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半年遅れのSLAM DUNK

2023年8月。漫画「SLAM DUNK」を読み返した。映画「THE FIRST SLAM DUNK」を観た。特別本「THE FIRST SLUM DUNK re:SOURCE」を一気読みした。わかってはいたけれどすごい作品で。漫画も映画も特別本もそれぞれに面白くて。私にとってのSLAM DUNKを書きたくなった。


バスケと私

中高6年間、部活でバスケをしていた。

進学した中学はミニバス(小学生バスケ)のチームがない学区。初心者だらけの環境でバスケを始めた。練習はしていたけれど、小学生のうちに基礎を積み上げた子たちとの差は歴然で、地区大会では負けっぱなし。引退試合を終えて残ったのは「もっとやれることがあったんじゃないか」という後悔だった。

下手な自分が選手を続けるのはしんどいだろうと容易に想像がついたけれど、高校でもバスケ部に入部した。中学生のうちに県選抜チームでプレイしていたような人と同じチームにいるのは、自分の弱さと真正面から向き合わなければならずしんどかった。練習についていけなくて、一人だけ別で基礎練習をしていた時期もある。悔しくって情けなくって、でもやるしかなくて。私にとってバスケはしんどかった思い出と強く結びついている。

あのときの辛くて、でも諦めらめたくない、やめたくない気持ちが詰まっているのが漫画「SLAM DUNK」だ。スーパーエースの流川楓や、圧倒的な身体能力でぐんぐん成長していく桜木花道みたいな選手ももちろんいる。でも思ったようなプレイができなくて、悔しくて、でもうまくいかなくて、といったキャラクターや描写の方が印象に残っている。思い通りにならない悔しさとか、人と比べて落ち込む気持ちとか、好きでやっているはずなのに苦しくてワケわからなくなる感じとか、もう私の高校バスケそのものだった。

高校生のとき友人に貸してもらって初めて漫画を読んだとき、そのリアルさに衝撃をうけた。ものすごく励まされた。漫画を読んで感動する、初めての体験だった。

試合中の表情に引き込まれる

映画では、キャラクターのこころの描写に引き込まれた。じりじりと点差をつけられていくときの緊迫感と焦り。もう勝てないんじゃないかという思いが頭の片隅にちらつく瞬間。厳しい試合展開に隠せない苛立ちと大きくなる恐怖。これら全部が微妙な表情の変化や声色、動作で表現されていた。あまりの没入感に、観ている自分もこころをぎゅっとつかまれているような気持ちになる。プロの試合ではない、高校生ならではの気持ちの面での不安定さや、不安定だからこその爆発的な成長の仕方が、本当に魅力的だった。

「バスケやSLAM DUNKを知らなくてもこの映画は観た方がいい」という感想をよく聞くけれど、これこそが理由なんじゃないかなと思う。部活や勉強、習い事、仕事など色々な場面で思い通りにいかず、自分自身がつくりだした幻想に飲み込まれそうになる感覚だったり、そのときにどうにか踏みとどまるしんどさと、その先の達成感、感動、これを思い出させてくれる映画だ。高校男子バスケの全国大会の、一試合のストーリーを通して、これだけ壮大なものを描けるって、尋常でない。

SLAM DUNKのリアルさの在り処

心情描写と同じくらい感動的なのが動きのリアルさ。漫画でも映画でも、微妙な緩急のつけ方だったり、体勢、目線が本物で、映画にいたってはインターハイ決勝を観戦しているような感覚にさえなった。特別本には、実際にプレイしている映像をもとに絵を描き起こした過程や、繰り返し作画指示を入れるようすが紹介されていた。ほんの少しの違いが積み重なり、ただリアルなだけでも、ただ魅力的なだけでもない、両方を兼ね備えた画ができあがる。

特別本に収録されている井上先生へのロングインタビューで印象に残ったのが「マンガと映画は似て非なる」ということば。漫画では作者が描いた絵がそのまま紙に載るのに対して、映画では各方面に「こうしてください」と指示をする、すなわち他者が制作した絵や素材が使われる。そうした環境で漫画と同様にリアルさを追求するためには、すみずみまで言語化し、説明し続けなければならない。この工程が苦手だったし大変だったと語っていた。

そうまでして井上先生がリアルさにこだわったのは「(リアルなバスケの動きを表現することは)希望ではなく義務。これが実現しなければ自分がやる意味も、映画化する意味もない」と考えていたからだそう。創作のなかでここまで明確に自身の役割を意識しているって、すごいなあ、創ることに真摯に向き合うってこういうことだなあと思った。特別本を読んでいると、SLAM DUNKファンとして面白いことはもちろん、何かを創りたい/つくることの一端を担っている人間として勉強になるというか、鼓舞される内容が多く、すっかり虜になった。

登場人物たちのプレイ、それぞれがもつストーリー、そして作者/監督など制作者たちの作品への向き合い方、そのすべてからパワーをもらえる。映画公開からずいぶん経っているけれど、やっぱり観てよかったし、特別本や漫画は何度も読み返したいと思う。


20230811 Written by NARUKURU

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