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フードバンクでボランティアをすることにした

こんにちは!最近、自宅の近所でフードバンクのボランティアを始めました。フードバンクって何なの?というところから、何故異国の地でボランティアをしようと思ったのかということについて書きたいと思います。

ボランティアとは縁のなかった人生

私はこれまで、日本で生活していた時もボランティア活動というものをほとんどしたことがありませんでした。イベント運営などに係る、単発のボランティアであれば何度かしたことがありますが、地域社会に根ざしたもので定期的に行うボランティアはしたことがありませんでした。

どちらかというと「自分のことで十分」とか「自分のことで精一杯」というような考えだったのかなと思います。助けが必要な人たちへの支援は「自分ではない人がすること」のように感じる人生だったようにも思います。

そんな私が、オランダという国でボランティアをしようと思ったのには、この国で出会った人たちとの対話ややりとり、自分の考えを改めるような経験、そして本との出会いが大きかったと思います。

そもそも、フードバンクって何?

さて、そもそもフードバンクの説明をしておこうと思いますが、フードバンクとは簡単に言うと、収入が低いことで生活費に困っている人たちのための食糧倉庫のような場所で、自治体から認められた特定の人たちが必要な食料を求めて週に1回来ることができる場所です。私が住むデン・ハーグには22箇所のフードバンクがあり、多い日では1日80組以上が訪れ、それぞれの生活に必要なものを持ち帰ることができます。

私が所属するフードバンクのある施設は、自転車で8分ほどの場所にあり、そこでは、
・生活に必要な衣服
・食料
・運動をする場所
・地域住民で交流する場所

などが併設されています。今回私がボランティアをすることになったのは建物の一番奥にあるフードバンクで、様々な食料品や生活必需品が並んでいます。

具体的に書くと、店内は「有料のもの」と「無料のもの」に分かれており、カゴも「有料用」と「無料用」に分かれています。各自、2つのカゴを取って、カゴいっぱいになるまでの量であれば店内のものを持ち帰ることができます。

<無料のもの>
・野菜
・果物
・パンや穀物類
・賞味期限が近い食料品(どんなものでも)

<有料のもの>
・無料のものを除く食料品全般
・肉類 ※基本的には3パックまで
・日用品(洗濯洗剤やトイレットペーパー、歯磨き粉など)※基本的には3つまで

といった風に店内では商品が分かれています。

また、商品の値段は一般的なスーパーで販売されている価格のおおよそ3分の1から4分の1で設定されていて、商品にはプライスタグがついています。

自治体で管理されている、購入者情報

フードバンクに来る人たちの情報は私たちボランティアには一切明かされていません。デン・ハーグにある22箇所のフードバンクで自分の住まいから最も近い場所として来ていることは確かですが、出身や名前などは一切明かされていないので、移民なのか、難民なのか、何故フードバンクに来ることになったのか…利用者の背景を私たちが知る必要はありません。

また、フードバンクに来る人たちはそれぞれフードバンクの精算時に使用できるカードを持っていて、そのカードをスキャンすると「いくら買い物ができるか」が表示されます。よって、購入可能額はそれぞれの世帯の収入や、世帯人数によって異なるため、入店時にスキャンすることで「今日はいくらまで買えますよ」と声をかけることができます。一方で「いくらまで」と言ったところで、計算が難しい人たちがいることも事実で、それは何度も来店を繰り返していくことで、わかるようになっていくとのことでした。

現金のやりとりが一切ないのはとても助かるところで、すべてはカードの情報をもとに行われます。

情味期限切れが近いもの、過剰供給商品が運ばれてくる

フードバンクに並んでいる商品のほとんどは、賞味期限に関わらず大手のスーパーから寄付されたものや、賞味期限切れが近いためフードロスの観点から譲り受けたものです。

賞味期限が切れているものは取り扱いませんが、賞味期限切れが近いものは、プライスタグを取って必然的に「無料コーナー」に並べられます。スタッフは届いた商品を棚に並べたり、プライタグを貼ったり、賞味期限を確認して無料コーナーに移動させたり、レジ打ちをしたり…というような商品管理を行います。

前回は瓶に入った「トニックウォーター」が大量に並んでいて、明らかに「売れなかった商品なんだろうな」ということがわかりました。生活に困窮して食べるものを求めている人もいれば、過剰供給によって余った商品も存在する。それがこの社会の現実です。

ボランティアをしようと思ったのは

ボランティアに縁のなかった私がボランティアに志願したのは、この国に暮らし始めて様々な人との対話を通して、自分自身が変化してきたからだと感じています。

ジャーナリストとして働く友人に「この国に移民として移住してきた人たち(例えば私たちのような存在)が、あなたたちの生活に不利益をもたらしていると考えたことはないか?」とストレートな質問をした時、彼女は「様々なかたちで不利益(例えば犯罪の増加や社会保障への負担など)をもたらしていたとしたら、その人たちに必要なのは罰則ではなく適切なチャンス(機会)であると私は思う」と言われた時は、雷に打たれたような気持ちになりました。

