石橋直子

昔話と詩吟が好きな高校国語教員です。隠岐に残る不思議な浦島伝説の調査をしています。『お…

石橋直子

昔話と詩吟が好きな高校国語教員です。隠岐に残る不思議な浦島伝説の調査をしています。『おしゃべりな出席簿』今井印刷から出版。https://amzn.asia/d/hFdtOI4

最近の記事

古典徒然#01 仕事が嫌で鬼になってしまった男の話

はじめに。鬼になろうとした男の悲喜劇。「清水」という狂言がある。主人公の使用人・太郎冠者(たろうかじゃ)は、厄介な水汲みから免れようと、清水のほとりに鬼が出たとウソをつく。ところが真相を確かめようと主人が清水に向かってしまい――。 わが身を映して、少しだけ「変わりたい」と思う。人はいったい何年もの間、この営みを続けてきたのだろう。狂言「清水」は、可笑しいのに、ちょっとほろ苦い、大人の変身の物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー いつもお読みいただきありがとうござい

    • 出席簿#06「遠足 楽しい出会いを探しに」

      【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」4月29日、月曜日。 先週は少し雨の多い1週間となりました。 筍が旬の、この時期にしとしとと降る雨は、 「筍梅雨(たけのこづゆ)」とも言うのだとか。 先日は公民館の朝市で茹で筍を買いました。 中学生が掘ったものを提供しているというその筍は、 春の香がして、とても美味しかったです。 ようやく春めいてきたと思った矢先に雨が降ると、 少しだけ憂鬱になったりもしますが、 あの筍を育んだ雨だと思えばそれもまたいいか、なんて。 こういう言葉選びって

      • 浦島語り#01 蒼い糸の行方

        はじめに。「浦島」という名の恋物語。 なぜ帰った、なぜ託した、なぜ開いた、なぜ別れた。どれか一つでも階段が抜けていれば、結末は変わっていただろうか――。昔話としてよく知られる浦島は、かつて、人間の男と龍宮の女との恋物語だった。そこには別離以外の結末はなかったのだろうか……。  浦島伝承を男女の物語としてとらえ直し、その関係のほころびについて、また、いっとき民衆の願いを反映して語られたとされる幸せな結末について書き散らしたエッセイです。 昔々の白浜で 禁忌の箱が開きました

        • 出席簿#05「春の、小さなかけ引き」

          【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」4月22日、月曜日。 早いもので4月も残すところ1週間となりました。 連休のご予定はお決まりですか? 先日、かつての同僚先生とばったり再会しました。 「どうしたんですか?」と聞けば、 「ん?大会帰り」と返されて、 もうそんな時期か……と。 その先生とは部活動の主顧問・副顧問だった仲でした。 4月下旬から多くの運動部では 中国大会県予選が始まります。 かつての同僚先生は、 引率を終えて帰路につくところでした。 さて、学校生活の思い出と言え

        古典徒然#01 仕事が嫌で鬼になってしまった男の話

          短編小説 紡ぎ虫の糸はしー「蜘蛛の糸」異聞―

          芥川龍之介「蜘蛛の糸」より--考えたこと、ありますか?このときの蜘蛛は何を思ったのかと…… 紡ぎ虫の糸はし音声で楽しみたい方は、こちらからどうぞ。  草木には雨滴が光り、濡れた土の匂いが漂う午後でした。灰色の雲は流れてしまい、弱い日差しと生ぬるい空気が、だれもを惰眠へと誘いました。それは、透き通る糸の上で揺れる彼女についても同じ事でした。 足先にかすかな震えを感じ、蜘蛛は目を覚ましました。その振動はいつまでたっても断続的に伝わってきて、獲物がもはやどこにもいけないほどに絡

          短編小説 紡ぎ虫の糸はしー「蜘蛛の糸」異聞―

          出席簿#04「つながるきっかけ、新しい席」

          【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」4月15日、月曜日。 桜の季節が一瞬で過ぎ去ったかと思えば、 もう初夏を感じさせる日差しが注ぐようになりました。 うちは先日慌てて半袖を出し、ようやく冬物をしまったところ。 寒暖差の大きな先週でしたが、皆さまお元気でしょうか? さて、今月の「おしゃべりな出席簿」は、席替えのお話。 皆さんは席替えって好きでしたか? あるいはもし現役学生の方がいらっしゃるなら、 席替えって好きですか?楽しみですか? 『おしゃべりな出席簿』はこちらからお求めい

