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【お題】20.告白タイム

「先輩!俺………来週から、部活の合宿で5日も会えないんです」

 カネチカは、部活から帰って来るなり俺に泣きそうな顔で告げてきた。今は夏休み。休み中もダンス部は熱心に活動している。特に夏はダンスのフェスやらなんやら開催されてて、そこに参加したりしているからだろう。………いや、冬も部活してるって聞いたような。季節関係ないのかもしれない。
「そうなんだ。がんばって」
 俺がそう言うと、カネチカは俺に抱きついた。
「5日も………先輩に会えないし、先輩を一人にするなんて……!」
「俺は大丈夫だよ。カネチカくんも部活の仲間と楽しくやれば良いじゃないか」
「だいじょばないです!」
 そう叫んで、カネチカは俺にケータイを見せた。そこには春樹とのやりとりが載っている。
「先輩は春樹さんのお家にお泊まりしてください」
「なんで?」



 というわけで、なぜか俺は春樹の家にお邪魔することになってしまった。しかも5日間も。いい迷惑じゃないか?と思ったが、春樹もその家族も(ひとりは寄生種だが)歓迎してくれた。カネチカ曰く、俺が一人でいるのが心配らしい。年頃のおっさんの何を心配しているんだろう。
「お世話になります。獅子王めけです」
 俺が挨拶すると、春樹の家族は(全員揃っていた)歓迎してくれた。その日の夜は、大盤振る舞いで、お腹がきつくなった。………まあ、嫌われるよりはいいだろう。そう思うことにした。

 お風呂をいただいて、春樹の部屋でのんびりしていると、同じく風呂上がりの春樹がやってきて、扇風機を回すと(エアコンは稼動していたのだが)「わ~れ~わ~れ~は~」と、変な声を上げていた。
「なんか、迷惑かけちゃって悪いね」
「え?なにがです?」
「いや、5日も泊めてくれって………迷惑じゃん」
「そんなことないです!嬉しいです。と、友だちじゃないですか」
 何故か春樹は頬を赤らめていた。………湯あたりしたのかもしれない。
「あ、そうだ。せっかくなんで、告白タイムしましょうよ」
 なにがせっかくなのか分からない。告白タイム?
「それって、好きな人に告白するやつ?」
「え?秘密の暴露じゃないんですか?」
 俺と春樹は、互いの認識の違いに戸惑いながら、好きな人の話をするということで落ち着いた。
「………春樹に好きな人がいるんだ。誰?」
「え?ちょ、まってください。めけ先輩から話してくださいよ」
 なぜか春樹は慌てて俺に振ってくる。
「俺の?って、今更カネチカくんの話しても仕方ないだろ」
「その……やっぱり、してるんですよね?」
「してるって?」
 モジモジしながら「キス、とか」と言う。
「うん。………放課後だったけど、学校でしたのは緊張した」
「え!が………学校で!」
「カネチカくんがしたいって………ああ、流されてるな、俺」
 もう少し時と場所に気をつけなくちゃ、なんて思いながら夜の砂浜でしてしまったのを思いだして、自分の貞操感がユルユルなのに気付き、落ち込んでしまった。
「———さすがに学校では、それ以上はしてないですよね?」
「それ以上?———春樹くん。君、シモネタ好きなの?」
 俺が意地悪を言うと春樹は真っ赤になって首を振りつつ、ピタッと動きが止まった。
「いや……人のことなら、ですけど。僕……まだアレがトラウマで…」
 いくら使節とはいえ、幼い身であんなことをされたらトラウマものだろう。
「そっか。学校ではしてないよ。………先日外でしたけど」
「そ、外ぉお!」
 ものすごい食いつきに、俺は苦笑した。
「うん。誰もいない夜の海辺で、そのあと家でもした」
 俺は、あんまりこういった話は好きじゃないが、春樹の反応を見てると面白くてしてしまった。はしたないなぁ、と反省しながら。
「外でも………家でも………はあぁ………」
 春樹は顔が真っ赤なまま、深いため息をついてペタンと座り込んだ。
「ごめんごめん。もうこの話はおしまい。で、春樹は?誰が好きなの?」
「えっ!………いや、その、誰ってわけじゃないんですけど…」
 春樹は、モジモジしている。なんとなく年頃の男の子っぽくて、見てて眩しい。おっさんの俺は、なんだか微笑ましくも感じてしまう。

「変なんです。さっきも言いましたけど、トラウマになってるくせに、こういう話に興味あるって……」
「そんなことないよ。普通だろ」
「で、でも………怖いんです。怖いのに、興味あるって………したいって事ですよね」
「好きな人となら、普通じゃないか?変じゃないよ」
 俺がそう言うと、春樹はふうと息を吐いた。
「………いつか、好きな人と、出来ますかね」
「大丈夫だよ。春樹」
 俺は、春樹をぎゅっと抱きしめた。いつか、そのトラウマが癒えるように願いながら。
「………めけ先輩」
 春樹が抱き返してきた。なんだかすっぽりと俺はおさまってしまう。こんなに細くなってたっけ?と、思っていると。
「めけ先輩抱き心地いいですね。正宗くんが抱きしめるのも分かる気がします」
 以前、プールで抱きしめられたことを思い出した。俺って抱き枕みたいなもの?
「ありがとうございます。もし、好きな人が出来たら、めけ先輩に言いますね」
「……うん」

 返事をしながら、なぜ、彼は体を離してくれないのか困惑していた。

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