ゲームの光と影に向き合いながら、esportsを高校生の新しい居場所に【毎日新聞社 田邊真以子インタビュー】

2018年に入ってから多くの企業がesportsに関心を持ち始めたが、特にテレビ局や新聞社といったマスメディアの参入が目立っている。取り組み方はさまざまで、ニュースを報道したり番組を放送するだけでなく、チームを持ち、あるいは大会を主催する企業もある。

その中でも、毎日新聞社がサードウェーブと共催する全国高校eスポーツ選手権は独特の存在感を放つ。高校生向けというだけでなく、チームメンバーも同じ学校に限定。種目はPCゲームの『LoL』と『ロケットリーグ』という老舗&新興タイトルで、決勝会場はなんと幕張メッセ。

そしてなにより、学校で認められたチーム(部、同好会)に対してゲーミングPCの無償レンタルが行なわれている。

ただ大会を開催するだけなら、このようなサポートは必要ない。であれば、その意図はどこにあるのか。毎日新聞社が主催してきた選抜高等学校野球大会と照らし合わせると、(ほかがやっていない)高校生をターゲットにした大会を開催するという狙い以上のものを感じざるをえない。

そこで、今回は同社のesports担当である田邊真以子さんに時間をいただき、新聞社として大会を開催する目的や、発表後の反響などについてインタビューをお願いした。まだ第1回大会は実施されていないが、今後この大会や毎日新聞社のesports事業をどういう視点で評価していけばいいのかの参考になるだろう。

※インタビューは10月5日(金)に行なった。

「ゲーム=悪」の印象がEVO Japanで変わった

――7月に全国高校eスポーツ選手権のリリースを出されて3か月ほど経ちますが、社内でのesportsに対する意識、あるいは社外からの問い合わせなど、何か変化は感じられてますか?

田邊:
もう変化しか感じてません(笑)。発表後はほとんどTwitterだけで情報発信してきたんですが、いままで関わりのなかった企業さまから「一緒に何かできないか」といったお話や、中国のゲーム会社からの連絡などがありました。社内でも勉強会や体験会を行なったほか、海外にいる取材班も積極的に協力してくれてます。

ただ、今後どう受け止められていくのかは不安もありますね。個人的には、esports大会の担当者が私のような新参者の女性だということで、それを理由に大会をネガティブに評価されてしまわないかと心配してます。

――以前お会いした際もおっしゃってましたね。そんなことを気にする人はいないと思うんですが、esportsシーンに関わる中で意識されますか?

田邊:
直接的には意識しませんが、自分がゲーマーではなく、本当に最近esportsを知って勉強中のため、それも相まって不安に繋がってます。

――そこはもう自信を持ってもらうしかないですよね。興味を持ってすぐEVO Japanにボランティアスタッフとして参加されたそうですし、だとしたら心配することなんて何もないと思います(笑)。田邊さんのそうした行動力はこの大会の開催にも繋がってると思うんですが、やっぱりそこにはesportsへの強い興味があるはずです。実際、どういう部分に面白さを感じてますか?

田邊:
競技やプレイヤーには魅力を感じますし、大会観戦の楽しさもあります。ですが、あえて別の見方をすると、いろんな部分を関係者全員で作り上げていこうとしてるところが私にとっては一番面白いところですね。esportsに関わられてる皆さんの言葉を聞きながら、誰にも正解が分からない状態を手探りで進んでいくことにわくわくします。

――これまで見聞きされてきた中で印象に残ってることってありますか?

田邊:
そうですね……EVO Japanのとき、ある選手がマスクをしたままステージに上がってたんです。私は何とも思わなかったんですが、生放送のチャット欄で「マスクを取ったほうがいい」というコメントがあり、それに対して別の人が「ゲーマーは社会的地位がないから顔を出したくなくてもしょうがない」と返してました。そのやり取りが印象に残ってるのは、自分もかつてそういう世論の一端を担ってしまってたのかもしれないという罪悪感があったからです。

私は兄と弟がいるんですが、2人ともゲームが大好きで全然勉強をしてませんでした。そんな兄弟を見てきたので、私自身はゲームに対するポジティブな気持ちを持つことがほとんどなかったんです。かつての自分がそうだったように、きっとこういう考え方をした人たちが「ゲーム=悪」という価値観を作ってきてしまったんですよね。

いまはesportsに本気で向き合おうとしてます。試合に出場する選手がどんな想いで戦ってるのか、ファンがどんな気持ちで応援してるのか、自分もそのシーンに入り込んで大会を観戦するようにしてますね。

――「ゲーム=悪」という考え方を改めることになったきっかけは何だったんですか?

田邊:
いろいろありますが、やっぱり一番大きいのはEVO Japanにボランティアスタッフとして参加したことです。周りは格闘ゲームが大好きな人、海外から手伝いに来た人など、熱意のある人たちばかりでした。私は、本音を言えば「esportsに興味を持ち始めたから実際の現場を知りたい」と考えてたくらいで……。でも、それを皆さんが受け入れてくれて、一緒に楽しもうとしてくれたんです。

もう1つ、選手のプレイに大勢のファンが歓声を上げる、そんな会場の雰囲気も最高でした。私が知らなかっただけでこんなにも面白い世界があったのか、とただただ感動しました。EVO Japanを盛り上げてくれたようなコミュニティがほかのタイトルにもたくさんあるわけで、すごく面白いですよね。

――それが田邊さんの原体験になったわけですね。新聞社としては大会を開催するよりはそういうシーンを伝えることのほうが得意なのではと思いましたが、そこはどういう判断だったんでしょうか。

田邊:
報道も並行してやっていきます。ですが、esportsはやはりコミュニティ大会から始まるものじゃないですか。もしビジネスとして注力するとしても、その根本のところを知らないまま報道機関としてシーンに乗っかるだけでは、先駆者の皆さんにも失礼です。それに、いまは報道よりも場のほうが求められてるだろうと考えました。

まずは大会をやってみること。そうすると、どういう人たちが参加するのか、その人たちがどんな想いを持ってるのか、そうした最も大切なところが見えてくるんじゃないかなと思ったんです。

esportsは高校生にとって新しい居場所に?

