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薬膳とは

皆さまはじめして、水藤直子です。

「薬膳は中華料理?」「薬膳は漢方(薬)を使った料理?」「薬膳は難しい?」薬膳の仕事を始めるようになってから、よく聞かれるようになった質問です。薬膳は、日本でもおなじみの鍼灸や太極拳・気功などと同じ、中国伝統医学の分野の一つで、治療法の一つです。(中国伝 統医学(以下、中医学)については別の機会にお伝えしたいと思います。)

多くの人が誤解している、最初の二つの質問は、日本ではじめて「薬膳」という言葉が紹介された 1980 年代に理由があるようです。このころレストランで提供されていた“薬膳料理 “は、どうやら吉林人参、冬虫夏草(現在、金よりも高価といわれている)などの値段の高価な生薬を使っただけの中華料理でした。この印象が、一部の人たちの意識の中に、薬膳=中華、薬膳=漢方というイメージとして残ったのかもしれません。この時代は現在のように、薬膳をちゃんと理論から学べるような場所はなかったから、仕方がないかもしれません。

現在の薬膳は、季節や体質、または体調、病気にあわせて食材・中薬(生薬)を選び、組合せ、適した調理方法で美味しく調理し、食べることを言います。もちろん見た目もキレイにすることも大切です。食事は味だけではなく、匂いも、見た目も、音も、歯ごたえも楽しむものですよね。「薬膳」という言葉が、歴史上最初に現れるのは、漢の時代、約 2000 年まで遡 ります。それ以降広く使われるようになったといわれていますが、日々の飲食の重要性は、その遙か前から認識されていました。

中国では紀元前 2000 年頃、醸造技術が確立されたと考えられています。穀物から作られるお酒のことです。発掘されるこの時代の青銅器の中で、一番多いのが酒器だそうです。あの頃の人たちも現在と同様に、人は酒を飲み、語り、踊り、楽しく時間を過ごしていたようです。人間は生活スタイルが変わっても、何も変わらないのですね。またこの「酒」は治療に用いられていました。「医」の旧字は、「醫」と書きます。この字の下の部分は「酒」を意味し、酒を使い医療を施していたことを表しています。この酒の性質は、現在まで変わっているわけではありません。「酒は百薬の長」といわれるように、少量であれば血流を良くし、身体も温まります。昔、アメリカに居た頃、その“少量”とはどのくらいかを、ニューヨーク在中の中医師に聞いたことがあります。思ったよりもはるかに少ない量で、ちょっとビックリしました、大さじ 1~2。酒は大量に飲めば害となり得ますが、この中医師がいうように、大さじ 1~2 程度にとどめておけば、他の薬は要らないのかもしれませんね。

その次の時代になると、火を使った料理をはじめとする、さまざまな調理技術が発達します。「水」の味が、料理の味を左右することもわかり、食材にはそれぞれに薬効があることもわかります。湯剤(煮出す漢方薬)の原型ができたのもこの時代です。今から 3000 年も前のことです。

さらに西周時代(紀元前 1066 年~771年頃)には、「膳夫」「食医」「包人」という国の役職がありました。何をする仕事かというと、「膳夫」は王族のために食を管理し、毒味をする役職。「食医」は、飲食のバランスを考え、四季や体調に合わせてメニューを作る役職。「包人」は、食材に精通しているシェフたちのことです。この役職についていた人達は、今ならプロ の薬膳師・調理師になります。

その後も、歴史の中で人々は経験・臨床を通じて、自然界に存在しているほとんどすべての植物、動物、鉱石などの持っている、人体への効能を明らかにしていきます。食材・中薬の効能(薬膳では五気六味)、身体のどの部分の働きを活性化するか(帰経といいます)、具体的な働きなどの詳細が書き記され、後世に伝えられ、それらの記録は現代に至るまで、見直され改訂されながら続いています。

この薬膳で使われる専門用語の「五気六味」について。「五気」とは、熱性・温性・平性・涼性・寒性の五つのことです。熱性は唐辛子や胡椒、シナモンなど身体を強く温めるもの。温性は、鶏肉や生姜、エビなど穏やかに体を温めるもの。平性は、お米やジャガイモ、にんじんなど、体に温度変化をもたらさないので、他の食材と組み合わせやすい食材。涼性は、ミントや小麦、リンゴなど体をやさしく冷ます食材。寒性は、スイカやゴーヤ、メロンなど強く冷ますものです。「六味」は、酸味・苦味・甘味・辛味・塩(鹹)味・淡味の6つの味のことです。薬膳では、味によって色々な作用があると考えます。例えば、「辛味」は唐辛子やスパイスなどが持っている味で、血流を改善し、汗が出やすくなり、身体が温まるなどの効果があります。冬、寒いときによく使われますね。「苦味」の代表選手はゴーヤ。夏によく食べる「苦味」の働きは、からだの熱を冷まし、解毒します。

