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美しい女シリーズ002:夫の愛人に中元を贈った女

七田苗子の今日の一曲。映画ラタトゥイユから…Le Festin(曲紹介下記)
何となく“曲の雰囲気が文章を妨げないもの”を選曲してみた。


大正時代に生を受け、昭和を駆け抜け、平成そして令和を結んで生きる…今日はそんな美しい女のお話。


『妾』めかけ… そんな言葉を知っているだろうか。
私はこの妾という響きが ”愛人”よりも遥かに艶めかしい様な気がしている。

大正時代に生まれ 18で とある家に嫁いだ初音は、当時にしては少し遅めの嫁行きだった。小柄で少しふっくらとした頬…嫁いだ殿方はすらっとした紳士で 誰もが足を止める そんな人だった。嫁いでから その殿方は初音の事を ”僕のワイフはね…”と自慢げに語る。5人の子供に恵まれ 忙しい日々の中 初音は強く生きていた。真ん中の三男坊…白雪王子と言われたくらいに肌が透き通り生まれてきたのが、他でもない 私の父だ。そう、初音は私の祖母である。

子供たちがそこそこ大きくなった とある初夏。初音の耳にちょっとしたうわさが舞い込んできた。
”夫の妾”の存在だった。
当時初音の夫は 社交ダンスの講師、書道の先生、乗馬の講師、その上英語の教師までしていた粋な人で 夜は行きつけのバーに友達と足を運ぶこともある 社交範囲の広い人。
初音はこの噂を 静かに聞いていた。彼女のこの時の心境は今となっては闇の中であるが、初音は 静かに聞いていた。それだけだった。

蝉が地面から這い上がる頃…初音はすくっと立ち上がり 出かける用意をした。小柄なその体に着物を羽織り、帯を締め 髪を結い。いつもの可愛い印象とは打って変わって、”凛”とした一人の美しい女性が立っていた。

”行ってまいります” 

そういって 凛とした初音は 優しく微笑み家を出た。静かに 優しく しかしながら 強く…。

彼女が向かった先は とある高級店。
”いらっしゃい。何かお探しですか?” 店員の問いかけに 微笑みながら初音はこういった。

”お中元のお品を一つ”


初音がこの品を手に 叩いた戸… 夫の行きつけのバーだった。
そう、あの噂の妾がいるバーだった。

初音は戸をくぐると 少し口元を前に突き出すように ゆっくりと微笑みながら一人の女に言った…

”いつも主人がお世話になっております。”

想像してほしい。女の艶やかしい微笑と共に 夫の妾に発せられたこの言葉を…選び抜かれた優れたお中元を 差し出しながら。

初音の心の海が 荒れていたのか 沈んでいたのか、力強くうねっていたのか…孫の私には分からない。ただ、彼女が最高の笑顔で 凛と立っていたこと、この日の初音が 際立って美しかったこと、そして彼女が夫の妾にお中元を”贈った”事実は くっきりと残っている。

その後 初音の夫の夜出かけ回数がぐっと減ったという。その後ろで、やんわりと そして凛と立つ ”美しい女”…初音がいたことは言うまでも無かろう。


結局お妾という程でもなく、ただ祖父のお気に入りだったバーの女性がお妾と騒がれていたことも分かった。孫の私としてはほっとしていたりもする。(笑)。


● 大正の女に学ぶ美しさ


今日の美しい女から教えられるもの...それは 荒れ狂う海でもなく、暗く澱み荒んだ海でもない。静かに無言で語る誇り高き海の姿だ。

時に“女の武器”という言葉を聞く。女と言うことを全面に出して 男と張り合ったり 男を落としたり...でも 女である武器 はそれだけではないと思うのだ。

自らの女としての誇り、女としての強さ 全てをひっくるめて”女の武器”なのだろうと思う。

それは、女だけに限らずに言うことが出来るという事も覚えていてもらいたい。女の物静かさを纏いながら 無言の笑顔が語る言葉は もしくは笑顔で語られる優しい言葉達は 時に刃よりも鋭い武器となるのだ。 

もし貴方が 周りの視線や言動で押しつぶされ 傷ついているのならば
もし貴方が 周りの挑発や理不尽さに 怒り狂っい 拳をあげているのならば
深い海に自分を鎮めるも 噴火寸前の山に上り詰めるのも…私は止めはしない…でもその前に一度…

大正の女を気取って 女の武器をつかってみろ。

自分を見下す者たちを 最高の笑顔を持って 無言で倒せ。
自分を笑う者たちを 最高の笑顔を持って ”怒る価値もないわ”と鼻で笑ってやれ。


●嘆く前に、怒り狂う前に…目の前の”愛人”に最高の自分で笑え


”愛人”が 愛人であっても、いじめっ子でも、嫌みな上司でも、誰であっても、その人たちに 自分を壊すだけの価値はあるのだろうか?分からないのなら張り合ってみればいい。暴力も 悲しみも自分を壊す…けれど、笑顔は誰も壊さない。自分を自ら壊す前に 自分の最高の笑顔を厭味ったらしく 自分の立ち向かう愛人に見せてみるといい。

私はいつも笑っている。でも、私は心が綺麗でも 純粋でも無い。多くの人のどす黒い部分で傷つき、泣いて、怒りながら 今の私が出来たのだ。だから私は 純粋に笑う時もあれば、そんなどす黒い人達を見下すためにも笑顔を使う。 純粋だけが美しいわけではない。凛と そして静かに 自分を真っすぐに持って 暴力でも悲観でもなく 笑顔で言葉を語れる女はまさしく

大正の美を持ち合わせた 『美しい人』

なのである。 

重要: 七田はいつも淀んだ気持ちで笑顔でいるわけでは決してないので、お間違いなく(笑)。案外能天気に笑っている率が多いので...でも…燃えたら怖いかも…だ。愛人に中元を贈った女の孫なので。 笑笑。

それと、七田には“愛人”の定義がある。それに乗せた“いい男”の定義もある。それらについては後々 気が向いた時お話ししよう:)。


今日の一曲は:Camille の Le Festin 映画:ラタトゥイユのサウンドトラックだ。フランス語で歌われるこの曲は、何となく足元が踊ってしまうようなもの。実はこの曲についてあまり知らない…笑。フランス語を専攻している娘がよく聞きながら自分の世界に浸っている…そこへ乱入するのが ちょっとした私の楽しみである事は ここだけの秘密だ。笑笑。


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