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勝手に1日1推し 199日目 「恋人たちの森」

「恋人たちの森」森茉莉     小説

マルハラって知ってます?マルハラスメント。凄すぎません、アレ?文の終わりにマルつけたらアカンのやって。怖いんだって。怒ってるんだって。マルつけた私。
へ?文章、崩壊しちゃうじゃん。
なら、「モーニング娘。」も「藤岡弘、」もどうするの?マルもテンもハラスメントなの?丸出しだけど、ダイジョーブ?

J-popの歌詞になりそうですね。はぁ、句読点に戦々恐々となる時代がくるとはねえ。

さて、どうして突然、この話題に言及したかというと、文章における句読点の偉大さを森茉莉さんの作品で再認識したもので、改めてハラスメントと言われても(?)句読点を使っていくという決意新たに、新年度もマルもテンもつけていこうと思います!

そのパウロの様子を、先刻から凝と見ている男が、あった。

「恋人たちの森」

かっこよ。ナニコレ?かっこよ。
一般的に「を」の後にテンつけないじゃん。「あった」の前にテンつけないじゃん。

「バタートーストを、片手に走る男が、いた。」

って、マジ劇的~。読点(テン)の入れ方次第で、マンガに出てくる遅刻しそうな昭和の描写が、いとをかし。
ちびまるこちゃんで言うと(?)本来、まるちゃんがドタバタ走るイメージだけど、一気に花輪くんがシャラーンと疾走しているイメージの方がしっくりくるっていう不思議(?)。
バタートースト片手に走る男の正体不明さが際立つ不思議。背後に何かありそうに思う不思議。

普段付けないところに付いていて、付いてないところについている。それだけで印象がガラッと変わりますね。素敵。昔話風でもあります。
マルは付いていて当たり前なんで、もちろん付いてます。

インパクトがあって、印象的でドラマチックな文章。現代小説では味わえません。雅です!

頽廃と純真の綾なす官能的な恋の火を、言葉の贅を尽して描いた表題作、禁じられた恋の光輝と悲傷を綴る表題作、「ボッティチェリの扉」「枯葉の寝床」「日曜日には僕は行かない」の4編。

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森茉莉さん作品は、学生時代に読んでました。「マリアのうぬぼれ鏡」とか「甘い蜜の部屋」とか。「贅沢貧乏」なんて、相反する言葉の突飛な組合せに、なんじゃこりゃ、って震えました。センスの塊。

本作については、ノータッチでした。BL研究者の溝口彰子さんが本作を「BLの始祖」っておっしゃってて、始祖って「始祖の巨人」以外に耳にしたことがなかったから、こりゃ大変だ、って早速読みましたYo!!

えーっと、「ヴェニスに死す」です。アッシェンバッハとタッジオって感じです。
少年愛。立場ある者と美少年の図。

コンプラ的に色々ある昨今ですが、物語の中でならば、もはや、様式美化してるジャンル。「BLの始祖」って言い得て妙。
ってか、そもそも、古代ギリシャから存在し、我が国では衆道という公然の文化まであったしねえ、みたいな。
西洋でも何世紀も前から美少年は画題として確立してたしね、美しい少年は神秘で禁忌なんだなあ。ですが、もちろん、STOP グルーミング!No 犯罪!

前述の通り、現代小説の読み易さに慣れてしまうと、冒頭から1つの文章の長さ、改行の無さ、みっちりギチギチに詰まった文字列にいささかひるんでしまうと思います。会話劇ではないので困惑してしまうかも。神視点?三人称?で第三者から俯瞰して語られる状況描写、人物描写。そして少しの心理描写。決して読み易いとは言えません。

それなのに、圧倒的な情景描写により、各シーンがまるで西洋画のようにまざまざと脳内に広がります。もちろん油彩で、です。
そして怒涛に押し寄せるそれらがまるで映画のように動き出すんです。景色が登場人物たちに命を吹き込んでいるんです。
だから、やめられないし、止まらない。ぐいぐい読んじゃいます!!

"狂おしい"って表現がぴったりで、もぉ、その耽美さといったら・・・。不道徳、不埒、不届き、3Fの甘美さよ・・・。
感性の素晴らしさ、表現の巧緻さに言葉を失います。文学が芸術と位置付けられる理由が分かり易く理解できる一作だと思います。

私、西洋文化がグイっと流入してきた明治~昭和初期の和洋折衷なカオスにどうしようもない憧れがあるんですが、当時を生きた人々も急速に進む近代化、西洋化に戸惑ったり、新しい生活への憧れがあっただろうなあって思うんですよ。
鎖国が終わり、人と文化の往来がオープンになるんだから、まあ、物理的にも精神的にも変化が余儀なくされたはずで、若ければ若いほどそれに敏感に反応するだろうし、順応性もあるよなって。
カフェで珈琲を飲み、スーツを仕立て、ベッドでクロワッサンを食べる。ハァ、うっとりじゃんか。そうなるじゃんか。お戯れをぉぉぉ。
パリに暮らした森茉莉さんだからこその西洋的暮らしの描写のリアリティも半端ないんだな。渋谷の部屋がパリのアパルトマンか、ってなるし、武蔵野の森がブローニュの森か、ってなるし、もぉ、とにかく、魅せれられっぱなしで。
でも、まぁ、そんな退廃的な生活が長くは続かないのが世の常。訪れる劇的な結末もドラマチックで古典的で絵になります。物語の続きを夢想せずにはいられない余韻にも感嘆のため息。ほぉぉ。

現在は、嬉しいことにWeb上でも同人でも誰もが小説を発表でき、近しい存在となりつつある小説家という職業だけれど、そんな今とは一線を画した時代の小説家たちの描く癖のある作品の魅力も忘れてはいけないなって思いますので、是非お試しくださいませ。

他作もパラパラ読み返してみましたが、同じような読点使いだったので、彼女のスタイルと思われる文体だけでも味わってみて欲しいものです。
そして、私は独特の感性全開の作品群を再度じっくり味わおうと思いました。

ということで、推します。


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