見出し画像

《後編》アルマーニ/ シーロスにて開催、建築家・安藤忠雄の軌跡をたどる特別展:"Tadao Ando. The Challenge" in Almani/ Silos

後編は、2番目のメインテーマ「都市への挑戦」(Una sfida urbana)から始めることにする。

自身のことを「ゲリラ戦士」(guerilla fighter)とした安藤忠雄。

それは、モダニズムという建築のイデオロギーに反対したいからというよりも、安藤自身が変えたいものは、モダニズムの理論によっては完全には扱えないような矛盾に満ちた都市の実生活であるからなのであった。

数多くの個人の邸宅を設計してきた安藤であったが、それと同時に1990年代には多くの公共のプロジェクトにも携わることになったため、都市との新しい関係を築いていくことになる。

安藤にとって、都市とは、建築によって解決させるべきパズルなのであった。

まず「マンハッタンのペントハウス」(Penthouse in Manhattan I, unbuilt, New York, USA, 1996)。

こちらのペントハウス(アパートや高層建築の最上階のテラス付き高級住宅)の模型は、実際には、完成することがなかった。

その後、2010年代に入って「マンハッタンのペントハウス」(Penthouse in Manhattan III,  New York, USA, 2013-18)が完成し、このペントハウスが、安藤のニューヨークでの初めての作品となった。

残念ながら完成した方の模型を撮ることを失念したが、屋上階につながる螺旋階段とウォールグリーンが特徴的な作品となっている。

次に、「フォートワース現代美術館」(Modern Art Museum of Fort Worth, USA, 1997-2002)。

キンベル美術館に隣接するこちらは、安藤が国際コンペティションに勝利して建てられたものである。

こちらは、「頭大仏殿」(Hill of the Buddha, Sapporo, Hokkaido, Japan, 2012-15)。

北海道の真駒内滝野霊園の敷地内に作られたこちらは、大きな仏像を150.000本ものラベンダーの丘が覆うというユニークなもの。

外から見ると大仏の頭しか見えず、丘の中に入ってみると、空と大仏の顔が見えるという仕組みである。

★参考:真駒内滝野霊園公式ホームページ

「中之島プロジェクト II」(Nakanoshima Project, unbuilt, Osaka, Japan, 1988-89)。

こちは、水の街・大阪にて、実現することがなかったプロジェクトであるが、地元・大阪に対する思いを持った安藤によって、現在、児童図書館「こどもの本の森 中之島」のプロジェクトが進行中である。


3番目のメインテーマ「風景の創造」(Genesi del paesaggio)。

安藤は、「風景」を生み出すことを試みた。

それは、自然の力に委ねられるものではなく、抽象的な概念に由来するもの、無限の可能性を秘めた自由な世界における抽象的概念と具体的概念の間の対立を通して実現されるものなのである。

また安藤は、都市空間を作った共同体の記憶を強調するために、新しい側面を拡充していくことで時代の流れに沿ったアイデンティティを生み出すために、都市の自然や歴史的・社会的価値を学んだ。

こちらは、「大阪府立近つ飛鳥博物館」(Chikatsu-Asuka Historical Museum, Kanan, Osaka, Japan, 1990-94)。

博物館のある地域には、4基の天皇陵、聖徳太子墓、小野妹子の墓など、二百数十基の古墳群が存在し、飛鳥時代(592-694年)の歴史を学ぶ上で重要な地域となっている。


古墳文化の公開、展示、研究を目的とした博物館は、出土品を展示するだけではなく、その出土品がもとの古墳内にあった様子が再現され、来館者は見て歩いて歴史を感じることができる。

このような自然豊かで歴史ある地に、安藤による「平成の古墳」 が建てられたのであった。


★参考:大阪府立近つ飛鳥博物館公式ホームページ

「シャトー・ラ・コスト」(Château La Coste, Aix-en-Provence, France, 2006-11)。

フランスのエクス=アン=プロヴァンスのワイナリーの再開発プロジェクトの一環として建てられ雄大な自然に溶け込んだたこちらは、ミュージアムやカフェなどの機能を持っており、ジャン・ヌーヴェル(Jean Nouvel; 1945-)とフランク・ゲイリー(Frank Gehry; 1929-)といった他の有名建築家とのコラボレーション作品となっている。

そして、本展の目玉の一つともいうべき、「直島プロジェクト」

香川県香川郡の瀬戸内沖に浮かぶ直島諸島。

廃棄物の不法投棄に悩まされていた直島諸島であったが、1980年代末より、教育関連企業ベネッセコーポレーションが、瀬戸内海の離島・直島、豊島、犬島を舞台とした現代美術に関わる様々な活動を展開していくことになる。

その一連のプロジェクトの中には、安藤忠雄の地中海美術館や、廃屋を利用した家プロジェクト、草間彌生やSANAAによるインスタレーションなどがあり、海外の人々にも人気の一大アートスポットとなっている。


★参考:ベネッセアートサイト直島 ホームページ/ 「直島の知恵から作った、風が抜ける〈直島ホール〉」『Casa Brutus』(2016年5月17日付記事)

最後のメインテーマ「歴史との対話」(Dialoghi con la storia)