          出席簿#04「つながるきっかけ、新しい席」

          松江怪談 夜松の女

          松江怪談 夜松の女音声で楽しみたい方はこちらからどうぞ。  ――松の近くで、煙草を吸ってはいけません。白い女が引き寄せられてくるからです。女が声をかけてきても、返事をしてはいけません。夜に巻き取られてしまうからです……。  ひんやりとした夜気が闇を溶かして、松江の町を包みます。風に乗って、一筋の紫煙が流れてきました。松の下で、一人の男が煙草をくゆらせているのでした。  「お寒うございますね。」せせらぎのような声に、男は、おや、と眉を上げました。いつの間にか、女が隣にい

          松江怪談 夜松の女

          出席簿#03「ちょっと緊張、春の挨拶」

          【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」4月8日、月曜日。新年度が始まって1週間が経ちました。 今日が入学式・入園式というところも多いのではないでしょうか。 外を歩くと、桜並木の優しい表情に春の訪れを感じます。 いよいよ新生活が動き出す、そんな気配があちこちに漂っています。 さて、今月の「おしゃべりな出席簿」は、入学式直後の出来事です。 この時期って春の交通安全週間でもあるんですよね。 こちらをお読みの皆さまも、 交通安全に気をつけて、春を満喫してください。 『おしゃべりな出

          出席簿#03「ちょっと緊張、春の挨拶」

          おにごっこの記憶

          おにごっこの記憶音声で楽しみたい方はこちらからどうぞ。 「おにごっこ」をしているのは……私の職場にはたくさんの子供たちがいる。お昼時や夕刻、遠くからひっきりなしに聞こえるにぎやかな声。遊んでいる子供たちから少し距離をおいて眺めていると、懐かしいのに不思議と現実感のない、奇妙な感覚に包まれる。 私はこのひとときが好きだ。 あるとき、子供たちが追いかけっこをしていた。時間に余裕があればいつもしているように、私は遠くからそれを眺めていた。ぼんやりとしながら、おにごっこだ、と

          おにごっこの記憶

          出席簿#02「それぞれの道へ、船出のとき」

          【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」今日は4月1日月曜日。新年度が始まりますね。 こちらの記事をお読みのみなさまにとって、これからの1年が実り多きものでありますように。 試みに……とおっかなびっくりやってみたnoteとYouTube更新がひとまず無事にできたようですので、これから定期更新してみたいと思います。 学校の今を届けたい、現役高校教員の日常エッセイ『おしゃべりな出席簿』は毎週月曜日に更新し、それ以外に書きためてきた小説やエッセイは毎週木曜日に更新していきますので、気

          出席簿#02「それぞれの道へ、船出のとき」

          出席簿#01「笑顔のひととき学食で」

          5分だけ学校の今を感じませんか?学校の「今」を綴ったエッセイ集、『おしゃべりな出席簿』。 島根県で現役の高校国語教員をしながら11年にわたって 朝日新聞島根版に連載をし、その後、自費出版をしました。 今後、いくつかのエピソードを、テキストと音声で紹介したいと思います。 とりあえず4月から1年間、定期的に更新をしていくつもりでいますが、 3月最終日の今日、試しに1つだけアップしてみます。 朗読音声は私自身が読んでいます(このあとYouTubeリンク有) アマチュアですのでお

          出席簿#01「笑顔のひととき学食で」

          自己紹介(教員で詩吟と昔話が好き)

          はじめに好きなものは昔話で、なかでも好きなのが浦島伝説。 10歳から詩吟をやっていて、古典が人よりちょっと得意。 話すことには苦手意識があって、 隣のクラスで熱く語る同世代の先生方が羨ましかった。 そんなデコボコした高校国語教員です。 書くことと、「物語る」という人の営みに惹かれて、 この仕事に就き、また、小説やエッセイを書いてきました。 『おしゃべりな出席簿』好評発売中です。よろしくお願いいたします。 学校の今を届けたい、『おしゃべりな出席簿』教員は転勤族です。

          自己紹介(教員で詩吟と昔話が好き)