Black Treasure Box11
前回 Black Treasure Box11
https://note.com/naofujisawa/n/n63bcb0e3f9f0
まとめ Black Treasure Box
https://note.com/naofujisawa/m/m1589ee8c3d02
命令を遂行し終えて我にかえると、例によって羞恥心と罪悪感、屈辱感が襲ってきた。
すぐにでも東城さんの前から逃げ出してしまいたいところだったが、彼女の相談も聞かない訳にはいかなかった。
思うにまかせない身体を、東城さんの助けを借りて起こし、ひとまずブラウスだけ羽織って壁にもたれかかった。
教室の出入口は内側からは施錠できない仕組みになってはいたが、東城さんが机を動かして簡単なバリケードをつくってくれた。
本当にとりあえずというものだったが、誰かが入って来ようとしても、ちょっとした時間稼ぎくらいにはなるだろう。
「まさか先生まで、あのアプリにとらわれているなんて」
私の呼吸がひとまずは落ち着いてきたのを見計らって、東城さんは言った。
せめてもう少し身だしなみを整えられるまで待って欲しいところだったが、彼女にしても一刻も早く話を聞いて欲しいところなのだろう。
「私も、ということは、他にも誰か知っているのね。BTBアプリをダウンロードしてしまった人を」
「はい」
「それはもしかして」
「……希弥です」
言ってしまっていいものかどうか、この期に及んで少し迷いはあったようだが、それでも東城さんは言った。
やはり、西方さんなのか。
快活に笑う、ボーイッシュなショートカットが思い浮かぶ。
あの西方さんが私と同じ想いをしているとは。
「ひとつ確かめておきたいのだけど、東城さん」
いつまでも半裸でいる訳にもいかず、床に脱ぎ散らかしたままだったのをかき集めながら、私は聞いた。
「その、先週の日曜日なのだけれど、私と会ったこと覚えてる?」
「あ、ああ、『フィラデルフィア』で」
言ってから、東城さんは表情をくもらせた。
何か深い悔恨、とりかえしのつかない悔いをふりかえるように。
「もしかして先生、あの時もう」
「ええ、あそこにいたのも実はBTBアプリの命令を実行するためだったわ」
東城さんや西方さんもいたあの「フィラデルフィア」で、自分のしたことを話した。
具体的にどんな恥ずかしい言葉を叫んだのかまでは言えなかったが、それでも東城さんもおおよそのところは察したようだった。
おそらくは、西方さんも同じような命令を実行させられたのだ。
「でも、じゃあ、あの日のことは東城さんも西方さんも覚えてはいないのね。私がおま…… その、あの言葉を叫んだことまでは?」
「ええ、『フィラデルフィア』の前で出会ったことまでは覚えていますが」
以前私がさぐりを入れてみた時と同じで、普通に挨拶を交わし別れただけのように記憶しているという。
今こうして私から打ち明けられても、それは変わらないようだった。
その時点では彼女たちはまだBTBアプリのことは知らなかった、いや、噂話としては聞き及んでいたかもしれないが、やはり本気にはしていなかったからなのか。
相変わらず勝手な仕組みだ。
「実は、私たちが最初にあのアプリに関わることになったのは、その直後だったんです」
「え?」
「先生と別れて、少ししてからだったと思います。希弥と私とふたりのスマホに同時にあのアドレスが届いたのは」
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