このように薬膳は、現代栄養学とは全く違った捉え方や考え方をします。タンパク質やビタミン、ミネラルのようには食材を見ません。薬膳は中医学の一分野で、その理論が大前提となります。四季の薬膳は、比較的簡単ですが、そこにも中医学の理念は貫かれています。気温の変化、湿度の高低、日照時間、居住場所など、自然の変化もメニュー作りに摂り入れます。それに加え、先ほどの食材・中薬の五気六味を覚え、外の環境と体が調和し、次の季節への準備ができるように、食材・調理方法を選ぶわけです。

でもこれが薬膳の難しいところではありません。難しいのは私たちの考え方や見方を、変えるところにあると思います。私たちの脳は自分たちが思っているほど、柔軟ではないようです。特に薬膳は日々の食事と大きく関わっているため、お祖母さん、お母さんが作ってきた料理は、それが季節や体質に合っていなくても、変えるのは簡単ではないでしょう。また、さまざまな栄養素に関する情報が拡散している現在、ダイエットをしたかったり、調子が悪かったりすると、目新しい情報に飛びつきたくなるものです。そんな私たちの脳の回路を、薬膳仕様に変えるのは、ちょっと難しいことです。

薬膳は、皆さんが思っているものとは違うかもしれません。それでも薬膳の知識を身につけることは、体も心もバランスのとれた状態で、若々しくいるために、不可欠なものだと思っています。また勉強というと、抵抗感を感じる人がいると思いますが、これは学校の勉強とは違います。自分と愛する家族の健康のために、知識を身につけることです。また頭を使うことは、脳の活性化にもつながり、世界も広がります。薬膳を勉強する人が増えている今、あなたにもぜひ仲間に加わって欲しいと願っています。

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~まとめ~

薬膳についての興味深い事実:

1. 薬膳の誤解:

⚫ 薬膳は中華料理ではありません。
⚫ 漢方薬を料理に使っただけのものでもありません。

2. 薬膳の本質:

⚫ 薬膳は、中国伝統医学の一分野で、治療法の一つです。
⚫ 今日の薬膳は、季節、体質、体調、病気に合わせて、食材や中薬を組み合わせ、美味しく調理し、見た目も大切にします。

3. 薬膳のルーツ:

⚫ 酒は、古代から人々が楽しむだけでなく、治療にも使われました。酒は身体を温め、血流を促進させる効果があることが、わかっていたからです。
⚫ 「水」によって料理の味が変わることは、3000年前にすでにわかっていました。湯剤(煮出す漢方薬)の基本もこの時代に確立されました。
⚫ その次の時代には、すでに「膳夫」「食医」「包人」といった、プロの薬膳師・調理師といった食に関する国の役職が存在しました。
⚫ 「薬膳」という言葉の登場は、約2000年前です。

4. 食材と効能:

⚫ 食材には、ひとつひとつ違った効能があります。歴史の中で、明らかにされてきました。
⚫ 「五気六味」「帰経」「効能」は薬膳(中医学)独特の考え方です。

5. 薬膳の挑戦:

⚫ 薬膳は、現代の栄養学とは異なるアプローチを取ります。
⚫ 薬膳では、季節や体質に合わせた調整をします。
⚫ 食事習慣や考え方を変えるのは、簡単ではありません。

6. 薬膳の価値:

⚫ 薬膳の知識は、健康的なライフスタイルをトータルサポートできるものです。
⚫ 新しいことを学ぶことは、脳の活性化つながります。
⚫ 自分と家族の健康のための学びであり、新しい世界観でもあります。薬膳の仲間に加わって、新しい食の世界・健康のありかた、日々の暮らしを探求してみませんか?

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~プロフィール~
水藤 直子(すいとう なおこ)
国際薬膳師
国際中医師
本草薬膳学院 広島校講師

広島県呉市出身。学習院大学卒業後、大手総合商社での勤務後、渡米。カナダのブリティッ シュコロンビア州立大学(The University of British Columbia)を卒業後、バンクーバーで会計士として働く。アメリカ・カナダでは勉強、仕事、友人を通じ、様々な文化思想に触れ、食が健康に与える影響についても気づかされる。日本に帰国してからは、難病の母の面倒をみながら薬膳学・中医学を学び始め、国際薬膳師・国際中医師の資格を取得し、今に至る。現在は、本草薬膳学院広島校講師、お寺で薬膳茶会、自宅で薬膳教室など、薬膳普及活動をしている。

~強み~
薬膳、英語、豊富な海外経験(英会話教室や個人的にも英語を教えている)

~やりたいこと~
薬膳を広める

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