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ウルトラメタorウルトラベタの時代

なんぼー:最近 “料理の再構築” が面白いなと思っててさ。

りょかち:料理の再構築ってなんですか?

なんぼー:例えば、このお店の青椒肉絲(チンジャオロース)。

りょかち:肉の上にピーマン...!なるほど、構成要素を一旦バラバラに分解して、自由に組み立てている料理ですね。「分解と再構築」、鋼の錬金術師を思い出しますね(笑)

なんぼー:再構築料理、最近よく目に入るようになったんだよね。例えば、卵かけご飯の上にカツを載せたカツ丼の再構築とか。肉じゃがの再構築とか。日本だけではなく海外でもトップシェフが取り組んでいたりするらしい。

りょかち:面白い!要素を分解したあとの、それぞれ組み立て方に個性が出るのが面白そうですね。

なんぼー:これってアイデアの作り方にもすごく似通っていると思うんだよね。アイデアって完全に新しいものではなく、「既存のものの組み合わせでできる」なんていうし。

りょかち:確かに。あとは、再構築されているメニューがキャッチーなのもいいですね。そもそもの料理に親しみがあるというか。

なんぼー:そうなんだよね。フランス料理とかってそもそも、素材の組み合わせにびっくりする料理が多くて名前もないものもあるじゃないですか。「◯◯の▼▼ソース添え」みたいな。だけど、みんなが知っている料理を再構築することで、味に関してはみんな知っているという構造になってる。むしろ、メニューを知っているからこそ、再構築にびっくりするっていう。

りょかち:既に人気のあるメニューを使って、革新的なことをするってなんか今っぽいですね。

なんぼー:そうそう。令和ってすごく “メタ的”な時代だと思うんだよね。TikTokでみんな知ってる音楽に合わせて同じダンスを投稿したり。映画も、ゲームの世界という誰もが知ってる世界観を下地にした『フリーガイ』が公開されたり、『レディ・プレイヤー1』も好評だったり。

りょかち:どれもエンタメヲタクの私としては大好きな作品ばかりですね。

なんぼー:それこそ、昔はそういった作品はヲタク向けだったんだよね。でも今は、世の中の情報量が増えて、多くの人の知識量がメキメキ上がっているから、メタを活用した作品も多くの人に見てもらえる。ゼロから新しい作品を生み出すのが難しい今、メタがマスになってきているんだよね。

りょかち:それで言うと、最近公開された『スパイダーマン ノーウェイホーム』はまさに、前提知識を必要とする映画でしたね。過去のスパイダーマンシリーズの内容を知っていないと面白さが半分も味わえない映画だったと思います……。

なんぼー:そういう作品を、マーベルが劇場作品としてやるのはすごいよね。前提知識を必要とするメタ作品は、作品の間口を狭めるわけだから。『アベンジャーズ/エンドゲーム』は全世界映画興行収入1位だから、世界で一番見られている映画ではあるけど、それでも、これまで映画を見てきたお客さんだけを相手にするような選択ができるのはすごい。

りょかち:『スパイダーマン ノーウェイホーム』を見て、改めてサブスク時代の映画だなと感じました。これだけ前提知識を必要とする映画が成立するのは、これまでの映画に簡単にアクセスできるからこそだなと。

なんぼー:そのとおりだよね。メタができるようになると、創作の幅が広がってすごくいいことだと思います。僕はミステリー小説が好きだけど、ミステリーだと、過去に使われたトリックを使うのはタブー。

そうすると、どんどんトリックが複雑化していくって問題があると言われていて。ミステリーだけじゃなく、これはいろんなジャンルに言えることだと思う。本当はシンプルなものが一番素晴らしいけれど、過去に様々なジャンルで色々な挑戦が行われてきた歴史があることで、手法が食い尽くされていく。新しいことをやろうとすると、複雑になる——というジレンマ。

だけど、メタな手法がアリになることで、過去の踏襲がOKになると、作品の中でできることが広がる。音楽も文学作品も、映画も、様々な手法が挑戦され尽くされた今、メタは一つの解決策になりそう。ちなみにミステリーには「メタミステリー」ってジャンルが2000年代ぐらいから出ているんだよね。たぶんトリックの問題もあってそういうアプローチが速く発達したのかも?

りょかち:なるほど。だけど、その先はどうなっちゃうんだろう。エヴァみたいに、超ヲタクしかわからない作品ばっかりになっても、偏りすぎな気がする。

なんぼー:一つの可能性としては分断を生むかもしれないよね。どんどんコンテンツがハイコンテクストになって、必要になる前提知識が膨大になって、そういう作品を楽しめる人と、そうでない人が出てくる。

りょかち:そういう兆しがあるから、今でもYouTubeで解説動画が流行るのかもしれないですね。スパイダーマンでも既にたくさん出てますし、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)映画のも沢山あります。

なんぼー:ブシロードの創業者の木谷さんの名言に「すべてのジャンルはマニアが潰す」というのがあってさ。昔、プロレスが、ハイコンテクスト化の歴史をたどったんです。元々プロレスはテレビでも放送するような人気コンテンツだったのが、歴史が長くなり、「因縁の対決」とか「あの試合で使った必殺技」とか、話題にあがるものがどんどんハイコンテクスト化していった。

それでどんどんサブカルチャーに寄っていって、売上も低迷した新日本プロレスを、ブシロードが買収して、改めて間口を広げるような様々な取り組みを行って大きく復活してるんだよね。今では世界的なコンテンツになってる。

りょかち:確かに、コンテクストは長くなるとある程度区切りをつけることが必要そうです。MCUも一連の大きな歴史は『アベンジャーズ/エンドゲーム』で一応終止符を打ってはいますね。

なんぼー:そうやって、メタは定期的にフェーズを分けてハイコンテクスト化を防ぐのかもしれないね。

りょかち:一区切りをつけながらもファンを引き継いで、物語を作り続けるのは確かに賢い。考えてみれば、前提知識を活用した作品は沢山ありそう。最近多い、名作ディズニー映画の実写化もそうですし、異世界転生ものもそうかもしれない。

なんぼー:異世界転生ものも、上手いメタの手法だよね。「◯◯の世界に転生」って、「◯◯の世界」がわかってるからこそ成立する。加えて、そこでベタなことをやっても、物語に新規性がある。

りょかち:うまい!愛の不時着とか、大流行しているコンテンツも、大筋はかなりベタだったりしますからね。

なんぼー:これからは、ウルトラヒットを打つならば、メタかベタ、どちらかに攻めなきゃいけないのかもしれないね。

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