他にも、私がこの国から新しく学んだ考え方や物事の捉え方は山ほどあります。そして、ユヴァル・ノア・ハラリも絶賛するオランダの若き(36歳)歴史家であるルトガー・ブレグマンが書いた「希望の歴史 - 人類が善く生きるための18章 -」を読み終えた時、私は自分や家族のために生きる人生と同時に、他の誰かのために出来ることをする...そんな次のステップへ進みたいと強く願うようになりました。ちなみにこの本は人口約1750万人のオランダで30万部以上を売り上げた本だそうです。

※この本について少し話をしていますので、もしご興味があれば、是非、Voicyの「読書の秋」の回をお聞きください。

※もしご興味がある方は、彼のインタビュー動画も是非

ルトガー・ブレグマンはベーシックインカム政策推奨派で、「そもそも人間は善良である」という出発点から世界や社会全体を捉え直すべきだと主張しています。そして、何故そう思うのかを人間が誕生したところから、あらゆる歴史的事実を元に議論を展開していきます。

私はこの本を読んだ時に「資本主義的な世界観から脱したところに一度身を置いてみたい」という欲求を強く持つようになりました。「労働に対する対価を金銭というかたちで受け取らない行為」に取り組んでみたいと思ったのです。つまり、ボランティアとして社会参画し、見返りを求めない行為によって得られるものは何かを見つけたくなったのでした。

社会とつながる、人とつながる

数ヶ月、自分がボランティアとしてやってみたいことは何か?と問い続け、辿り着いたのがフードバンクでした。ヨーロッパ諸国の中でも比較的豊かであると言えるオランダという国で「食べるものを買う余裕がない」と主張する人たちの存在を、ちゃんと目の当たりにしたいと思ったのがきっかけでした。

フードバンクを管理している団体に連絡をして、面談を受けました。それから、数日後に担当者から連絡を受け、
「この活動を気にいるかどうかわからないから、とりあえず来てみるのはどう?」
と言われたことで、初日を迎えたのでした。電話口で、私は木曜日を志願していたのですが、驚くことに「スタッフは十分に足りているのよ」と言われました。しかし、実際に足を運んで一緒に作業をすると、
「火曜日に人が足りなくなりそうだから火曜日に来るのはどう?」
と言われたのでした。真意はどうかわかりませんが、恐らく「この人なら大丈夫か」と思われたのだと思います。笑

現地校で勤務を始める時も最初から「あなた採用です!」と言われることはなく「まずやってみましょう」と言われました。つまり、このやんわりとした"試用期間宣言"は、自分たちにとっても、相手にとっても「やっていけるか」を見るための期間であり、彼らは最初にそれを設定したがるのだということがわかってきました。

結論からいくと、フードバンクでの活動はとても楽しく、新しいスタッフとの出会い、そして利用者とのたわいもないやりとりが、「自分はここに生きているんだ」という感情をもたらしてくれることがわかりました。一通りの仕事を終えてから自宅に帰る時、心はとても満たされていたのでした。

「誰かのためになる行動」が自分を生かす火種になる

初日に出会ったスタッフは5人ほどいましたが、私が拙いオランダ語で「何故ここで働くことにしたの?」と聞くと、「誰かのために何かをすることで、とても気分が良くなるでしょ?自分が自分でいられるために、誰かのために何かが出来る機会が必要だと感じたのよ」というような回答がほとんどでした。

スタッフの多くは週1回来てスタッフとして働いていて、それぞれ別の本業を持っています。「コンピューターの前に座っている時間でお金が稼げていることも確かだけれど、やっぱり人とのつながりって大事だからね」そういうスタッフの言葉は、まさに私が求めていた言葉だったように思います。

スタッフと話をして、楽しく笑って作業をして、利用者とも世間話をして笑ったり、話を聞いたりして、たった1日で私の中にあった"社会"がグンと広がりました。生活が大変だと嘆く利用者の子どもが小さいと聞くと「このお菓子はおまけよ、持って帰ってあげて」と呟くスタッフ、「ありがとう」と返す利用者。少なくとも私は「誰かのために何かをしてあげる」ためだけにいたのではなく、同時に「何かをもらう立場」であることも自覚できました。

帰り際、「今日はどうだった?」と聞いてくれた担当の女性に「とても楽しかった」と答えた時、彼女は満面の笑みを浮かべてこう言いました。

「あなたが来てくれて本当に助かったし、とても嬉しいわ。このチームへようこそ!次は火曜日に会いましょうね」

私の居場所がまた一つ増えたと思うと、とても胸が温かくなりました。

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