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泉屋博古館東京(東京都港区・六本木一丁目駅 日本画トライアングル展)

大企業は美術館を作っていることが多い。事業で得た資金を文化芸術へと還元して気兼ねなく美術品を観ることができるという風潮はこれからも維持してほしいもの。
特に旧財閥系、三井・三菱・住友も例に漏れず美術館を作っている。三井であれば日本橋の三井美術館、三菱であれば東京の三菱一号美術館や東洋文庫ミュージアム、そして住友は泉屋博古館である。せんおく、と読む。京都と東京にそれぞれある。三井財閥15代の住友春翠が収集したコレクション3500点のうち、京都には古い時代(青銅器など)を中心にしたもの、東京には明治以降の作品を中心に展示がされている。

泉屋博古館東京は改修工事を終えたリニューアル後の最初となる展示会として日本画を中心とした記念展を開催している。2つだった展示室が4つに増え、より多くの作品を鑑賞することができる。
大規模な展覧会に出品するような派手な作品ではなく、どちらかといえば邸宅で飾られるような花鳥風月などをテーマにした作品を中心としたコレクションになっている。今回は東京・京都・大阪画壇の画家が揃い踏みということで、国内ではあまり知られていない(けれど大英博物館など海外から注目されている)画家の作品も紹介されている。学芸員による紹介もあったのでメモ。

まずは東京画壇から。メインストリートってやつ。第1、第2展示室で展示されている。面の東京と呼ばれている。
狩野芳崖『寿老人』:鶴と蝙蝠を描いている。どちらも吉祥の印。しれっと松竹梅も描かれており祝福の嵐である。また枝を効果的に使った奥行きの描き方にも注目。
橋本雅邦『深山猛虎図』:狩野芳崖と並ぶ近代日本画の父で、奥行きもあれば風が吹いているのもわかる動きのある絵。虎が見つめている先にはおそらく龍がいて、龍虎図を意識させている。日本画は100年くらいで修復しており、リニューアルのタイミングでこちらも修復し、表具も龍の紋様にしている。ちなみに通常から表具は学芸員が選んでいるらしい。
安藤広近『文殊菩薩』:獅子にまたがっており文殊菩薩。獅子は従来よく使われるような唐獅子ではなくライオンで、狩野芳崖の獅子図を参考にしている。ただライオンを見たことがないことから顔が人間っぽくなっている。今回が130年ぶりの公開となる希少な作品。
小林古径『人形』:娘のお土産として買ってきたフランス人形を絵にしたもの。実際に比較してもらうために今回の展示会でも実物の人形を併せて展示している。

次に京都画壇。第3展示室の半分を使って展示されている。線の京都と呼ばれている。
幸野楳嶺『蔬果図額』:竹内栖鳳の師匠で、写生が基礎であると説いた人物。野菜や果物もめでたいものが選ばれている。
望月玉渓『白秏孔雀図』:白い孔雀が珍しい絵。想像上かと思いきや実際にいるらしく吉祥の印として愛されている。
原田西湖『乾坤再明図』:日本神話にある天岩戸をテーマにした作品。中央にいるのはアメノウズメで踊りを踊った神。外の様子が気になった天照が天岩戸から出てきた時の光に当てられたアメノウズメを描いている。

最後は大阪画壇。第3展示室のもう半分で展示されている。点の大阪と呼ばれている。これまであまり有名ではなかった大阪画壇だけれど中之島美術館で取り上げてこれから話題になるかもしれない。ちなみに大英博物館は早くから大阪画壇に目をつけている。
村田香谷『西園雅集図』:彼の多くの作品は住友家に買われてその画は多く世に出ず、と言われた。お抱えの画家という立ち位置だろうか。住友春翠ゆかりの作品を集めた第4展示室にも展示されている。
山田秋坪『柘榴に白鸚鵡』:楊貴妃が愛した花と鳥をさりげなく記している。中国画らしさも残る作風は、長崎を起点に中国人から学んだ長崎派と呼ばれているという。
深田直城『春秋花鳥図』:春と秋の自然界の様子が捉えられている。秋の方では特に注目したいのはウズラの群れ。ウズラが飛んでいる描写は珍しいそう。春の方では山桜の枝の表現が素敵で、奥から手前に広がって行く書き方は西洋絵画の表現を意識したのではないだろうか。

展示会は東京画壇・京都画壇・大阪画壇といった順番で進められて行くので、それぞれの地域の画壇がどんな特徴を持っていたのか、どんなブームだったのかが比較できるようになっているのが興味深い。もちろんトイレもウォシュレット式。

北村四海『蔭』これだけ撮影可能

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