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歴史小説「Two of Us」第4章J‐19

割引あり

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第4章 Foward to〈HINOKUNI〉Country

J‐19

 【玉造屋敷大脱出計画】に加担していた親子の庭師に対する事後処理が、細川忠興ガラシャ珠子との考え方や判断が、まるで違っていた。
 領主として乱世を生きる忠興にとっては、生かしてはおけぬ存在は口封じに斬首する。そこが、今も珠子は恨めしく機嫌が悪くなる原因なのだ。

 殺生する必要はなかった、と主張するガラシャ珠子に忠興は、平謝りに謝罪を繰り返した。珠子だけでなく伊達政宗さえ、予想外の態度だった。
「悪かった。許してくれ。
 命の恩人である故、珠子は生きていて欲しかったのだな❓
 すまぬ。この通りだ。謝るぞえ。
 若い庭師が善からぬ計画を立てておると、珠子の侍女のオクが報せてくれたのだ。活かしてはおけぬ情報であったが故、生駒山の方へ呼び出して口を封じた。珠子の計略に加担しているとは知らなんだ。すまぬ」


 忠興も、ずいぶん穏やかに鷹揚に成ったものだ。
【感癪持ち】の異名を授かるほど気が短かくって、明智や細川の父上達にも『むやみな殺生は止めろ!』と云われたくらいだ。
 そして、その短気具合を自分自身の個性として自己肯定している所もある。名刀の中太刀『歌仙兼定』の命名の由来も、愛する嫡男や珠子を尊大に傷つけた家臣を、36名も斬首したので【三十六歌仙兼定】から採ったものだった。
 【元和の偃武】を迎えると、忠興もここまで素直に謝罪するものなのだ。

 先程まで、ムッツリと機嫌が悪くなっていたガラシャ珠子。運ばれて来たお膳立ての甘味菓子を見るなり、やっぱり表情をほころばせた。
 政宗に向かって、にこやかに頷いた、珠子。


佐藤錦(サクランボ)

  
 日本酒のシロップ漬けしたサクランボの『佐藤錦』を口に運ぶ。
 仙台藩では他藩との交流のため、氷室にてこの『佐藤錦』の酒シロップ漬けを、城内で常時造らせている。
 
 名前に掛けているのか、『こんぺいとう(Com-Feito)』の材料でもある大量の砂糖は、実はまだ南欧を通じて交易している大英帝国から密かに取り寄せている。

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