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第13号(2023年11月17日)ウクライナの戦訓で大転換を図る米陸軍、ハマスの脅威のドローン戦(10月期)

こんにちは。第13号では10月期の話題と論文についてご紹介します。



無人機に空自スクランブル 過去最多ペースで推移

概要
沖縄タイムスプラス が10月13日掲載(記事本文

要旨
 防衛省統合幕僚監部は13日、2023年上半期(4~9月)に領空侵犯の恐れがある外国機に対し航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)で対応した回数を公表した。総数424回のうち偵察用などの無人機に対する緊急発進は6回で、過去最多だった22年度の8回を上回るペースで推移している。

コメント
 無人機に対する有人機でのスクランブル発進は金、人、時間すべてのリソースの無駄遣いであると部谷他が指摘して既に5年以上が経ちますが、日本ではまだ当面この状況が続くのかなと思います。対領空侵犯措置に必要なニーズを満たす無人機を導入すること自体は「買えば」できる世界になってきました。しかし、運用方法を変えることに必要な社会的コスト等を支払うことを躊躇しているのではないかと考えています。
 恐らくミサイルを積んだ無人機を運用するには、社会への説明やコンティンジェンシープランの策定が必要不可欠でしょう。法改正も必要かもしれませんし、みんな大好き戦闘機パイロットの定数も削減されるかもしれません。
 ただ、これをやらないが故のひずみは相当なものであり、日本の継戦能力は対領空侵犯措置によって削られているということも事実です。
 この界隈にいた身とすれば、対領侵で戦闘機が想定以上に飛ぶと、原則事前に見積もっていた分しか調達していない燃料、時間(又は回数や期間)で交換する部品や各種点検(車のオイル交換やブレーキパッド交換、1年点検等の500倍くらい細かいバージョンを想像してください)のサイクルが想定外のペースとなり、土日祝日も作業を入れて任務や訓練に使用できる航空機を整備し、そしてその分の代休をどこかで消化させ、補本や補給担当幕僚は部品や燃料等の調達に奔走し…と、航空機、人的戦力ともに疲弊し全く良いことはありません。故障が少ない大型機や外注している航空機はともかく、戦闘機は無駄に整備機会を増やさずとも、元から設定されたサイクルと故障時の対処で十分に整備員が育ちます(それくらい軽微な故障は日常茶飯事です)。
 防衛予算が増えたことは喜ばしいことですが、併せて新しい戦い方に適応できていないシステムと、安全保障によって恩恵を受ける側の意識双方の早期変革が求められています。(以上S)

 S氏の無人機による対無人機スクランブルの導入における障害についての指摘は興味深い。平時においてはやはり変革を起こすのは難しいように思えるが、もうすでに我々が直面しているのは平時ではない。相手の勢力を削る作戦は既に始まっている。無人機をスクランブルに取り入れるだけでなく、スクランブル自体の在り方も見直す必要がある。(以上NK)

XQ-58Aステルス無人機の試験飛行が開始される

概要
AirPower 2.0 (MIL_STD) が10月6日投稿( 記事本文

要旨
 2023年10月3日、フロリダ州エグリン空軍基地でテスト飛行を行う米海兵隊のXQ-58Aが撮影された。
 この基地での試験飛行は初めてのようだが既に2023年8月に AI操縦によるテスト飛行を成功 させており、開発は順調のようだ。

コメント
 以前XQ-58がカタパルト発進と聞いたもののイメージが全く沸いていなかったのですが、今回のこの映像にはとても驚きました。発進装置が必要でそれとセットでの運用となると、思ったより手軽ではない可能性があります。むしろパラシュートで回収される様子や他の発射装置付きの装備品の運用を踏まえると、広い土地がほとんどない日本向きではないかもしれないなあというのが正直な感想です。
 日本はボーイング・オーストラリアで開発されているMQ-28を調達する構想があるようですが、自国のニーズに100%合致した装備品は自国で生産できる技術が必要であります。しかし自国のニーズを優先し過ぎた装備品を開発すると、他国にニーズがなく、装備移転が出来ないというジレンマが見えてきました。クローズドな環境でなされている日本の装備品開発ですが、様々なバックグラウンド人々が連携しない限り、この状況を打開するのは難しそうです。(以上S)

イスラエル軍とハマスのドローン戦の様相

概要
OSINT technical が10月14日投稿(記事本文
Sprinter が10月7日投稿(記事本文
Levent Kemal が10月9日投稿(記事本文
Younis Tirawi  が10月7日投稿(記事本文
Clash Report が10月7日投稿(記事本文

要旨
①ハマスがリマル北部の住宅地からロケット弾を発射した際のイスラエル軍の偵察ドローンの映像とされるもの。その後、この映像を元にイスラエル空軍の攻撃機がロケット弾の発射場所を攻撃した。

②ハマスの戦闘員がドローンから小型爆弾をイスラエル軍のRWS(遠隔操作式の無人機関銃)に投下した。動画から損害の程度を窺い知ることは難しいが、ハマスもドローンを活用した戦術を取り入れていることがわかる。

ハマスがドローンで攻撃したイスラエルのRWS(遠隔操作式の無人機関銃)

③ ハマスの構成員が固定翼無人機の訓練をしていると見られる様子。ハマスの無人偵察機ズアリは、チュニジア人エンジニアのモハメド・エル・ズアリにちなんで命名された。彼はエンジニアリングとドローン技術を、ハマスの軍事部門であるエゼディン・アル・カッサム旅団に初めてもたらした人物だったとされる。彼は2016年チュニジアでモサドに殺害された。

