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マイフロー ユアフロー

風呂は心の洗濯よ
「新世紀エヴァンゲリオン」庵野秀明

忙しさにやられて

先月は個人主催のイベントをオープンしたてのエデン日暮里にて開催させてもらい、新宿のカフェバー Le TEMPSにてオーナーの粋な計らいでコーヒーの提供をさせていただく機会も得た。

そしてエデン横浜にてハロウィンイベントを開催して、心も体も疲弊しきってしまった。
(本当はイベント開催前に心は折れて集客の為のアクションをやめてしまっていた。)

褒められても、労われても、自分にかけられた言葉だと思えない。

「なぜうまくやれなかったのか」
そればかりが頭の中を堂々巡りしていた。

I cannot get home

家でしっかり休息をとろうと思い、持ち込んだ荷物を急いでスーツケースに詰め込んでエデン横浜を出て自宅に向かう途中に限界がきた。

乗り換えはうまくいっていたのに乗る電車を間違えたと思い込み、慌てて列車を降りてしまった。
終電を逃し、渋谷までたどり着いた時には10/31になっていた。

「ハッピーハロウィン!!」
日付変更とともにバカ騒ぎする浮かれた群衆の声に辟易しながら最寄りのネットカフェへ向かった。

インスタントな絶望感

翌朝、リクライニングシートから鉛のように重く感じる体を起こしシャワーを浴びようとしたものの「大変混み合っていて…1時間半くらい待っていただくことになるかと。」とフロントスタッフの方から聞きたくない状況説明をうける。

ついていない。
なにもかもが望んだ方向へ進まない。

ささいなことでインスタントに絶望感を味わえるこの心の疲労度は明らかにレッドゾーンに突入していた。

とにかく、もうこのネットカフェにいたくない。
普段ならマンガに夢中になり半日くらいは余裕で過ごせる個室の、その狭さが不快でしかなかった。

大きな湯船に浸かって、なにも考えられなくなりたい。そうだ…

銭湯に行こう

僕の参加する読書サークルには銭湯やサウナの愛好家がいる。

先月もいくつか都内の銭湯の名前があがっていた。その中でも気になっていた場所がひとつあった。

渋谷から高円寺までは新宿で乗り換え一回。
スーツケースを引きずりながらでも行けない距離じゃないと思えた。

銭湯の営業開始までは十分過ぎるくらいの時間があった。
渋谷を離れる前に無印良品に寄って塩キャラメルバウムを買い、マイボトルに水を汲んで朝だか昼だか分からない食事の支度を整え
昨夜の祭りのあとが路上に転がる街の雑踏をすり抜けてハチ公口改札へと足を早めた。

一番風呂を目指して

高円寺駅の改札を出るのはいつぐらいぶりだろう。
中央線沿いにはステキな店がたくさんあってGoogleマップにピンがいくつもついているがまだ行けていないところばかりだ。

最近仲間に入れてもらったコーヒー好きのコミュニティのオフ会に会場を提供してくださったというMÖWE COFFEE ROASTERSさんも高円寺のお店だ。僕はオフ会には仕事があって行きそびれた。次回こそは参加したい。

元気があれば高円寺の街を散策したかったが、銭湯の近くの公園で本でも読みながら時間を潰すことにした。

ベンチに座って、銭湯のホームページを見てみたり、本を読んだりするうちに営業開始の10分前になった。

いざ、温冷浴の世界へ

写真を撮ろうとスマホの画面を見つめて空のその日の青さに気がついた。
日陰にいると少し肌寒いくらいの気温。
秋空ってこんなだったっけ。

オープンの時間が近づくにつれ地元の常連さんと思しき方たちが集まってくる。
大荷物を抱えた僕が先に入ろうとすれば邪魔になると分かったので一番風呂は諦めた。

財布から入浴料とバスタオルのレンタル代を取り出して列に並ぶ。
ネットで貸し出されるバスタオルがイケウチオーガニックのタオルだと知り、使い心地を知りたくなって予定外のレンタル。
僕は自宅でバスタオルを使わなくなってもうすぐ一年くらいが経つ。小さなタオルの方が洗濯のことまで考えれば便利で自分ろ生活スタイルにあっていると思っている。
その一方で旅行先で風呂に入ったりシャワーを浴びたりする時にバスタオルを使うのが楽しみになった。

「サウナはないが、温冷浴でキマる」と事前情報も得ていたので男湯を扉を開くのが楽しみだった。

番台で支払いを終えてバスタオルを受け取り、銭湯へ入るには似つかわしくないデッカいスーツケースを抱えて新しい世界へ踏み込んだ。

社長さんでも僕らでも

感じたのは懐かしさより新鮮さだった。

裸の男が横並びになって頭や体を洗い、湯船に浸かってくつろいでいる。

高い天井。
真新しい富士山の絵がやわらかな雰囲気でホッとする。

古いはずなのに、それをぼやけさせるほどの清潔感。

ここには自分の居場所もありそうだと思えた。みんなの場所であり、僕の場所もある。

きっといつだってここは僕らの風呂だ。

裸の心

頭から爪先まで全身をくまなく洗ったら順々に湯船に浸かる。

ミルク風呂、ジェット風呂、Cheese Standコラボのホエイ風呂、そして水風呂。

シャワーを浴びてひと休みして、もう一周。

どこも隠しようのない、隠す必要のない状態で目を瞑ってシャワーを浴びているうちに心も裸になれた気がした。

忙から忘へ

すっきりサッパリして炭酸水を飲みながらマンガを読んだ。

呪いの話、恋愛の話、結婚の話。
僕はこの作品が好きになった。
次回の好きなマンガを持ち寄るイベントには持っていく作品はこれにしようかとおもえてきた。

マンガを読み終えても残っていた炭酸水を持って日が落ちた高円寺の街へ出る。

今日は休肝日にするんだと思っていたら目に入った薬局の手書き看板にはアイツが。

月を見ながら駅までゆらゆらと歩いた。

心の洗濯は終わった。
あとは体をゆっくり休めよう。

「なにもしない」をやるんだよ。

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