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【サクリファイス】ロードレースとミステリを融合させた自転車小説

自転車競技の一種であるロードレースをミステリ仕立てで描いた「サクリファイス」という小説があります。

自転車はあまり詳しくないけど大丈夫かな?と思って読み始めたら、すごくおもしろくて、あっという間にシリーズ全作を読み切ってしまいました。

これはたくさんの人に読んでもらいたい!と思ったので、シリーズ5作の感想を順番に描いていこうと思います。

ミステリなので大事な部分のネタバレはしないように気をつけますが、前知識ゼロで読みたいという方は、シリーズを読み切ってからまたこの感想を覗きにきてくれると嬉しいです。

「サクリファイス」

始まりの第1巻です。

1ページ目から早速不穏な描写があり、物語がどのようにこの場面につながっていくのかと興味が掻き立てられます。

「サクリファイス」のメイン舞台は、日本のロードレースのプロチームである「チーム・オッジ」。そこでアシストとして活躍する白石誓しらいしちかう(通称チカ)が主人公です。

ロードレースというのは不思議なスポーツで、チームスポーツであるにもかかわらず、レースで優勝できるのはたった1人だけなんです。

1チーム6人でレースに出場し、エース以外の5人はエースを優勝させるために走ります。

その5人の中でも最もエースに尽くし、エースのために身も心も捧げるのが主人公のチカが務めるアシストというポジション。目立たないけどとても重要な役割です。

「サクリファイス」では、そんなロードレースの最中で起こる事件を描いています。

この事件というのがそれはもう大事件で、どうしてそんなことが起こったのか…、真実を知りたいという気持ちがページをめくる手を急がせます。

私は自転車の知識ゼロでこれを読み始めましたが、読み終わった今はロードレースを知らない人こそ楽しめるのではないかと思っています。

「エデン」

2作目では、舞台がフランスになります。

ロードレース初心者の私でも、さすがに「ツール・ド・フランス」は聞いたことがあります。

自転車を愛する人たちの憧れの場所を舞台にした物語のタイトルが「エデン」とは…。不穏です…。

舞台がロードレースの本場に移ったことで、物語のスケールは1作目よりもさらに大きくなっています。全体を通して異国の風を感じることができてワクワクしました。

そしてやはりレースの中では事件が起こります。

エースとアシストの関係というのは独特で、お互いのことを誰よりも理解していないといけないし、言葉を介さずとも意思疎通ができなければいけません。野球でいうならバッテリー、テニスや卓球ならダブルスといったところでしょうか。

夫婦、相棒、パートナー…。どういった言葉が1番しっくりくるのかはわかりませんが、何よりも信頼関係が大事。

アシストにとっては、自分の勝ちを投げうってでも尽くすだけの魅力がこのエースにあるのか…というのも大事な気がします。

エースには、チーム全員を引きつけるだけのカリスマ性が必要なのです。

チカが新たに所属する「パート・ピカルディ」のエースのミッコは、前作で登場した「チーム・オッズ」のエースの石尾とはまた違ったタイプの選手です。

チカがミッコとどのような関係を築くのか、そして今回巻き起こる事件にチカはどのように関わっていくのか…最後の最後までハラハラが止まりませんでした。

「サヴァイヴ」

3作目は1作目の「サクリファイス」と2作目の「エデン」にまつわる短編集で、チカだけでなく複数の登場人物の語りになっています。そして本編では隠されていた事実が明らかに…。

「サヴァイヴ」を読むと、これまでのシリーズの印象がガラッと変わります。

あの時のあの人物の行動にはこんな意味があったのか…。この人は実はこんな一面があったのか…。などなど、新たな発見がたくさんあり、さらにこのシリーズの虜になってしまいました。

特に1作目の「サクリファイス」が好きな人は絶対に読んだ方がいいです。そして、読み終わったらまた「サクリファイス」を読みたくなると思います。

「キアズマ」

4作目は、表紙のデザインも内容も少し異色な存在です。チカを主人公にしたプロのロードレースではなく、大学の自転車部を描いているんです。

主人公の岸田正樹は全くの自転車初心者で、長年柔道をやってきた男。そんな正樹が1年間限定で自転車部に所属し、1から自転車競技を知っていく物語になっています。

「キアズマ」を読んで、自転車は野球やサッカーと違ってある程度大人になってから始めても十分戦えるスポーツなんだなと思いました。

主人公が素人だからこそ、自転車競技自体の説明も丁寧に描写されています。しかもそれがわざとらしくないのがすごい。物語の世界観を壊すことなく自然に埋め込まれているんです。

プロスポーツとはまた違ったおもしろさを感じることができる4作目でした。

「スティグマータ」

現時点での最終巻である5巻では、主人公が再びチカに戻ってきたので、おかえり!という気持ちで読み始めました。

舞台はお馴染み「ツール・ド・フランス」。

チカは新たなチーム「オランジュフランセ」に所属しています。

そしてこれまた始まり方が不穏なんです…。

これまでシリーズを読んできたので、もうさすがにちょっとやそっとのことじゃ驚かないぞと思って読み始めましたが、やっぱり全く先が読めない!

登場人物たちの意味深な言動にドキドキしながら読み進めました。

「サクリファイス」シリーズにはいろんなタイプのエースが登場しますが、エースの気質や戦い方によって、アシストの仕事も変わってくるのがおもしろいなと思います。

最後に

「サクリファイス」シリーズは、スポーツもの特有の疾走感とミステリ特有の不穏な展開が見事に融合している小説です。

最後の最後まで何が起こるかわからない展開にがしっと心を掴まれ、どんどんロードレースのおもしろさに引き込まれていきます。

私はこのシリーズを読んで、ロードレースのことをもっと知りたい、チカの走る景色をもっと近くで味わってみたい、と思いました。

自転車初心者の人でも楽しめることは保証します!ぜひまずは「サクリファイス」から手に取ってみてください。

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