見出し画像

山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』を読んで

国道沿いに立ち並ぶ見慣れたチェーン店。

山と田んぼしかないド田舎、というほどではないけれど、だからといって東京みたいに最先端のものが揃うわけではない、ふつうの町。

生活に何も不便はしない、でも、なんだかここは退屈。

変わり映えしない日常から私を連れ出してくれる誰かを、待っている。

あらすじ

そばにいても離れていても、私の心はいつも君を呼んでいる――。都会からUターンした30歳、結婚相談所に駆け込む親友同士、売れ残りの男子としぶしぶ寝る23歳、処女喪失に奔走する女子高生……ありふれた地方都市で、どこまでも続く日常を生きる8人の女の子。居場所を求める繊細な心模様を、クールな筆致で鮮やかに描いた心潤う連作小説。

退屈をぶち壊すのは誰

中学生のころ、なぜみんな恋愛なんてするのだろうと不思議でした。

やれ誰がかっこいい、やれ誰が好き、「3組の○○君と7組の△△ちゃんがつき合った」、「▢▢君と✕✕ちゃんはもうキスしたんだって」……、何が面白いのだろう、と。

毎朝決まった時間に起きて、学校へ行って、時間割通りの授業を受けて、部活をして、帰宅して、ご飯を食べて、お風呂に入って、眠る。

そんな繰り返しの日々に手っ取り早く風穴を開けてくれるのが恋愛だったのかもしれない、そう思いました。


”恋愛”という営みに含まれるのは、「人を好きになる」「大切に思う」「愛する」という美しい面だけでなく、恋愛を活用して「(自分は誰かに好かれていると実感することで)自己肯定感を高める」「(自分は誰かと交際する価値のある人間だと証明することで)体裁を保つ」「性欲など己の欲望を満たす」など様々な要素です。

本書に登場する人物たちも恋や愛を模索しながら、存在するかも分からない”誰か”が退屈から自分たちをすくいあげてくれる日を待っています。

抜け出したい”退屈”は人それぞれ。

田舎での暮らしにうんざりしている、早く処女を捨ててしまいたい、周囲からも急かされるし世間の目もあるし結婚に焦る……。

しかし現実は甘くありません。

シンデレラや白雪姫のように白馬に乗った王子様が迎えに来てくれることなんて、まぁ、まずないのです。

「もしかしてこの人が私の王子様?」と思っても、向き合ってみるとまったく期待外れだったりするのです。

妥協して売れ残り(という表現はどうかと思いますが)の男と付き合ったり、好きでもない男とセックスしたり、そうやって失敗を繰り返しながら、「あれ? こんなはずじゃなかった」を繰り返して女性たちは現実と向き合うことになるのです。

「王子様なんていないんだ」と痛感させられながら、自分の人生の舵をとるのは自分自身なのだと、人生を悟ってゆくのです。


王子様が迎えに来てくれるのを待っていてはだめ。

自分の居場所は自分で掴み取らなきゃいけないよ。

退屈をぶち壊すのはあなた自身よ。

著者からそう言われているような気がしました。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?