④イスラエルのメルカバ戦車に対するハマスの攻撃映像とされるもの。メルカバ戦車は世界で最も重装甲の戦車とされているが、産業用ドローンから投下されたRPG7のタンデム弾頭が命中すると火の手があがった。この戦車は前方にエンジンを搭載しており、ハマスもそれを知っていて前方を狙ったものと考えられる。

⑤イスラエル軍の兵士がいる車両脇にドローンで攻撃した映像。被弾した隊員が仲間に助けられて避難する様子が生々しい。他のユーザーが報じたところによればこの車両は救急車両だった可能性がある。

コメント
 イスラエル、ハマスの双方がドローンと既存の火器等を組み合わせて戦闘をしている様子は各メディアにおいて連日流れているとおりです。悲惨な現状は一刻も早く終わってほしいものですが、ロシアによるウクライナ侵攻やナゴルノ・カラバフでの戦いから、彼らがドローンの優位性を学び、戦闘に取り入れていることは間違いないでしょう。
 戦わずして勝つのは、相応の備えがあってこそのことだと思います。暴力が権力によって制限できなくなってきたこの時代に、他国の戦訓から学び、備えることができるのはチャンスだと思います。(以上S)

 戦争にドローンが活用されるようになった今の戦争の原点は、シリア内戦、リビア内戦、イエメン内戦等中東にあった。2019年頃からそうした戦争を見ていた自分としては今回イスラエルとハマスがドローンを使用して戦っているのを見ていると原点回帰した印象を持つ。今や戦車に特攻するFPVドローンのカメラ動画がネット上に転がってる時代だ。ハマスもイスラエルもそうしたネットの海に漂う戦訓から学んで実践している。我々はそうした流れに例外でいられるはずはない。(以上NK)

ウクライナの戦訓が米陸軍の戦略を大転換させている

概要
Defense News が10月9日に発表(記事本文
原題:Change of plans: US Army embraces lessons learned from war in Ukraine

要旨
 
ロシアが2022年2月にウクライナ侵攻を始めて以来、ウクライナ戦争における教訓を取り入れ、アメリカ陸軍は戦略を転換しつつある。

  1. 砲兵戦略の変更:ウクライナとロシアの戦闘で重要性を示したのが砲兵であり、精密な火力と新技術の台頭に焦点を当てて新たな砲兵戦略を策定する計画がある。これには射程距離の向上などの新技術が含まれ、自動装填装置の導入も検討されている。

  2. 戦車の再設計:ウクライナでの戦闘を通じて、重い装甲戦車のアップグレード計画は見直され、新しくM1E3戦車を開発することが決定された(本件は以前取り上げている)。新たな設計では戦車の重量を軽減し、機動性と持続性を向上させるための取り組みが行われる。

  3. 戦場指揮所の効率化:ウクライナ戦争における経験から、陸軍は戦場指揮所を小型化し、民生ノートPC(おそらくハックしたゲーミングPC)をネットワークで結ぶことで移動時にもコマンドとコントロールが可能なオープンアーキテクチャに転換しつつある。これにより、戦闘中に迅速な指揮が可能になる。彼らは指揮所設営の現状の「2時間」が”長すぎ”、5分に短縮すべきと考えている。

  4. ロジスティクスの遠隔化:陸軍はウクライナに装備を送る際に経験した課題に対処するため、遠隔後方支援を提供している。また、将来の後方支援における新しいアプローチの検討チームを立ち上げた。

  5. 無人航空機への対処:ウクライナ戦争でのドローンの使用に対処するため、陸軍は新たな対策を検討し、短距離防空能力を強化している。また、対空・対ミサイル防御も強化され、特に巡航ミサイルやドローンに対処できる部隊の拡充が進行中である。

コメント
 
ロシアのウクライナ侵攻は、世界各国に衝撃と新しい戦い方をもたらしました。また、一国を脅かすレベルの脅威を、人が大したコストをかけずに手に入れることができ、暴力が国の権力の範疇から外れつつあります。
 米軍は世界各国で様々なプロジェクトを進行させています。その中には友好国への能力構築支援など、恐らく赤字覚悟で取り組んでいるんだろうなというものも沢山あるのですが、こうして戦訓を収集し、それに基づいた戦力整備ができる柔軟性を維持しながら莫大な予算を動かせる仕組みを見習う必要があると思います。研究開発には時間が掛かりますが、特に民生技術と軍用技術の垣根がない近年の戦いの様相は目まぐるしいスピードで変化しています。一点集中、他の装備品とのインテグレーションが怪しい装備品よりも、コストを抑え、改修等の自由度が高い装備品に分散投資すべきであるほか、自衛隊の遅れた通信システムやビルドアンドビルド状態になっている規則の見直しなども重要でしょう。(以上S)

 この改革について2点ほど気になる点があるのでコメントする。まず戦場指揮所の効率化についてだが、指揮所設営の2時間すら惜しいというのは非常に興味深い。ドローン等の情報収集手段及び処理手段の向上によって陸戦においてもバトルリズムの高速化が進む中、変化が求められているのだろう。無人航空機の対処についてだが、考えてみるとアメリカ陸軍にとって野戦防空は今までは放置された分野であった。なぜなら空軍が航空優勢を確保している状況で戦争を行ってきたからである。しかし今では上空を飛ぶF-35は陸軍の上空の安全を保障してくれるわけではない。ドローンは通常の航空機が飛ばない低空域を使用して襲い掛かるからだ。
 翻って日本にとって野戦防空は力を入れてきた分野である。しかし今までの貯金だけで対処できるかは怪しい。ドローンによる攻撃は迎撃側のコストより攻撃側のコストの方が基本的に安い等の問題に既存のアセット・戦術だけでは対処できない。こうした米軍の見直しは我が国にとっても参考になるはずだ。(以上NK)

トルコの防衛産業がUSVとUAVの共同攻撃作戦の実験を実施

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