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精神保健福祉士を目指すあなたへ⑦~「きく」ことについて~

みなさんは「きく」こと、得意でしょうか。
「きく」といってもいろいろな種類がありますね。今回は特に「質問する」といった意味での「きく」について書いてみようと思います。

学生の方はグループワークや演習で面談のロールプレイをしたことがあるのではないでしょうか。
私の場合、精神保健福祉士の養成校で先生を対象者と見立ててロールプレイをしました。自身の設定は精神科に勤めるワーカー。初診で来た対象者に対してどのように接するか、みたいな設定。たしか診察前のインテーク場面だったような。
クラスメイト10数名に見守られての実践。緊張でガチガチでした。

そして働き出してから。なかなか芯を喰った質問が出来ないというか、我ながら地に足ついてないなと思いながら質問していたように思います。ピントがずれているような感覚が常にあった。相手は答えてくれるのだけど、Q&Aのようなインタビューのような。いわゆる「深まっていかない」面談をしていたんでしょうね。

今回は、面談の「質問する」ということに注目して、心構えや注意すること、自分が意識していることなどを書いていこうと思います。


心構え

前提と言ってもいいでしょうか。質問で大事なのは、「なぜそれを聞くのかを明確にすること」です。
何でもかんでも聞けばいい、というものではないのです。「相手のことはなんでも知らなければ」と空回りすることはよくあります。私がそうでした。といっても、極端な例は理解していました。たとえば「彼氏はいますか?」とか。これは別に支援に必要ない場合が多いし、初回で聞かなければいけない内容ではないですよね。
重要なのは、自分が支援をする上で、どのような情報が必要かを整理しておくこと。これは担当する事業によって異なると思います。

たとえば、私の携わる就労支援の分野では、幼少期の頃のことはあまり聞きません。他のことを聞いていく中で、「ん?」と思ったら聞きますが、じゃあ生まれてから順番にエピソードを・・・とはなりません。
一方でいわゆる生活相談の領域、特に手帳取得の段階などでは、幼少期から親が違和感を持ったエピソードなどをしっかり聞くかもしれません。親子関係に重点を置くこともあるでしょうし、金銭面をしっかりと聞きこむかもしれません。
もちろん、就労分野の私もざっと全体像を聞くことはあります。でも注目するところには注目し、そうでないところはさっと流すこともあります。

もうひとつ心構えとしておきたいのは、「相手は本音を話さない」ということ。
嘘を吐くと言っているわけではありません。そりゃ隠し事の1つや2つはあるでしょうと思っておいた方がいいよ、ということです。
大抵話しにくいことがあって、そこは意図的にごまかしたり、意図せず嘘を吐いたり、回答を避けたりすることがあります。それは当たり前のことだと思っておいた方がいい。
自分も言いたくないことがあるように、相手も言いたくないことがある。そう思っとかないと、勝手に「裏切られた」と感じてしまうものです。これは結構ショックだし、支援がブレることもある。
裏切られたと憤るのではなくて、そうさせる何かが何なのかを知ることが重要だと思います。それには冷静に対処することが必要で、そのためには「本音は言わない」と心のどこかを冷たくしておいた方が楽なのだという話です。その方が支援のフォローが準備できる。
ある程度信頼関係を気付けば、それに比例した本音は話してくれるようになります。それもまた事実です。

注意すること

まずは「聞きたいことを全て聞き取ろうとしない」こと。
これは相手の反応を見ながら聞いていこう、ということです。こちらのペース、深さで質問をすると、どこかで相手の抵抗感を感じることがあります。それこそごまかされたり、矛盾することを言ったり、本音っぽくなかったりと。その時はさっと引くことも大事。
面談は相手のことを知ることだけでなく、信頼関係をつくることも重要な目的だからです。
「ああ、この系統の質問は抵抗感が強いな。何かあるな」とわかっただけでよしとしてもいいことがあります。しかし、その上で聞く必要がある内容もあります。

もうひとつは「質問する時には、相手にその意図を伝える」こと。
なぜそれを聞くのか。支援者はどこを知りたいのかを伝える。
支援を組み立てる上で、注意すべきことや同じ方向でも複数の選択肢が支援者の頭に浮かぶことがあります。それをそのまま伝える。
たとえば、「AとBで自分も提案を迷うところなので、この部分についてもう少し詳しく聞いていいですか?」とかでしょうか。

これは相手の抵抗感を感じた時にも使います。「ここを教えてもらえないと、こういうリスクがある」とか「話してもらえないと○○という理由で提案できない」とか。結構バッサリ言うこともあるかもしれません。いやでも口調は穏やかにね。「初対面で話しにくいですよね。でも、この点がこういう理由で気になるんですよね。もし迷うようなら一度持ち帰りますか?」とかかな。文字にするとうさんくさいな。
この辺の言葉選びも相手を見ながらですね。相手が真面目な感じなら理屈を伝えるし、ちょっとおちゃらけた感じなら笑いながら「どう?こっちかな?」みたいに深掘りする・・・とか。

あとは話しにくい理由を聞くこと。同性の方が話しやすい話題もあるし、質問の意図が伝わっていないこともある。その理由を解消するにはどうすればいいか、も相手と一緒に考える。結果それが働く上で課題になるし、解決のポイントを実感できる(アセスメントになる)ためです。
支援者だけで質問するのではなく、相手にも協力してもらって、答えを埋めていくという感じでしょうか。

