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【映画感想40】ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー/ダニー・ストロング(2019)

「君に生涯を賭して物語を語る意志はあるか? 何の見返りが得られなくても?」


ライ麦畑でつかまえてのサリンジャー(ジェリー)が主人公の伝記的映画。アマプラで公開期限が迫ってたので観てみました。

サリンジャー役を「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のニコラス・ホルト!!

以前見たパターソンでは出版する気が全くなく書くことそのものの詩人がでてきましたが、サリンジャーの場合は序盤から出版したい!売れたい!と言う意思を持ってるのでまた違うパターンの作家なのが興味深いです。

売れたいと望んでいた作家が書くことそのものに意味を見出した結果出版を拒否して隠遁生活を送るまでの過程と、
師匠的な立場の教授とのやりとりが面白い映画でした。

印象的だったのが出版社に出した原稿が不採用になったジェリーがどうしたら採用されるかを教授に尋ね、逆に教授から「お前はなぜ書くのか」と問われるシーン。

「いろんなことに腹が立つけど書いてると自分の思ってることがはっきりする」
と答えると、

「きみに必要なのはそれだ。怒りを感じるものを探ってそれを物語にするんだ。だがそれをしても出版できないかもしれない。一生不採用で終わるかもしれない。自分自身に問いただしてみるんだ、生涯をかけて物語を語る意思が自分にはあるのか、たとえ見返りが得られないとしてもだ。もしその答えがNOなら他の仕事を見つけた方がいい。なぜならそんな奴は真の作家なんかではない。」

という教授。

ここでしどろもどろに答えていたジェリーが、
映画の終盤、戦争、スランプ、リバイバルヒット、あらゆる経験を経たジェリーが出版社の人に向かって自分は怒りを訴えたいのだ、とハッキリした口調で言うのは感慨深かったです。

もうひとつ、文章が書けなくなったジェリーを救った瞑想と禅の教えについて。導師のような人物との会話が良かったです

「こんなんじゃまずい、才能を失った」
「ほんとうに失っていたら?」
「作家を辞めないと……」
「書くのは才能をひけらかすため?それとも心のうちを表現するため?」

それから書き始めるのですが全然うまく書けない。

「それで、どうした、楽しんだか?」
「書くのを?」
「いや、原稿を破ることを」
「……ああ!」

ここからどんどん書き、破き、再び作品を書いていく。


この映画、いつか誰かに聞いた言葉が集約されているような気がして印象的でした。書くことは何かとか、見てくれる存在のこととか。
10年前にみていたらそんなに響かなかったと思う。

内容はとてもよくて作品を作っている人には是非おすすめしたいんだけど、唯一この映画で皮肉だなあと思ったのは、ジェリーが「声が大きすぎ、読者の読解力を信じろ」と作中でアドバイスされるシーンがあるのに、この映画は盛り上がるシーンで盛りあがるBGMを使ったりするあたりが「視聴者の読解力を信じてない」感じがしたところ。
めちゃくちゃわかりにくくすればいいというものではないけれど、ハイここは印象的なシーンですよ!!泣くとこですよ!!みたいな演出が強すぎると少し冷める。
監督の他作品一覧を見たらハンガーゲーム最終章があったので、エンタメむきの監督なのかも。

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