何者でもないデザイナーが助けてもらうべきは、「公共」だったりする。

ちょっと新しい事や、面白いデザインを思いついた時に、すんなり自分だけの力だけでは全然太刀打ち出来ないことは多い。

憧れの有名デザイナーのインタビューなどをデザイン雑誌やその著書で読むと、そういう時には「若手時代の才能を認めて助けてくれるすごい人」というのがそれなりの頻度で現れる、でもそんな奇特な人は実際はほとんどいない。(だからインタビューがドラマチックになるのだ。)

自分が現実で「すごい人」に頼むと断られる事も多い。特に若いときはなおさらだ。その時はとても落ち込む。でも何とかならない訳ではなかった。もしかしたら、自分と同じ思いを今まさにしている人もいるかもしれない。そんな人に自分の経験が参考になれば嬉しい。

無謀なお願いは、往々にして断られる。

例えば、依頼された展示の仕事のために什器として新しい構造形態を持つ家具を考えたことがあった。鉄を使わないと難しい構造をあえて木のバラバラのパーツで自由に組み立てられるので、わりとアクロバティックな構造だった。しかし、設計図通りに作っても、構造的に成立せず、何度パーツを変えても崩れてしまう。期日も迫っていたので、途方に暮れて友人経由で、ちょっとした知名度と実績のある若手構造家に相談しようとした。が、返ってきた返事は「そんな遊びでデザインしている人に付き合っている暇はない」というつれないものだった。何をもって遊びと言われたかは今でもよくわからないが、ざくっと切られるようなダイレクトなお断りで、少し傷ついた。いや嘘だ。ものすごく落ち込んだ。

例えば、あるプロジェクトのために、ある職人に変わった形の小物の木工を頼んだことがあった。人づてに紹介を受けて、模型を持って指定された場所にお願いに行くと、待ち合わせに大幅に遅刻してきたその職人は全然話を聞かず、模型も一瞥だけして、「そんなの無理だ。ダメ元でやるのも無いと思うくらい、全然ダメだと思うわ」とだいぶつれなかった。アドバイスや、相談の余地もなく、5分で無理だと言われてしまった。その職人はその世界では有名人で、その人の作品を持っていたりもしたし、会う前にはワクワクしていたので帰り道がまるごととても悲しかったのを今でも覚えている。

ただ、「すごい人が自分に冷たかった」という話をしたい訳ではないのだ。どちらも、もし今自分が構造家や職人で、同じような相談を受けても自分の忙しさ等の状況によっては断るだろうと思う。何者でもない若者が、面倒な相談を、何のメリットもなく持ちかけたのだから。

先述の雑誌や本で読んだ若手時代の有名デザイナーは「有名デザイナーの卵」でいかにも才能があふれまくって有望そうだったから助けてもらえたのかもしれないし、すごいコネからの紹介があったのかもしれないし、それはわからないが、自分に何かが足りなかったのは間違いない。

公共を頼ること

それでもできることはたくさんある。「すごい人」に無理だと言われてもあきらめるのは絶対にもったいないと思う。そんな同じような事に悩んでいる人におすすめしたいのが「誰にでも開かれ、誰でも使える公共サービスに助けてもらう」ことだ。

構造家に断られた家具構造設計の時には、産業技術総合研究所という、その地域の中小企業を中心に技術的アドバイスをすることをミッションにしている独立行政法人の構造技術者に相談に乗って頂いた。こちらが送った図面データを元に、構造計算のシミュレーションと、対策方法の的確なアドバイスをくれた。オープンなものなので、誰でもアクセス出来る。(おそるおそる電話をした。とても丁寧に対応頂いた。)適切なアドバイスと対策方法を話し合い、こうすればいいという解決策を教えてもらえた。

職人に断られた木工は、さらに誰でも使えるサービスをつかった。それは東急ハンズの木材加工サービスだ。小物の図面と模型を持ち込み、何度も何度も通って、切り方や木材を試し倒した。ハンズのカットサービスと聞いて侮る人も多いと思うが、ハンズの木工はとにかく精度が高いのだ。(ある界隈ではとても有名。)カットサービスの人に顔を覚えられ、こちらの精度のリクエストと回数に辟易されながら、最終的に目指すものが出来た。有名職人に「そんなの無理」と言われ、あきらめかけていたデザインがハンズで実現出来てしまったのは、はっきりいって断られて悲しかった分、それは痛快だった。

断られる事はそこまで大きな障害じゃない。

想像だが有名デザイナーはきっと協力者には事欠かないだろう。それは例えるならば素晴らしいドライバーは高性能のクルマで猛スピードで目的地にむかうことができるということだ。しかし、誰にでも乗れる公共の交通機関を乗り継いでだって、根気と時間さえあれば目的地に到着する事が出来る。この事は忘れたくないなと思っている。

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