なぜ日本を離れようと思ったか

ここでは「オランダ移住」という前向きな言葉ばかりが先行していきますが、その背景を見つめてみれば、何も前向きで明るい話題ばかりではありません。私がなぜ日本を離れようと思ったか、後ろ向きの理由を知ってもらいたいと思います。海外移住。これまでのキャリアや会社で長く働くことによって受けられるはずの恩恵も手放しました。そこまでして海外に出る理由があるのです。

「せっかく入ったテレビ局、やめるのはもったいない」と何人かに言われましたが、私は記者の仕事がいやになったというわけではありませんし、記者の仕事に燃え尽きたということもありません。むしろその反対で、記者の仕事に就かせてもらったからこそ、もっともっと自分を磨いて、社会を進歩させる生き方をしようと決意したのです。それが、自分のためになると思ったのです。

日本のジャーナリズムの構造的な問題を明らかにして、新しいモデルケースとなりうる制度や仕組みを研究するという意味では、海外に出る必然性があることは否めませんが、このように前向きな理由がたくさんある一方で、後ろ向きの理由があることも事実です。問題を認識して物事を改善していくためには批判的な視点が必要です。実を言いますと、私は日本の未来に絶望しています。

先日、リオのオリンピックが閉幕しました。日本の選手団の活躍はめざましくわが家でも夜中にテレビの前で一喜一憂する場面がありました。人は誰でも、自分の家庭や組織や所属母体に対して、ひいき目に見る傾向があるのかもしれません。その意味で私はあまのじゃくなのでしょうか、現在の社会を自分なりに見つめれば見つめるほど、日本の未来は暗いと絶望してしまうのです。

日本の未来が暗いと考える理由は、それこそ挙げていけばきりがありません。マイナスの問題を気にするより、プラスを伸ばせる課題に目を向ける方が建設的なのかもしれませんが、私は曲がりなりにもジャーナリストですので、問題から目を背けることをよしとすることができません。気が重くなる作業ではありますが、ここで三つだけ挙げてみることにします。

ここ数年、日本の社会では、人を指して、右とか左などと決めつけられてしまう傾向が見受けられるので、誤解を与えないよう最初に申し上げておきますと私は特定の政党を支持している事実はなく、右でもなければ左でもありません。私は政治家ではありませんが、現代における市民の権利を守り社会的弱者と言われる人が生きやすい社会をめざして記者活動を続けていくつもりです。

いちばんの問題は、日本の原発事故対応と原発推進政策です。放射能の汚染を除染という利権にすり替えて、見て見ぬふりをする日本に未来はありません。言葉から信頼を奪ってしまった政治に、何より大きな責任があると思います。「技術的に安全が確保される」という言葉を、本当に信じられる状態ならば、原発でも高速増殖炉でも動かせばよいと思いますが、ごらんのありさまです。いま、原発事故がどのような状態にあるか、あなたは忘れてはいませんか?

次に挙げる問題は、立憲主義の崩壊です。去年、時の政権が憲法の解釈を変えて安保法案を成立させたことを、記憶している方も多いのではないでしょうか。法案の内容を議論する以前の問題として、立憲主義の原理原則を壊した罪は大きく、市民は絶対に忘れるべきではありません。とても残念なことですが沖縄を見ればわかるように、選挙結果という民意ですらもないがしろにされてしまうのが現在の日本です。沖縄は日本の未来の縮図そのものだと思います。

最後に、私を含めた市民の側の問題を指摘することにします。私たちは、なぜ社会の問題に目を向けることができないのでしょうか。私たちは、なぜこれほどまでに従順なのでしょうか。私たちは、なぜ力を合わせることができないのでしょうか。私たちは、なぜ目先のことに囚われてしまうのでしょうか。私たちは、なぜ自分で考えることができないのでしょうか。できないのではなくやっていないのです。絶望しながらでも私は変えるつもりです、日本の未来を。

逆説的ですが、海外に出て学ぶことで、日本の未来に生かせることが見つかると考えています。ですから、私の海外移住は永住を目的とするものではなく、あくまで自己研鑽と、未来への新しい提案のための、一時的な海外移住です。それでも一定の成果を得るには5年から10年程度はかかると見込んでいます。恩師からこんな言葉をもらいました。「今の時代は、自分の実年齢より15歳若いと思って行動するといい」。私は25歳ですのでまだまだ動けそうです。

【2016.8.26加筆】政治の本質は「人を切り捨てることにある」と、古い政治家に長く仕えた人から聞いたことがあります。例えば、100人の町がまさに水に沈もうとするとき、80人乗りの船が一隻ある。どの80人を乗せるのか、これが政治の現実だと言うのです。その意味では、福島も沖縄もまさに今、切り捨てられているのかもしれません。しかし、市民を煙に巻いて切り捨てるより、もっといい方法があると思います。それを伝えるのが報道だと考えます。







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鈴木隆秀

40歳、テレビ局を辞めオランダへ

この春、18年間勤めたテレビ局を辞め、夫婦でオランダへの移住を決めました。険しくも楽しい道のりを読みやすくお伝えします。
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