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【父が不倫した】父の携帯(vol.2)

「浮気調査」といっては大袈裟だけど、母、妹、私の3人で父の不倫の証拠を集めることになった。

「どうしても信じられない」

父の不倫を確信してから数週間、母は毎日私たちにそう言い続けた。交際期間も含めれば40年も連れ添ってきた自分の夫が“不倫している”という事実を、そう簡単に受け入れられないのも無理はない。しかしそうは言いつつも、母は、一度開いてしまった父の携帯というブラックボックスをチェックすることがやめられくなってしまっていた。

LINE嫌いの父がテキストでやり取りするツールといったら、携帯メールのみ。母は毎日、父の入浴中と、父が深い眠りについている深夜3、4時に携帯をチェックし、メールを読み続けた。最初は操作方法の違う父の携帯の扱いになれず、ただ、送受信BOXをチェックするだけ。たいていはどちらのBOXもほぼ消されてしまっていたが、優子からのメールだけは数件残っていた。

「声が聞きたい」
「10分でも15分でもいいから会いたい」
「浩一郎、愛してる」

スマホで写真を撮ると音が出てしまうため、母はメールの文面をスクロールしながら動画を撮り、それを妹との3人のグループLINEに送ってきていた。怒りからか、そのスクロールがすごいスピードだったり、画面を持つ手が震えていたり、時には泣きながら撮っていたいるのかな、と思うようなものもあった。

同時に、メールは消されていても、着発信の履歴は毎日しっかり残っていた。お昼休憩の時間帯、仕事が終わって自宅に帰宅するまでの間、時には出勤中の朝の時間帯にもお互いが何度も電話を掛け合っている。

母には「仕事が終わった」とか「これから帰る」とか、電話はおろかメールすらしてくることはないのに。

眠れない。食べられない。寒気が止まらない。

60手前の決して若くない母の体に異変が起きるのには、そう時間はかからなかった。

敵と呼ばれた私たち

父が履歴をすべて消していたのには訳があった。

実は私が大学生の頃、一度母が父の携帯を見て、浮気を疑ったことがあったらしい。その時はすぐに責め立て、父が逆ギレして話は終わり。以降、携帯の履歴をすべて消すようになったのだ。とはいえ、ロックをかければ済むのでは…と思うが、そこは世代が違うということなのだろうか。

初めて母から父に対して「許せない」という言葉が出たのは、母が送受信BOXの「ゴミ箱」に気づいた日のことだった。そこにたまたま、完全削除される前の、父の送信メールが残されていたのだ。

なにやら優子に対して謝罪をしていて、こんな文面が続いていた。

「今の優子の心境は、俺とは一緒になれない…でしょうか? どう避難されても仕方がないのだけど、優子が敵にヤキモチを焼くことは、俺にとって一番つらいことなんです。それ(敵)が原因で優子と暮らせないでいる。優子は自由の身なのに、俺が踏ん切りをつけていないから。本当に、ごめんなさい。ただ、これだけは言わせてください。後にも先にも優子だけ。その気持ちは変わらないです」

「許せない」というレベルではない。

自分の夫がほかの人にこんな文面を送っていたとなれば、私ならすぐに暴れている。

改めて説明するまでもないが、この文面で“許さない”ポイントは以下の5つ。

(1)「一緒になれない
逆を返せば、一緒になろうと話していたけど、喧嘩が原因でそう思えなくなったか? を問うもの。少なくとも父は「優子と一緒になりたい」とまだ思っているということ。
(2)「
これについてはまた改めて書きたいと思うが、兎にも角にも、40年も連れ添ってきた母を“敵”と父自ら呼んでいたことに、怒りを覚えないはずはない。
(3)「暮らせない
(1)同様に、母と別れて一緒に暮らしたいと願っている。あり得ない。
(4)「優子は自由の身なのに
結婚していること、家族がいることが自由を奪っているかのようなとんだ被害妄想。誤解のないように加えておくと、うちでは結婚で自由が奪われてしまったのは100%母のほうだと断言できる状態だった。
(5)「後にも先にも優子だけ
この時点で私の中では終了。母の40年をすべて否定した父を、許さないと誓った。

私にとっては、父を“敵”と定めるにはこのメールで 十分だった。

私ももういい大人だし、いくつになっても人が恋愛したり、時には不倫に走ることもあると理解している。理解しているというか、そもそも否定するつもりもない。私だって、クリーンじゃない恋愛もしてきた。ただ、母を「敵」と呼び、それを母が見てしまった以上、戦うしか選択肢はなくなった。

このメールがきっかけで、妹が私たちのグループLINEにつけたグループ名は「敵と呼ばれた私たち」。母が敵なら、私と妹、もっと言えば家族全員が父の敵だ! …とまでは思ってなかっただろうが、私の気持ちはそうだった。

そして、母にとっては一番の敵、優子の素性も明らかになっていった。




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