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1場面物語 つくづく、縁がない

縁側で足をプラプラやっていると、彼はにこやかな顔で隣に座った。

「西瓜でも」

などと言って、丸々とした西瓜を出してくる。

「おう。もらおうか」

私はそう言って野菜包丁で西瓜を切る。
風鈴が機嫌良くチリチリと鳴る。夏空の青が透けて、絵柄の金魚も良く泳ぐ。

「川で泳ぎたい」

彼は金魚を目を細め見る。
私は西瓜をサクサクと切りながら

「そいつはそこに捕らえたんだから駄目だよ」

と答えた。

「そうですか」

彼はにこやかにそう言った。
切った西瓜は甘くて上手い。
種を飛ばして距離を競う。

いつの時代も変わらない。
変わらない。

風鈴に夕暮れが透ける頃
彼はヨイショと縁側を離れる。

「次はなんだろ」

私は縁側にだらしなく寝そべりながら彼を見る。
にこにことした顔が夕日に輝いている。

「栗…ですかね」

「なんだ、やっぱり秋か」

彼が去ったあと、チリチリなる風鈴がやけに軽そうだったので見ると

「あーあ ついていっちゃったよ」

金魚はいなくなっていた。
つくづく縁がないなと思った。


サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。