最初に「話しにくかったら言ってくださいね。あと質問あったら聞いてください。結構突っ込んだことも聞くんですよー。今後の支援に必要なところでー・・・」と前振りをするとかね。これもうさんくせえな。いやでもほんと、空気読みながらやってるんですよ(うさんくさい)。


補足:「空気を読む」とは

よく「空気を読む」と表現するけど、より具体的に言うと、相手の視線、声色、表情、手足の動き・緊張、前後の発言との矛盾の有無、他の内容を話す時より返答が数拍遅れるとかもかな。これは私の場合。
総合して、「なんか空気が張り詰めたな。重くなったな」と感じる。これはなかなか言語化できないかもしれません。
この点を五感(あるいは第六感か)で感じながら、質問を進めていく。


質問の際に意識していること

前述と重なりますが、これは「ある程度の自己開示」です。
まず、自分が支援者として面談中の今、まさに感じていることを伝えることがあります。これは、どこで迷っているかという点。「AとBがあって、それぞれこういう点で迷う」と伝え、本人の意見を聞く、さらに迷いを減らすために突っ込んで聞くクッションにするなど。
あとは、相手の話を聞いていく中で感じたことを伝える。共感している点だけでなく、気になったということや、矛盾を感じたという点などでしょうか。わからない、ということも伝えることがあります。これもより深く聞くための準備です。
相手に「質問がくる」と準備してもらうために伝えているのかも。

あとは自分の経験も自己開示します。たとえば、似たような状況の時、自分ならこう感じるとか、過去にこういうことがあって、こう感じた、とか。
そんな赤裸々に話さなくてもいいし、経験したことないことを経験したように言わなくていいですが、少し、支援者としてではない自分自身として、ということを垣間見せると、相手も話そうという気になってくれるように思います。
割と聞かれるし、聞きたいと思っている人が多いように思う。同じ「働く人」として、支援者がどう感じているのかを。それに対しては素直に回答するようにしています。いわゆる「支援者らしくない」ことも言うかも。「たまには手を抜きますよ」とかも含めて。

他には「質問で使う言葉のレベルを徐々に下げる」でしょうか。
これはアセスメントのためでもあります。まず「どう思います?」みたいな概念的な、大枠で聞くとか、あえてちょっと難しい言葉を使う。それに対して回答できるか、質問を返してくるかのリアクションをみることがあります。
そして「○○ですか、△△ですか?」のような選択式にしたり、「たとえば○○ですか?」のようにいわゆる閉じた質問にする。同じ意図の質問を、レベル(という表現が適切かわからないけど)ごとに聞き方を変えていく感じ。
相手の理解度や、わからなかった時の対応がみられるからです。隣に支援者や親がいたらどうするかとか、いろいろみる。
つまり、「質問を通して質問への回答以外の反応をみている」とも言えますかね。


まとめ

まず心構えは大事。自分の事業所・支援のことを理解して、何を聞くべきかを整理しておくこと。これは事業所ごとにアセスメントシートなどがあるので参考に。シートを丸呑みにするのではなくて、その意図を把握しておくと、ひとつの項目を聞くためにいくつか質問していくことになります。
そして本音を言われなくても落ち込まないこと。なぜ本音を言わないかを考察してみると楽しいですよ。周辺の質問をすると、その理由が考察できるし、信頼関係が深まるとその本音が出てくることもある。
怪しい点はよく注意すること。支援に影響しそうな場合は踏み込むか、保留にしてフォローする準備をしておく。

注意すべきは踏み込みすぎないこと。まずもって面談の目的を理解しましょう。すべてを聞き取ることなのか、信頼関係をつくることが先なのか。これは緊急性にもよるでしょう。
必要なことが聞けない場合は、支援できないことも出てきます。
質問する意図と一緒に、このままでは支援できないことを伝えましょう。それは相手の様子をよく確認して、空気を読みながら。

小手先のテクニックではありますが、ちょっとした自己開示は効くことがあります。
支援者として考えていること、自分自身の経験や感じることを伝える。特に後者は最近よくしているなと振り返る。これは意図的にしていることもあれば、後から振り返って「なんか言ってたな自分」と思うこともある。実はここが信頼関係に繋がっていくかもしれないと考えている今日この頃。
そして質問への返答の中身だけを知るのではなく、返答するまでの反応や矛盾があること自体に着目し、なぜそうのような反応をするのかをさらに関連する質問を投げかけて考察を深めていく。いつか誰かに言われた、「福祉は結果ではなく過程を重視するもの」とはこういうことも指していると改めて思います。

学生の頃の演習や働き始めの頃、「質問って難しい」と思っていました。根底には「質問しなければ」とか「聞き出さなければ」、「知らなければ」が先行していたと思います。
支援の上で「何を知るべき」か、自分自身は「何を知りたい」か、そして「相手は何を話したい」か(これが一番重要)を整理し、適宜タイミングを計ることがコツなのだと思います。
「聞き出せた!」という支援者側の満足より、「話せた、聞いてもらえた」という本人側の満足を引き出せるといいな。

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