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名作『クリスマス・キャロル』を、44歳にして初めて読んでみた

こちらは、「稀人ハンタースクール Advent Calendar 2023」に参加するために書いたエッセイです。カレンダーをクリックすると、「クリスマス」をテーマにした書き手のnoteを見ることができます。

ただいま12月18日月曜日。アドベントカレンダーの順番がまたまわってきた。17日間続いているこのリレーを、私の失態で途絶えさせるわけにはいかない。ひたすら焦る。13時半、課題図書をようやく読みきった。

その本は『クリスマス・キャロル』(チャールズ・ディケンズ著、脇明子訳)だ。

子どもの頃からタイトルだけは知っているものの、恥ずかしながら44歳になるまで読んだことがなかった。

稲垣潤一の曲『クリスマスキャロルの頃には』は知っているのにだ、なぜ大本の作品を読むことを避けてきてしまったのだろう。

理由として、私は本を読むのがとても遅い(ライター仲間は読書家が多いので、穴がそこにあったら羞恥心なく堂々と隠れられるほどのコンプレックスと自負している)。

さらには『クリスマス・キャロル』は海外文学。翻訳が読みにくいとなったら苦手意識が勝ってしまう。でもだ。私は今ライターとして活動している。自分にとって読みにくい文体だからと逃げてはいけない。むしろ食らいついていかねばならない。

このアドベントカレンダー企画をいいきっかけにしようと決めた。

2023年12月。『クリスマス・キャロル』を手にとり、初めて目を通した。

読了すると、さわやかな涙が頬を伝っていた。“いい大人”である今、このタイミングで読めて本当に良かったなと心から思う。


クリスマスといえば、イエスキリストの生誕祭でキリスト教徒にとっては大切な日。でも日本人にとっては、単なるイベント事のひとつになっている。

だから、どんなふうに過ごしても自由だ。豪華なお料理を作って家族や友人にふるまってもいいし、別にいつもと同じ食卓だって構わない。

「クリスマス、おめでとうー!」と、プレゼントを交換して、歌って、踊って、ワイワイ騒ぐのもいい。静かに一人で過ごすのもいいだろう。

私はというと、ある年はモスチキン、ある年は近所の居酒屋のオードブルを注文などし、クリームシチューとクリスマスツリー仕様にしたポテトサラダを作り、フルーツ盛りを準備。100均で買った三角帽子をつけてプレゼントを渡して、子どもたちと一緒にささやかにクリスマスの雰囲気を楽しむのが毎年の恒例となっている。

以前住んでいた地域では、毎年ご近所ファミリーで集まり、コストコで買ったり一品持ち寄ったりしたクリスマスパーティーを開いていたな、なんて懐かしく思い返す。

気の置けない仲間や家族同然の友人たちと大勢でワイワイ過ごすクリスマス。あの空気感が純粋に楽しかったな、なんてしみじみと思う。

一方で、にぎやかな雰囲気が苦手という人もいるだろう。それはそれで、構わない。でも「けっ、クリスマスはキリスト教のイベントだろ?なにはしゃいでんの?」と、純粋に楽しんでいる人たちをあざ笑って、いちいち、場の雰囲気を壊すようなことを発言する人もいる。あれは一体なんなのか。

『クリスマス・キャロル』を読むとびっくりしたのだが、この“冷めた”側の人間が主人公だった。

人の心が一切なく、金儲けのことしか考えていない、初老の商人スクルージ。クリスマスイブの夜に突然現れた、過去・現在・未来の“幽霊”に誘われて、行き着いた場所の光景を眺めたことをきっかけに、心を入れ替えて幸せなクリスマスを過ごすといったストーリー。

人生にとって何が幸せなのか、何をいちばん大切にして過ごせばいいのか、そのヒントがたくさん散りばめられている物語だった。

子どもの頃に読めば、スクルージみたいなこんな大人にはなりたくない、クリスマスは思いっきり楽しく過ごしたい!と思うだろう。

大人になってから読むと、なぜクリスマスを楽しく過ごそうとお金も時間もかけて準備するのか、その意味がよくわかるだろう。反対に、グサリと心に突き刺さるリアルな描写もまた、たくさん登場する。自分たちだけ浮かれてばかりじゃダメだという現実にも気付かされる。

特に政治家に読んでもらいたいな、なんて思ってしまった。あと我が夫にも。

でもスクルージみたいな人は頑固だから、人から薦められてもきっと読まないんだろうな。もったいないな。素直になって心を入れ替えれば、人のあたたかさに包まれた楽しい人生が待っているだろうに。


名作とされる文学は、やっぱり読んでおかなければと思い知らされた。『クリスマス・キャロル』は、特に描写や比喩表現が実に見事で、幽霊が出てくるところから、頭の中でぶわあっと情景が広がって終始ワクワクして読み進めることができた。未読の方がいたら、クリスマスの夜にぜひ。

個人的次回のクリスマス課題図書は『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー著)。引き続き、名作を楽しもう。


次は、さおりす へバトンタッチ!
心が動くままに素直な文章をしたためる、エッセイの名手。

二度目のエピソードはどんなストーリーが繰り出されるのか、お楽しみに!

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