着彩

【3分で読めるダークファンタジー】遥カナル、約束

★この小説は
#3分で読めるダークファンタジー 「六花抄 -Tales like a ash snow - 」
銀髪の剣士の姉と魔道士の妹が残酷な世界を旅する、ほろ苦い物語。

過去作品はこちら(オムニバスなのでどこからでも読めます)
https://note.mu/narumasaki/m/m38dd8451bb44

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「これが東の国……酷い有様だな」
そう言い放ったのは、長い銀髪と、瑠璃色の瞳を持つ、18歳くらいの少女だった。
首元には、翠色の宝玉が雲から射す陽の光を受けて透明な輝きを放っている。
腰には、華奢な体格と同じように、細めいたレイピアが鞘に納められていた。

「この国は、いま戦争中…なんだよね?」
瑠璃色の少女を見て、答えたのは翠色の宝玉と同じ瞳の持つ10代半ばの少女。
耳元をすっぽりと覆う銀髪のボブカットで、黒いワンピースに白いローブを羽織っている。
先ほどの少女とお揃いのチョーカーをしていることから、親しき関係性であることが伺える。

「ああ、戦があるところには武器や情報が集まる。私たちの探しているものも見つかりやすいかもな」
瑠璃色の瞳の少女はそういい、東の国へとは歩んでいった。

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東の国。
かつて、この国は一つの都市国家だった。
先代の国王が崩御した後、二人の大臣が権力を求めて争いが始まった。
やがて、武力による天下布武を企てる東の国と、魔力による統治を狙う西の国に袂を分かつのだった。
ここ十年ほど、二国は戦争状態にあった。

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「西の国からの内通者から、魔導兵器の完成が間近という情報を得た。」
そう城内の兵士たちに語りかけるのは、指揮官風の男性だ。
青い髪色をしており、胸元には赤いスカーフが巻かれている。
薄手のシルバーメイルに身を包み、その左腕には、同じくシルバーのヘルムが抱えられている。
「我らは、これより少数の部隊を率いて、魔導兵器の破壊を試みる。この国に勝利をもたらすのだーー」
呼応するかのように兵士たちの声が城内に轟く。
「シュヴェルト様、万歳ーー」
若い指揮官の男性の名のようだ。
兵士の鼓舞が終わり、控室に戻る。
「君がルリだね。凄腕の剣士だと聞いているよ。此度の協力に感謝する」
うなずく、銀髪の少女。それを見守るもうひとりの小さな銀髪の少女。
「えーっと君はエルちゃんだね。今回は留守番をしてもらおうか。魔道士だと色々と不都合もありそうだしね。」
「そ、そんなぁ!」
癖毛の銀髪の少女はうな垂れるのだった。

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青髪の指揮官は、個室のベッドに伏せて天井を見つめながら、昔のことを思い出していた。


「やぁ!てやぁー!」
庭から木剣と木剣が打ち合う音が聞こえる。
打ち合うのは、青い髪の少年と、同じ年くらいの少年だった。
その庭の軒で勝負の行季を見守る、赤髪の少女がいた。
手持ち無沙汰なのか、指先から火を出したり消したりしている。
どうやら、火属性の魔法使いらしい。
編まれた籠のネームプレートには、「アン」と刻印されている。
「くらえ!シュヴェルトソード!」
青い髪の少年が剣を振り飛びかかろうとするが、避けられてしまう。
「あっ……」
「シュヴェルト、覚悟っ!」
脳天に重たい剣撃が入る。
青い髪の少年はそのまま地面に倒れ込み気絶してしまう。
「あーあ。また負けてる……」
赤髪の少女は言葉をこぼした。

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「痛っ……」
青い髪の少年は目が覚めると、赤い髪の少女の顎が見える。
しばらくして、そこにいるのが白くしなやかな太ももだということがわかる。
先ほど打撃を受けた額には、赤いチーフが巻かれていた。
「べ、別に心配してたってわけじゃないんだからね! ほら、あのままだと傷口にばい菌が入っちゃう、っていうか」
そう言うと、少女はすくっと立ち上がり、少年の頭はごつんと地面に打ちつけられた。
「そんな弱っちいんじゃダメね」
「いいや、強くなるさ。それで俺がアンを守るんだ」
赤髪の少女の頬がすっと赤らむ。
「ば、ばっかじゃないの!そんな姿で!」
そう言い残して、駆け出していった。

