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【映画感想128】リバー・オブ・グラス/ケリー・ライカート(1994)~淡々と描かれる何者にもなれずに歳を重ねた焦燥感

はじめに

こんにちは、語彙力をなんとかするため200本目指して週2で映画の感想を書いている絵描きです。今回はリバー・オブ・グラスを見ました!
(インスタ→https://www.instagram.com/narumi_k523/

あらすじ

フロリダ郊外の平屋建ての家に暮らす30歳の主婦コージー。
夫に対するの愛情は結婚してもなおぼんやりしていて、
子供が生まれても期待したような激しい母性愛を感じない。
単調な日々に少しずつ鬱屈した何かが蓄積して行く中、
バーで出会った男・リーとある日事件を起こしてしまい…


感想(ネタバレあり)


現在公開中のファースト・カウの監督のデビュー作です。
ジャケット画像に惹かれて見てみたら私は結構好きな感じでした。

同じ日々が静かに続いて行くというベースはジム・ジャームッシュの「パターソン」を彷彿とさせるのですが、この映画は主人公のタイプが真逆。
だらっと続いて行く単調な日々に、感謝も楽しさも見いだせない傲慢さ、ただなんとなく30代まで生きてしまったのでないかといううっすらとした焦りが特に救済も反省もなく淡々と描写されていきます。

私が一番いいなと思ったのが音楽の使い方で、まず劇中のBGMがほぼドラムのみ。
主人公の父親が「かつてバンドを組んでいたが子供ができて夢を諦めた」というエピソードにちなんでいると思うのですが、ドラムでけというのは不完全なので「曲ができない=何者にもなれない」という暗喩かと思いました。

あと劇中でコージーが盗んだレコードが最後に流れるのですが、
歌詞の「誰も私の惨めさを知らない」が彼女の状況にあっていて、

「ああ、最後に彼女は音楽を手に入れたんだな」と感じました。

冒頭の半生の語り口調からして主人公のコージーは特に趣味もなさそうで、
さらに特別好きな音楽とかももしかしたらなかったのかもしれない気もします。

人は自分の過去とリンクする音楽に特別惹かれたりしますが、
それって失敗であろうと、惨めになろうと、成功体験であろうと、「自分の意思で何かをした」という実績が必要なんじゃないかと思うんです。
なので、年を重ねると経験が増えて、共感できる音楽もきっと増えて行く。

一方コージーはそんなに好きではない相手と結婚して、子供ができて…と、おそらく「なんとなく正解だと思う方」に向かってなんとなく流されるように生きて30歳になったっぽいのですが、最後に「自分の意思で」銃を撃つ。

彼女がレコードの曲に関してどう感じたかの描写はないのですが(描写があるのは初めて盗みを働いてやったぞ!という高揚感のみ)、確実に言えるのは一つ行動した結果、たまたま盗んだだけのレコードに入っていただけの曲がそれにピッタリはまるテーマソングのような一曲に変化したということです。

その行動が本人にとっていい結果になるか悪い結果になるのかはさておき。

事件からの逃避行といっても警察から逃げるスリルだとか面白い展開は起きないし、はっきり心情の変化があるようなシーンもないのでひとによっては退屈に感じてしまうかもしれませんが、この映画に関しては個人的に「退屈で単調なロードムービー」であることが重要であるとおもいます。
これは大抵の映画で主人公には抜擢されるであろうわたしたち、ありふれた、どこにでもいる人々に焦点を当てる映画だからです。

宇宙の命運をかけた争いに巻き込まれることも、全米を泣かせるようなドラマティックな恋に落ちることも、大体の人生ではほぼありませんが、平坦とも称される人生の中にだって宇宙戦争にいくような緊張感も、沈没する船で恋人と生き別れるような絶望感も確かにある。日々を生きるひとりひとりの人生「退屈だ」と切り捨てずに拾い上げてくれるようにも感じてわたしは好感をもちました。
(なので、特に映画に非日常やエンタメを求める人にとってはこの作風へ肌に合わないと思う)

監督のケリー・ライカート氏は映画学校ではなくほぼ独学で映画を作っていた人で、これは彼女が二十代最後に作った映画だそう(そしてその後長いスランプになったとか)

映画も小説もつまらない、ありふれてる、と見過ごされるものに焦点を当ててじっくり描くタイプの作品が好きなので、他の映画も見てみたいです。

★余談
「何者にもなれない」というキーワードで、つまらない日常から脱却したくて犯罪を冒してしまった大学生のドキュメンタリー映画「アメリカン・アニマルズ」を思い出しました。(なんと当人が出演している)
どこか感傷的に当時を語る彼らと、周囲の大人たちの「実力がないのに何かを得ようとして犯罪にはしった」という冷ややかなコメントの温度差がこの映画とは別の意味でうっ・・・となる映画でした。おすすめ。


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