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運動を習慣に導くためのアプローチ

 私たちは無意識のうちに色々なことを判断し行動します。電話が鳴るたびにどちらの手で受話器をとるか、車に乗った時にいつシートベルトを着用するか、などと意識して行動することはないでしょう。信号が緑色に変わったら自然に車を発車させます。これは、これらの行動が習慣化されているからです。

 ウェレットとウッドの習慣に関する独創的な研究では、習慣とは「一定の状況において繰り返される反復である」と定義しています。彼らは、 習慣的な反応は、最小限の思考と努力で発生する可能性が高いと述べています。

 一方、意図や意思は、自身が期待する結果(私は痩せる/保険の控除を受ける)であろうと、感情(つまらない/楽しい)であろうと、行動の結果に基づく信念から形成されます。意思はまた、知覚力や社会的環境による影響に基づいて形成されます。(例えば、私の友達は運動していて、私と一緒に運動することを望んでいる。だから私も運動しよう。) 

■習慣と意思

 デビッド・ニールらは、映画館でのポップコーンをテーマに、習慣的な食事に関する興味深い実験を行いました。研究に参加した1つのグループには、できたてのポップコーンが与えられました。もう一方のグループには、作られてから7日経過したポップコーンが与えられました。

 自らの意思と感情に基づいて行動する人であれば、おそらく7日経過した美味しくないポップコーンを食べることには興味を示さないでしょう。 しかし、これは人々が常に意思に基づいて行動することを前提とした場合です。彼らの研究では、映画館でポップコーンを食べる習慣がなかった人々は、この古いポップコーンをほとんど食べませんでした。

 一方、映画館でポップコーンを食べることが習慣化している人々にとっては、ポップコーンが作られたのが1時間前なのか7日前なのかは問題ではありませんでした。彼らはいつもと同じ量を食べました。

 これは何を示しているのでしょうか?

 ウェレットとウッドは、体系的なレビューとメタ分析に基づき、過去の行動が未来の行動に直接関連していると結論付けました。習慣的な行動の遂行には、意識的な熟考や意思決定は必要ありません。習慣的な行動の例を挙げてみましょう:

〇目覚まし時計のアラームを止める>コーヒーメーカーのスイッチをいれる>コーヒーを飲む>スペイン語の勉強をする

〇夕食に出かける>パンを頼む>パンを食べる

〇食料品店に入る>まとめ買いのコーナーをチェックする>ピーナッツ製品を買う> 特に欲していなかったピーナッツ製品を食べる

 それでは、“運動”することは習慣化、できるのでしょうか?おそらく習慣化しづらいかもしれません。例えば、負荷が大きくチャレンジングなリフトをするとき、あなたは決して無意識で行いませんよね。しかし、人が運動するまでのプロセスに関しては習慣化しやすいとも言えます。

  たとえば、私は毎朝カレンダーを確認します。事前に書き留めておいた教えるクラスの時間、クライアントのトレーニング時間を確認し、空いている時間がないかを探し、私自身がエクササイズする時間を記入します。そしてその時間になったら、自分のトレーニングをします。

〇カレンダーをチェック>約束事を書き留める>エクササイズをスケジュールする>エクササイズをする

 
■習慣の積み重ねと実行する意思

 習慣”をどのように活用できるのか、コーシャル、ロードス、スペンス、メルドラムが行った行動医学の研究を紹介しましょう。この研究に参加した人々は、これまであまり運動を経験したことがないジムの新メンバーでしたが、中程度から激しい運動に積極的に取り組むようになりました。どのような魔法を使ったのでしょうか。

 研究者たちは、参加者が運動をするための戦略を立てる手助けをしました。つまり、行動のきっかけを作ることです。参加者は、1日の同じ時間にワークアウトをスケジュールするように行動計画を立てました。研究者は参加者にきっかけ作りのために2つの指示を与えました。

 

 1つ目は、行動を実行したか、していないかによって、そのきっかけを終了、または継続することです。たとえば、常にトレーニングウェアとシューズがベッドにある状態では、このきっかけ作りは効果を失います。運動が終了したら、ウェアはベッドには置かないようにします。

 2つ目は、きっかけを視覚的に目立たせることです。手順は次のとおりです。

 「朝、クローゼットからお気に入りのトレーニングウェアを選び、仕事に出る前にベッドに置きます。家に戻ったとき、ウェアはベッドにあり、ワークアウトをするために着用するまでそこに置かれているようにします。ワークアウト終了後は、クローゼットにウェアを仕舞い、きっかけを完全にオフにすることが重要です。」

 

 奇跡的な変化は起こったでしょうか?参加者は、直ちに開始時よりも4倍の運動をしたでしょうか?いいえ、短期的な取り組みでは「奇跡的な」ことは決して起こりません。しかしながら、小さな改善でも時間の経過と共に永続的な結果をもたらすことになるでしょう。

 行動のきっかけを設定するための、 習慣の積み重ねを考えてみましょう。 すでに習慣となっている行動を特定します。それは朝のベッドメイキングかもしれませんし、歯磨きや、一杯のコーヒーを飲むことかもしれません。次に、そのルーティンに運動に必要なきっかけを付け加えます。たとえば、「コーヒーを飲みながらウェアとスニーカーをベッドに置くこと」を習慣にします。

 

 この形式は、「実行意思」と呼ばれる行動変容の手法に非常によく似ています。実行意思は、「こうしたら、こうしよう」という計画です。実行意思のために、既存のルーティンを活用します。それらは、目標に向けての行動を、より無意識のうちに起こすことを可能にします。これは次のようになります。

〇「仕事が終わったら、ジムに行く。」

 

 習慣の積み重ねを、他の実行意思と組み合わせることは非常に有効です。たとえば、「仕事が終わったら、ジムに行く」を習慣化させたいのであれば、車の助手席にウォーターボトル、シューズ、トレーニングウェアを置くなど、視覚的なきっかけと組み合わせると効果的です。

 JUSTIN KOMPF
パーソナルトレーナー、NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト認定者。マサチューセッツ大学で運動科学と健康科学の博士号を取得。

NASMブログ記事より https://blog.nasm.org/

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