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初めからここにあったもの

戸についてのお話。

現在のコメ書房のつくりでは、入口(建物東)を入って正面がカウンター、向かって左側(建物南)が壁となっている。これが元は、入口が壁、左側はほぼ全面がシャッターだった。納屋時代はそもそもこのシャッターが入口だったのだ。内装からはわかりづらいが、外から見るとあきらかにそうとわかる痕跡が残っている。

改装前の建物

雪国で扉の位置を決める際に考慮すべきは、屋根からの落雪の場所だ。この建物の場合、シャッターの側に雪が落ちてくることになるため、おのずと東側の壁を改装して入口にすることとなった。

入口に使用した戸

「初めからここにあったものを使えるだけ使おう」というのが私たちの改修コンセプトのひとつだったため、入口には、元々この場所にあった昔ながらの古い戸を使用した。使っていない戸がたくさんあったので、その中から一番いいなと思うものを選んだのだった。曇りガラスと透明なガラスのバランスが上品で、外から見えすぎないが、覗けば少し見える、という機能の点でも文句なしだった。オープンした後だったと思うのだけれど、近所のOさんから、その戸は昔、建具屋さんだったOさんのお父さんが作ったものなのだと伺った。

ちなみに、風除室の内側にある引き戸は出自が別で、氷見市の某所で開催された蚤の市で手に入れたものだ。ということはおそらく、氷見のどこかの家にあったものなのだろう。それはそれでいいなと思う。入口のものと同世代だと思われるその戸は、三段のガラスが入ったもので、今はここで活躍してくれている。この二種類の戸の使用を前提に、大工さんと建具屋さんには調整、工事を進めていただいた。

ニス塗りの助っ人

入口の戸はどうしても陽や雨風があたるため、何らかの強化が必要だった。その趣を台無しにするようなペンキは塗りたくなかったので、防水・防虫・防腐等に効果があるという柿渋を二、三回重ね、その後にニスを塗ることにした。この作業にも友人が手伝いに来てくれた(何度でも感謝を)。

外は雪

こうしてできた店の戸を開けて、六年間、たくさんの人が入り、たくさんの人が出ていった。店内からその戸を見やると、透明な箇所のガラス越しに、車やお客さんの姿がかすかに見える。くだらない記事を見ていたスマホを置いて、すっと姿勢を整える。ずっとこうしてましたよ、というような顔をして。

お客さんがほとんど戸を開けない日もあっただろう。冬の日、その戸のガラスを通して見た雪を、私はこの先も忘れられないと思う。「まあ、そりゃ、こないよねえ」などと呟きながら、静かに、ぼうっと、その画を見るのが好きだった。

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