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音楽書紹介「コルトー=ティボー=カザルス・トリオ 二十世紀の音楽遺産」(フランソワ・アンセルミニ+レミ・ジャコブ著 桑原威夫訳 春秋社)

音楽書をいかに応援するか?
ボランティア的に自分がやれることがあるとすれば、このような場で、少しずつでも着々とレビューを書いていくことだろう。
OTTAVAでの自分の番組では、もう10年くらいは毎週ノンジャンルで音楽に関連するものを中心に「本の紹介コーナー」を続けている。そこで扱った本をここでもう一度紹介しておくのも良いかもしれない。
必ずしも新刊とは限らない。
三日坊主にならないように、ゆるゆると。

室内楽の歴史において燦然たる輝きを放つピアノ三重奏団についての伝記本。刊行から1年以上たってからようやく読んだ。
「コルトー=ティボー=カザルス・トリオ」とピアニストを前に持ってくるのが、本来の呼び方なのだそうだ。アルフレッド・コルトー(ピアノ)、ジャック・ティボー(ヴァイオリン)、パブロ・カザルス(チェロ)による、この伝説的三重奏団はパリのベル・エポック期のサロンから生まれ、契約による結成ではなく、友情と喜びによって成り立っていたという。ロマン派の精神を濃厚に宿していた背景も、本書では改めて示されている。

読んでいてなるほどと思ったのは、彼らの演奏の根幹にあったのは、「全く異なる個性どうしの相互理解」なのだということ。お互いの音をよく聴き合うのがアンサンブルだとはよく言われるが、少人数の室内楽ではお互いが「違う」ということを認め合いながら、それぞれがいかに輝けるかということが大事なのだ。ビートルズが典型的にそうだったように。

彼らの演奏を体験した作家カミーユ・モークレールの回想からの引用は臨場感にあふれ、実際にコンサート会場にいた聴衆の興奮を、読者も分かち合うことができる。彼らと同じ時代に生きたフォーレやラヴェルの三重奏曲との関わりについても触れられている。
第2次世界大戦をきっかけに政治的な意見の相違を一因としてトリオ間の亀裂がいかに深まっていったか、そしてティボー亡き後、死を目前にしたコルトーとカザルスがいかにして和解したか。そのあたりのドラマティックな記述も面白かった。
現代の室内楽奏者たちがどう活動を継続していくか、という問題提起も少しだが本書の中には垣間見える。トリオ・ヴァンダラーによる序文つき。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393932278.html

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