです。
急に”アミロイドβ!”なんて単語が出てきましたが、ちゃんと解説します。
アミロイドβは時々”老人斑”などと呼ばれることもありますが、厳密にはアミロイドβと”老人斑”は別物です。アミロイドβって物質が脳内に蓄積されることで、”老人斑”になります。と厳密には違うのですが、”老人斑”って日本語になっている方が、なんとなく馴染みやすい気もします。
この”アミロイドβはアルツハイマー病の原因物質”
と呼ばれることがあります。
でも、実際は”原因物質かも”です!!!
これは大変重要です!!!
完全に原因物質と決まったわけじゃないんですね。
確かに、アルツハイマー病の人の脳みそを確認すると、80%の人がアミロイドβの蓄積がみられるんですね。
え?じゃあ残り20%の人は?
↑このツッコミが ま さ に 大事です!
残り20%のアルツハイマー病の人にはアミロイドβの蓄積がみられないんです。はて、それなのに、アミロイドβが原因物質って断定出来ますか?
出来ません!原因物質かもね!なら良いと思います!
また、アルツハイマー病じゃない高齢の方の脳みそを調べてみると、53.8%の方にアミロイドβの蓄積がみられたんだそうです。
ますます「原因物質?ホンマかいな??」
ってなりますよね。
(このあたりに興味があれば、アミロイドβを標的にしたアルツハイマー病治療薬アデュカヌマブについて調べてみても、面白いかもしれません。)
という感じで仮説ではありますが、
アミロイドβは認知症の原因物質と考えられてます
②アミロイドβが脳内に移動するには障害がある!
アミロイドβが認知症の原因物質だと仮定して話を進めます。
アミロイドβは筋肉の細胞とか、皮膚の細胞とか”体の中”で作られるそうですが、”脳内”に蓄積するためには、”ある障害”をクリアしないといけません。
その名も
血液脳関門
ブラッド・ブレイン・バリア
blood-brain barrier
略称BBB
名前がカッコいいですね~必殺技みたいで(笑)
”脳”という臓器は非常にデリケートな臓器なため、血中の有害物質が入って来ないように、防御機構があり、それをBBBと言います。言うなれば濾過装置のようなものです。
そして、その役割は”脳内皮細胞”という細胞が担っています。
濾過装置と言いましたが、
脳内皮細胞は必要なものは、外から内へ、運び入れ
不要なものは、内から外へ、運び出す
という非常に複雑な仕事をしています。
BBBの説明はこれくらいにして、
アミロイドβは、このBBBを通ってしまうことが分かってます。
具体的にどうやって通るのかが重要で、
・血管内から脳内に入るためには、
RAGE( receptor for advanced glycation end products:終末糖化産物レセプター)と呼ばれるタンパク質にアミロイドβがくっついて、入ります。
逆に
・脳内から血管内に出すのは、
LRP1( low‐density lipoprotein receptor‐related protein 1)と呼ばれるタンパク質にアミロイドβがくっつくことで、排出されます。
おい待て待て!
急にRAGEだのLRP1だのどっから出てきたんや!
ってご意見はごもっともです。
RAGEやLRP1というタンパク質は、
細胞内で作られて、
細胞膜に配置されています。
ともかく、
このRAGEとくっついて、アミロイドβが脳内に入ってくるって事が分かってます。
③アルツハイマー病の人の脳内皮細胞では、RAGEが増えている。
「増えてる」ってどういう事??
となると思います。
先程、RAGEやLRP1というタンパク質は細胞内で作られると、言いましたが、
細胞内では頻繁に次のような事が行われてます。
1.”転写因子”と呼ばれるものが細胞の核に入ります。
2.核の中でDNAの情報を読み取り、RAGEなどのタンパク質を作ります。
※イラストはあくまでイメージです。
このように、細胞の中では次々とタンパク質が作られており、
細胞膜に配置したり、
細胞の外に出したり、
細胞の中に留めておいたりしています。
そして、その作られるタンパク質の種類や量も、
”条件”に応じて、調整されています。
なので、「RAGEを作れ~!」って命令が多ければ、RAGEの量も増えるんですね。
アルツハイマー病の人(マウスでの実験でも)の脳内皮細胞では
RAGEが多い(アップレギュレーションしている)ことが分かっています。
④ここまでのまとめ
①~③で分かっていることの説明を図にすると、こんな感じ。
”相関関係”と”因果関係”ってのは違うので注意して下さい。
相関関係と因果関係の違いについては、そのうち記事にしたいと思っています。
⑤歯周病とアルツハイマー病の関係
『歯周病の重症度』と『アルツハイマー型認知症の認知機能低下』との”相関関係”については多くの研究が示しています。”相関関係”を簡単に説明すると、
歯周病が重症化すると、認知機能が低下するのか、
認知機能が低下すると、歯周病が重症化するのか、
はっきりしないけど、関係してそうですね
ってことです。
認知機能が低下すると、歯磨きなどをしっかり出来なくなってくるので、そりゃあ歯周病は重症化するでしょうね。
ということで、認知機能低下→歯周病重症化はあまり注目されません。
今回の研究もそうですが、歯周病重症化→認知機能低下を証明できれば、予防が可能になるかもしれないので、そっちを特に研究されている状態で、まだハッキリしてない状態です。
⑥マウスの実験だと・・・
歯周病については、今回は詳しく触れませんが、
P. ジンジバリスってのは、俗に歯周病菌と呼ばれる事が多い菌です。
P.ジンジバリスはLPSと呼ばれる毒素を持っています。
このLPSを、マウスのお腹の中に直接、毎日、5週間、投与し続けたって研究では(今回の研究と同一の研究者)、
アミロイドβの蓄積と
マウスの記憶障害
が確認されています。
マウスを認知症と診断するのは難しいので、”記憶障害”って事だと思います。
・・・毎日毒をお腹の中に注射されたら、
なにかしら異常は起きそうじゃないですか?
ですので”記憶障害=認知症では無い事”も注意が必要です。
⑦まとめ
ここまで、まとめると、下図のようになると思います。
はーーーなるほどね!!だいぶ整理されましたね!!
「え!?ここまで分かってて(分かってないことも、たくさんだけど)
今回の研究で何が分かったの?」
今回の研究のメインは、ここです!!(赤丸の矢印)
そして、その実験は”細胞を試験管内であれこれする実験”と
”マウスであれこれする実験”です。
最後は今回の研究内容に少し触れましたが、
どこまで分かってて、
どこが分かってないのか、
整理されたと思います。
今読んでくださっている読者の、総じての感想は
意外に分かってないことだらけで、曖昧なんだな
だと思います(笑)
現代科学では、そんなもんです(笑)
では次回はこの研究での実験を詳しく見ていきましょう!
実は次回が理解しやすくなるように、今回の内容を作っているので、
今回の内容を読んで面白かったら、次回も是非!
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