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茅ヶ崎市美術館(神奈川県茅ヶ崎市・茅ヶ崎駅)

茅ヶ崎駅から歩いて10分ほどの場所にある高砂緑地の小高い丘の上に建っている茅ヶ崎市美術館。ゆるく弧を描くような大きな屋根が印象的で、潮風や鳥の軽やかな翼、海の波を造形かしたモダンな建物で、神奈川県建築コンクールでも優秀賞を受賞している美しいミュージアムである。こちらでは小津安二郎の審美眼と題した企画展を開催。

小津安二郎というと日本の映画監督として海外では黒澤明と同じくらいに愛されている映画監督の一人。歴史物だったりアクションや躍動する映像が得意な黒澤映画に比べ、小津映画といえば古き良き日本の原風景を描いた牧歌的な作品が多い。そのゆるやかな時間の流れが特に海外からの評価が高い一因と言えるかもしれない。小津安二郎というと都内では江東区にある生まれ故郷の深川に展示室があるが、映画の町として知られた大船や鎌倉、茅ヶ崎を含めて湘南の地もゆかりの場所だったという。

そうね、だいたいねえ

1階の展示室では小津映画に登場する小さな小道具に焦点をあて、わずかワンカットの短いシーンの中にもそれとなく添えてある食器にまでこだわっていた小津安二郎の、まさに審美眼を特集する。自らが収集した食器をシーンの中に入れ込んだり、時には美術工芸品考撰という専門の美術スタッフに美術品を選定させ、作品の中に採用したりもしていた。ストーリーだけでなくローポジションから映し出される構図や小道具へのこだわりが感じられる一面である。

展示室NGなので外のラピュタっぽい前庭をお楽しみください

『彼岸花』における岸田劉生の『小流春閑』、『秋日和』に登場する橋本明治の『三彩武人俑』や東山魁夷『門』、『サンマの味』に登場する同じく橋本明治(『秋刀魚の味』以降のタイトルバックをデザイン)の『石橋』や会津八一の『秋日』などが実際の映画シーンをパネルで紹介しながら展示されている。自らも茶器にこだわりをもっており、唐津花入生や南蛮手土瓶や湯呑みに茶碗、おしぼり入れに至るまで、作品に登場する家庭に合うものよりも小津自身の好きなものが揃えられたりしている。

ラピュタっぽい庭その2

階段を降りた地下1階にも展示室がある。第2展示室では逆に小津自身の手仕事についても紹介。自身でも絵コンテのデザインや作中に登場する衣装などのデザイン、本の装丁などにこだわっていたことが紹介されている。面白いには『秋刀魚の味』を例にとって、世界各国で紹介されたポスターを展示しているところ。おしゃれなデザインのフランス版や、陰鬱な感じが残るフィンランド版など、国によってはデザインがガラリと変わってくるところも興味深いところ。

あと素敵な庭園もあります 人ぜんぜんいなかった

最後である第3展示室では茅ヶ崎と小津安二郎との関係について。北鎌倉に最初は居を構えた小津だったが、大船撮影所と茅ヶ崎館とを往復する日が多く、「茅ヶ崎へ帰る」という表記もされていたという。展示室では茅ヶ崎館の部屋が再現されており、選りすぐりの酒器や食器、ちゃぶだいや火鉢に長火鉢、食器棚が持ち込まれている。トイレは1階がウォシュレット式で地下1階が洋式。

ここだけ撮影可。小津アングルで撮ってみよう


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