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【父が不倫した】「セックスしたかっただけ」じゃなかった(vol.5)

不倫相手の女性は一体誰なのか。

父の不倫が発覚してからというもの、母と私と妹は、毎日さまざまな推測をした。職場では多少繕っているのだろうが、父は決してコミュニケーション能力や社交性を十分に持ち合わせている人ではない。年齢的に考えても、マッチングアプリなどを利用した可能性は低いだろう。

となると、普段何気なく接する機会のある人か、昔から知っている人でないと関係を深めていくことは難しいだろうと考えた。

父親はバスの運転手をしているため、私たちは最初、

<候補①> 父が勤務するバス会社のバスガイド
<候補②> 父が運転するバスを利用している乗客
<候補③> 学生時代の(しかも、高校生までの)友人

という3つの候補を考えたが、先のコミュニケーション能力的な理由から、②はないだろうということになった。

そんな中、父が相手に送ったこんなメールを母が発見した。

「仕事が終わりました。お弁当箱を置いて帰りますね」

それ以前のやり取りが消えているため、はっきりとはわからなかったが、おそらく女性が父のためにお弁当を作り、お昼にそれを食べたのだろう。そのお弁当箱を置いて帰るということは、やはり「職場の人」の線が強くなった。

しかし、ひとつ気になったのは、女性から送られてきている文面を見る限り、決して若くはないだろうということ。

✳︎絵文字を変なところに入れている
✳︎句読点の位置がおかしい
✳︎誤字脱字が多すぎる
✳︎体の不調を何かとアピールしている


これらの特徴は、昔話題になった「おかんメール」に等しい気がした。

こんなことを言うと怒られるかもしれないが、バスガイドさんというと、以前は20代の若い女性が多い職種という印象があった。そのため、「バスガイドさんにしては、やけにおばちゃんのメールじゃない?」と妹に漏らした。すると妹は、「最近のガイドさんはけっこう年齢も幅広いみたいだよ」という。

私は、「じゃあ40代のバスガイドさんとかかな…よく60歳を前にした、孫までいる男と不倫したな…もしかして、W不倫かな」なんて思っていた。

その頃、私は勝手に父の不倫相手は「年下」の女性だと思い込んでいたのだ。

だって、自分が父の立場だとして、“浮気”なら、若い女性に行く。同じく60歳を前にした母が失っているかもしれない肌の張りだったり、まだ女性を捨てていないという色気だったり、女性はそういう外見的な部分が年齢とともに不利になりやすい。逆にいえば、男性は、いつまで経ってもそういう外見的な部分に性欲を掻立てられるのだろうと思っていた。

「セックスしたかっただけ」

父も男だ。そういう衝動がまだあったのかもしれない。

そもそも父がもうすぐ60歳だということを考えると、同年代や年上となったら、「おばあちゃん」と呼ばれていてもおかしくない世代になってしまう。事実、父も母も、姪っ子や甥っ子たちからしたら「おじいちゃん」「おばあちゃん」だ。相手の女性が母と同じような立場にあるとしたら、不倫などしないだろう。

ただ、いずれにしても、父の性格を考えれば、私や妹と同世代、つまり20代や30代の女性とそういうことができるとは思えない。となると、40代は過ぎているんじゃないか…W不倫か、相手は離婚経験がある人か、さらに悶々としていった。

正体

ある日、女性から父に気になるメールが届いた。

「これから◯◯◯◯で買い物して帰ります」

この「◯◯◯◯」というスーパーらしきお店の名前が、◯◯▲▲という実家の近所のスーパーの名前に酷似していた。

「もしかしてこれ、◯◯▲▲の打ち間違えじゃない? 県内に、◯◯◯◯なんてスーパー、ネットでは出てこないよ」

私はすぐに調べ、母にそう伝えた。

となると、母の敵は、すぐそばにいる可能性がある。わざとこちらの陣地に出向いてきて揺さぶりをかけているのか、本当に近所に住んでいるのかはわからない。しかし、妙な勘が働いた。

「絶対、近所に住んでると思う。もしかしたら、バスガイドさんじゃないかもよ」

その推理は的中した。次の日の夜、母が父の財布から期限切れの女性の免許証を発見したのだ。

最悪な相手だった。

両親と同じ小中学校を出た1つ年上の女性で、昔、仕事の関係でうちの実家にも出入りしていたことがある人だという。今はうちの家族がお世話になっているクリニックで事務員をしていて、職場も家も、実家からは目と鼻の先。母の親友が彼女と同級生で、町内ではある“噂”で有名な人だった。

「不倫の常習犯」

それが、狭い町内で与えられた彼女の称号。過去には職場の妻子持ちの男性と関係を持って仕事を失い、前の夫ととも彼女の浮気が原因で離婚。さらに、いくつかの既婚男性との噂も出回っていたという。

それだけではない。彼女の子どもたちは、私の弟や妹と同級生。妹たちからしたら、「友だちのお母さん」だったし、すでに孫のいる「おばあちゃん」だということもはっきりした。

「前に、『駐在所の裏の駐車場で待ってる』ってメールがあったけど、あれ、すぐそこの駐在所のことだったんだよ…バカにされてる!」

2人が逢引の場として使っていた駐車場は、実家のすぐ裏、母や姪っ子たちの散歩コースになっている場所だった。そんな近くで密会する…つまりバレてもいいと思っていたのかもしれない。もしかしたら、知らなかったのは母だけで、近所の人たちの間ではとっくに噂になっていたのかもしれない。そんな思いが、母の怒りのボルテージを上げた(実際、のちに弟が3年近く前には不倫現場を目撃していたことが明らかになるのだが、その話はまた改めて書きたいと思う)。

それより何より、私はこの時、「あいつ、本気じゃん」という怒りでいっぱいになっていた。両親の年齢にもなれば、あとは老後をどう2人で幸せに生きるかを考え始めていたはず。同時にそれは、どちらかがいなくなったら…という不安も隣り合わせだ。

そんな時に、興奮できる対象を“性欲のはけ口”として選んだわけではなく、ほぼ同級生の初老の女性を相手に、毎日「10分でも20分でもいいから会いたい」と、仕事帰りにただ逢瀬を繰り返す。

「セックスしたかっただけ」

この時ばかりは、そう言われるほうが100倍マシだった。父の不倫は、浮気ではなく、本気だったのだ。

正体が発覚したこの夜、母はただ、お風呂で泣き続けた。





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