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金鉱とつるはし、AIと教育

金鉱とつるはし

 19世紀のとある時代。アメリカ・カリフォルニアにおいて、新たな金脈が発見され、全土から人々がその地に押し寄せた。

 人々の目的は、もちろん金。農民や商人、果ては神父までもが今持つものを投げ打ち、手には鑿を、胸には夢を携え、遠き彼の地へ渡ったと言う。

 では彼らは、その本懐を遂げることが出来たのだろうか。捨て去った物を補って余りある輝かしい何かを、手に入れることは出来たのだろうか。

 この点について、歴史は口を開かない。彼らの末路を知る者は居ないのか、あれほど居たはずの人々の辿った道を、私たちは知る術が無い。

 ただ一つ、明らかなことがある。
 それはこの戦いにおける勝者が存在したと言うことだ。

 ゴールドラッシュ。この時代を勝ち抜いたのは、金を追い求めた人々ではなく、金を追い求める人々への道案内を買って出た人々、すなわち、つるはしを商品として売り歩いた者たちであった


AIと教育

 昨今、人工知能あるいはAIと言うワードが巷を賑わせている。

 人工知能が人間の性能を超過するポイントとされている技術的特異点、シンギュラリティの到達が謳われたことを皮切りに、グーグルの自動翻訳の性能向上、画像判別、音声認識などの技術が発達し、今や気づかない間に私たちの生活はAIに支えられつつある。

 現代におけるAI潮流の高まりは、厳密に言えば「第三次AIブーム」に分類される。
 人工知能の原理が発見された第一次、社会に適用されたものの扱いの難しさに打ち負けた第二次を経て今の時代に至り、新たな技術領域への到達(ディープラーニング)とコンピュータの性能向上と言う2点が相乗し、現在のブームを形作っている。

 そんなブームの渦中にあって、私たちがAIあるいは人工知能と言う言葉を目にしない日は少ない。そんな中でも一際目をひくのが、「人工知能についての知識・技術」を売る人々の存在だ。教育ビジネスと括っても良い。

 彼らの売り物は本や勉強会など、人工知能については知識を提供する場、自体であることがほとんどだ。人工知能そのものを売り出している人は、まずいない。

 新しいビジネスが出来たものだと一瞥するのは容易であるけれども、ふと立ち止まり、彼の時代と比較してみても、面白い。

 すなわち、ゴールドラッシュと第三次AIブームと、をだ。


勝つのは誰か

 先に述べたように、ゴールドラッシュの時代において金鉱を追い求めた人々がどうなったかは、知る由が無い。明らかなのは、つるはしを売っていた人々がその時代の勝者になったと言うことだけだ。

 おそらくこのことは、現在のAIブーム、中でもAI教育ビジネスについても敷衍することができることだろう。人工知能を学ぶ人々の将来が成功するかしないかは分からないし、結果如何に関わらず彼らは歴史に埋もれるだろうが、教育を執り行った人々は、この時代の勝者になることができるだろう


報酬

 AIという技術の敷居は低くなったとはいえ、それでも被教育の立場であれ個人の能力が相当必要とされる分野であることは間違いない。

 個人の能力がそれなりにあると言う前提に立てば、彼らは自らが金を追う立場であることを理解していない訳が無い。つるはしを売る人々の存在を認識しながら、あえて金を追い求める人々であるに違いない。


 では、何が彼らを駆り立てるのだろうか?


 ゴールドラッシュに時代にあっては、報酬は金、すなわち物質的な豊かさであった。それはまさに一攫千金、手に出来るかどうかは運否天賦だが、賭けに勝ちさえすればあらゆる望みが叶う、そんな性質のものだ。

 では、この時代における「金」とは何だろう

 そう考えてみれば、「AI界における金」とは、「知識」そのものなのではないかと思う。さらに踏み込めば、「現代における金」が「知識」と言うものに変質しているのではないだろうか

 物質的豊かさが最上であった時代においては、金鉱そのものがまさにそのまま個人にとって価値あるもの、金に転化された。

 けれども精神的豊かさが価値を持ち始めた現代においては、「知識」そのものが個人にとっての「金」に変容しつつあると感じる。



 「その知識を得てどうするのか。結果と目的の関係が破綻している。」

 しばしば人生の先達から発せられる言葉であるけれども、そも、論理が書き換わっている可能性に彼らは気づかない。

 「学ぶこと」、それ自体が目的となり、個人にとっての金となるならば、それを否定する論理などあるわけもない。


 この時代においても、つるはしを売る人は恐らく勝者となるだろう。
 しかしそのことは、金を追う人々の相対的不幸を意味しない。
 彼らにとっての金は、つるはしを買ったその瞬間から得られるのだから。

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