香気に酔う遺伝子。
昨日、
庭の金木犀(キンモクセイ)の枝が道路側に張りだしてきたので
母が枝を一本切り、それを仏壇の花瓶の花と一緒に飾り直した。
彼岸の入り日である。
午前、お供え物を買いに近所のスーパーに母と行き、花と梨とブドウを買い、目についたのでパイナップルも買い、
結果として昨日から、仏間は芳醇な香りに包まれている。
仏間。
私は毎晩仏間で寝ている。
現在、ワケあって自分用の個室を持っていない私は、仏間が寝床で床の間が仕事部屋となっている。
ついでに言うとつい数ヶ月前までの数年間、原稿は茶の間の隅っこで描いていた。
その事を編集さんに驚愕されたのは2年位前だったと思う。「よく出来ますね」と。
「そう思うだろ?」って内心思った記憶があるけれど、それはとりあえず置いといて、
『香り』の話。
我が家では私も母も兄も
とうの昔に亡くなった母方の祖父母も金木犀の香りが好きだった。
花期が短いゆえに短期間だけれども毎年このために生きていると言っても過言ではなく。この時期はとにかく散歩の量が多いのである。
ひたすら深呼吸して、歩いている。
視力はこれでもかというほど弱いが、
嗅覚は鋭敏だと自負している。
夏から秋に移り変わる頃の、どこかさみしい外気の香りも、肌寒いのに厚着する気になれない、この時期特有の冷たい空気も好きだ。
10月は空も今以上に鮮やかになってくるので、歩き甲斐のある景色が増えてくる。
1月下旬の、太陽の光が和らぐ頃の雪が焦げるような匂いも好きで、寒がりなのによく外出するし、
陽光の輝度が、この辺りでガラリと変わっていくのが感覚的に判る。
2月後半からは土の匂いが強くなるので、春が近いのだなと感じるし、
草が伸びてくる頃には菜の花のつんとした香りも微かに感じるようになってくる。
桜に先んじて、近所の梅が咲く。
反抗期の女児のような、活発な香りがする。
梅が散る頃、満を持して桜が咲く。
他人の意見をものともしない香りがする。
実のところ花には全く詳しくない。
いつだったか、生花売り場でとても鮮やかな香りがしたので、バラの香りかと思って出所を辿ったら、全く違う花に行き着いた。
ジュワッとした発色の、黄色の花だった。
「ああ、それフリージアよ」と母が言った。
祖母もフリージアの香りが好きだったらしい。
その日、買って帰られたフリージアはいつものように仏間に飾られ、私もいつものようにそこに寝た。
深呼吸して、眠った。
・・・。
結局のところ、
年がら年中、香気は鼻孔を通り抜けていくので、これといって退屈した事がない。
飽きる前に季節は移ろうから、多分一生飽きないと思う。
金木犀の香りを、好きだと感じられる身体で良かった。
そういう遺伝子で、良かった。
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