窓の外から陽の光が瞼を照らしつける。
「また、あの頃の夢か、アン。いま君はどこへ……」

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「これより、魔導兵器の破壊工作を開始する。少数精鋭でいく」
魔導兵器の工場は、東の国と西の国の狭間の近くにある、洞窟内にあった。
「こんな近くにあるとはな……」
銀髪の少女はそう言った。
「すぐにでも攻撃を仕掛けるつもりだったんだろうね。」
青髪の指揮官の男は返答する。
「魔道士は白兵戦には弱い。さぁ、切り込むよ」

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青髪の指揮官の男は最前線で剣を振るい、次々と魔道士を斬り伏せていく。
しかし、その剣撃は致命傷を避けている。
「幼い頃から剣ばっかり振っていたからね、これしか取り柄がないんだっ」
魔道士の詠唱が始まる前に懐に潜っては無力化していく。
「これでは私の活躍の場はないかもな…」
そう心の中で思うと、指揮官の部下の声が聞こえる。
「ありました!あっちの奥が魔導炉のようです」

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魔導炉へと向かう、シュベルトたちとルリ。
部屋に入るや、紅蓮の火矢が侵入者を襲う。
「この炎の魔法はまさか」
連なる魔力の矢を避けながら、確信する。
「西の魔女か?」
「西の魔女?」
銀髪の瑠璃色の瞳の少女は聞き返す。
「西の国の魔導士たちを統治する、上位の魔導士だね」
西の国の魔女と呼ばれる女性は、目元まですっぽりと隠れたつばの広い帽子を被っている。
つばからは赤い髪がふわりとゆらめき、全身を覆うローブは真紅の色。
手には、大樹から削られた柄の先端には、紅蓮に輝く宝珠が備わっている。
炎の矢を避けながら、距離を詰め寄るルリ。
ルリのレイピアが帽子をかすめ、帽子が宙を舞う。
赤い髪がふわりと広がった。
帽子の下の素顔は、かつての少女の面影を残していた。

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「アン!?アンなのか?」
指揮官の男は兜を脱ぎ、赤髪の魔導士の元へ駆け寄る。
「まさか、シュベルト? 生きていたなんて」
再会もつかの間、配下によって魔導炉は破壊され、魔力が暴走する。
「ここは危険よ、早く逃げーー」
そう言い切る前に、魔力の爆発が周囲を包み込んだ。

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周囲一帯は瓦礫の山となり、青髪の指揮官も重傷をおっていた。
赤髪の魔導士はよたよたと歩きながら、青髪の指揮官が埋もれているのを認識した。
「早く手当しないと、傷が……」
赤髪の魔導士はローブを千切り、割れた額の血濡れた傷口を止血しようとする。
「ま、前にもこんな光景があった気がするな」
「昔話はいいから今は傷を……うっ」
胸元に違和感がある。恐る恐るみると、銀色の刃が胸を貫いていた。
赤い液体が体内から湧き出ていく。
傷口が、灼かれるように、熱い。
「に、西の魔女をやったぞ!俺が、俺がやったんだ!」
その男は爆発で片腕を失い、皮膚は高温で灼かれ爛れていた。
剣の鍔から、東の国の男であることが伺える。
「俺が西の魔女を……」
言い残す前に男は絶命をした。


白い煙の中を、瑠璃色の瞳の少女が彷徨う。
「なんてことだ、傷を……」
青髪の指揮官は、声を振り絞る。
「ここはもう危ない、まもなく崩れるだろう……早く逃げろ」
遠くで魔導炉が爆破する音が聞こえる。
「君には妹がいるのだろう、早くいくんだ」
「……くっ」
銀髪の少女は、力を振り絞りその場から駆け出す。その頬には一筋の涙が流れていた。
焦げる匂い、白煙が立ち込める中、二人は
「アン、俺は君を……守る」
「……ばっかじゃないの、そんな姿で……」

「……守れなくて、ごめんな」


東の国は指揮官を、西の国は魔女を失った。
やがて、指導者を失った二つの国は外敵からの侵略で滅んだという。


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