私たちは紋切り型の枠の中の建築の段階的な継承を目撃しているという。

しかし建築の文化的価値は、変わることなく残っているのであった。

まず『テート・モダン: コンペティション出品作品』(the Gallery of Modern Art, International Design Competition, London, UK, 1994-95)。

こちらは実際に建てられることはなかったが、大胆にガラスを使った作品である。

「ベネトン・コミュニケーション・リサーチ・センター」(Benetton Communication Research Center, Treviso, Italy, 1992-2000)。

こちらは、ファッションブランド・ユナイテッド・カラーズ・オブ・ベネトン(United Colors of Benetton)が経営するアートの学校ファブリカ(Fabrica)である。

もとはパラディオ式の(16世紀イタリア、17-18世紀英国の建築様式)邸宅であったものをリノベーションしたという。


実業家フランソワ・ピノー(François Pinault; 1936-)と安藤忠雄の一連のコラボレーション作品の写真(Collaborations between Tadao Ando and François Pinault)。

フランスのピノー財団は、財団の所有するコレクションのための美術館の設計を安藤に依頼した。


2001年当初、パリ西郊、スガン島のルノー工場跡地に建設予定であったが、行政的な問題によって計画は頓挫。


2005年、場所をヴェネツィアに移し、「パラッツォ・グラッシ」(Palazzo Grassi, Venice, Italy, 2006)、「プンタ・デッラ・ドガーナ」(Punta della Dogana, Venice, Italy, 2009)、「テアトリーノ」(Teatrino, Venice, Italy, 2013)が建設された。

もとは潟湖の上にあった島々を干拓し、作られたのが「水の都」ヴェネツィアである。

地形を活かし、中世に興隆を迎えたヴェネツィア共和国は、貴族による支配が行われ、セレニッシマ、晴朗きわまる所(Serenissima)という異名を持つほど、商業的・文化的・政治的な影響力を持っていた。

ところが、近世以降、イタリア半島の君主が政治的に弱体化すると、ヴェネツィア共和国の影響力も縮小し、洗練された文化だけがこの街に残った。

それでもなお、ヴェネツィアの文化はヨーロッパ中の人々を惹きつけていたこの地は、18世紀には時代を代表する作家カサノヴァ(Giovanni Giacomo Caanova; 1725-98)を生んだ。

「プント・デッラ・ドガーナ」は、水の街の交易を支えた関所として使われていた建物を改築して作られた現代アートの美術館である。

ヴェネツィアの中心サン・マルコ広場の向かいに位置するこの建物の起源は15世紀に遡るという。

安藤は、そんな歴史ある建物に大胆にもコンクリートを入れ、自然光によって照らされるように設計することで、過去と現在の対話のショーケースを表現した。

★参考:「2019年、パリに新しい美術館がオープン」『Casa Brutus』(2017年11月11日付記事)

藤内哲也『近世ヴェネツィアの権力と社会:平穏なる共和国の実像』昭和堂、2005年。

続いて、こちらも実業家フランソワ・ピノーとのコラボレーションによって現在進行中のプロジェクトである「ブルス・ドゥ・コメルス」(Bourse de Commerce, Paris, France, in progress)である。

パリ中心部にあるこちらの建物は、もともと18世紀より穀物取引所として使われていた。

ピノーは、この歴史あるドーム型の建物の形を変えることなく、美術館にするように安藤に依頼した。

安藤は、高さ10m、直径30mの大きなコンクリートの円柱を建物の中に入れ、そこに作品を展示できるようにした。


建物の模型を覗いてみると、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons; 1955-)のバルーン・ドッグのミニチュア模型と思われるものがあった。


安藤の描いた鮮やかなパリ。


最後に、今回ミラノの展示で初公開となった、安藤とアルマーニとのコラボレーション「アルマーニ / テアトロ」(Armani/ Teatro, Milan, Italy, 2001)も初公開する。

前編で書いた通り、このテアトロの建築が、アルマーニと安藤の出会いである。

このテアトロは、もとはアルマーニが所有していた古い工場を改築して作られたのであった。


特に最後のテーマ「歴史との対話」(Dialoghi con la storia)では、古い建物を活かしながら、新しい意味を付加していく安藤の見事な仕事を見ることができた。

ヴェネツィアの水没問題や日本の地震など、都市は、予期せぬ災害や地理的な問題によって破壊されたり、形を変えねばならない場面に直面したりする。

しかしながら、常に主人公は、「私たち」である。

人間の英知が都市に反映され、それが歴史の1ページとなる、そう考えさせられる壮大な特別展であった。


★参考:Vogue Japan(2019年3月25日付記事)

    Casa BRUTUS(2019年4月22日付記事)

    architetti.com(2019年4月10日付記事)

    io.donna(2019年4月11日付記事)

    japan-architects ブログ(2017年10月1日付記事)

    


Armani/ Silos

住所:  Via Bergognone, 40 Milan, Italy

開館時間:木、土:11:00 – 21:00(木曜・土曜)、11:00-19:00(水金日曜)、月曜火曜休館

公式サイト:armanisilos.com(日本語対応ページあり)

公式fecebook: armanisilos


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?