――最初に高校生向けの大会というのはハードルが高いと思いますが、ここに踏みきったのはどんな背景があったんでしょうか。

田邊:
高校生って親や学校の存在がとても大きくて、やりたいことを自由にできない年頃です。esportsについても、本気で取り組みたいと思いつつもやもやしてる人がたくさんいると思うんですね。でも、新聞社が開催するesports大会なら周囲の大人も考え方を和らげて、出場を後押ししてくれるかもしれません。

それに、オープン大会やプロリーグはすでにいくつもありますから、毎日新聞社が乗り出しても独自性は出しにくいです。自分たちがesportsシーンの発展に貢献するなら、やはりセンバツなどで知見のある領域でと判断しました。

あと、視察を進める中で知ったのは、高校生の間ではesportsがかなり身近なものになりつつあったということです。ただ、彼らが自分たちで大会を開催するのは難しい。だとすれば私たちが応援すればいいんだ、ということで大会開催に繋がっていきました。

――中高生は将来のプロ選手候補としてesportsシーンにとって欠かせない存在ですし、すでにプロとして活躍してる高校生もいます。最初から親に応援してもらえるなら、彼らにとってもシーンにとってこれほど嬉しいことはないと思います。田邊さんはシーンの発展には親世代の後押しが重要だというお考えですか?

田邊:
そうですね。でも、思ってた以上に自分で道を切り開いてる高校生が多かったです。PCも自分で買うなど、プレイするだけならそこまで親の影響力はないと思います。とはいえ、ゲームのせいで学校の成績が落ちたと言われないよう、親に認めてもらうために勉強を頑張ってるという人がそれなりにいましたね。

――大会に出場したいけど許可がもらえない、みたいな問い合わせってありましたか?

田邊:
幸い、現時点ではそういう問い合わせはありません。多いのは「同じ学校でプレイしてる人が見つからないんだけど、どうしたらいいですか」といったものです。次に多いのが、これは意外に思われるかもしれませんが、先生からの「うちの学校は出場できますか」という問い合わせなんです。

――先生が「出場したい」と連絡されるのは、どういった理由があるんですか?

田邊:
パソコン部や電子工学部など、情報系の部活動の顧問をされてる先生が多いんですが、部員にとってesports大会がいい目標になるのではとお考えのようです。あとは、部員に出場したいと言われて、でもesportsのことを知らない先生が「応援してあげたいけれど、何をしたらいいですか」と連絡をくださるケースもあります。

――先生から反対されそうなイメージなんですが、それとは逆なんですね。

田邊:
そもそも先生が反対の場合は問い合わせもないというのはあるでしょうが、応募の大半には「先生の紹介」って書かれてあるんですよ。先生からも「部員が注目される場ができて嬉しい」「高校生が新しいジャンルで活躍できる世の中にしてほしい」といったコメントをいただいてます。現状の反響を見ると、esportsは高校生にとって新しい居場所にになってるのかなと感じてます。

ゲームのネガティブな面にも向き合う

――社内では今大会はどういう扱いになっているんでしょうか。

田邊:
将来的にはセンバツと同じような事業に育てていきたいですね。かつて遊びでしかないと言われた野球が辿ってきた道でもありますが、esportsのポジティブな面とネガティブな面、どちらも議論を尽くして、高校生が取り組む対象としてふさわしいと思ってもらえるように邁進するつもりです。

私たちの耳にはまだそんなに聞こえてきてませんが、「なんで新聞社が高校生にゲームを勧めるのか」と考えてる方はいらっしゃると思います。そういう言葉に対しても、きちんと向き合っていく必要があります。

いまのところは肯定的な反応がほとんどで、弊紙の読者からも「自分は引きこもりでゲームだけが心の拠りどころだったので、大会に何か協力できないか」といった言葉をいただきました。私たちからすればesports大会はエッジの利いたプロジェクトだったんですが、思ってた以上に時代が進んでるという印象は持ってます。

――ビジネスとしてはどういう方向で考えてますか?

田邊:
そもそも高校生の大会なので、参加費等で収益を上げることはありません。数年で簡単にマネタイズが可能だとも思ってなくて、まずはいまの高校生が何を考えていて、どんなことが好きなのかを知るのが先ですね。報道機関として日々業務を行なっていても、なかなかゲームやアニメ、プログラミングなどが好きな若年層と触れ合う機会はありません。なので、彼らのためにできることを探りながら、今後ビジネスの芽を見つけていきたいです。

また、情報の受け手からすると、最近は新聞社の違いを意識しなくなってますよね。これが若年層になればより顕著で、毎日新聞の名前を知らない人も多いんじゃないかと。なので、まずは知ってる新聞社として毎日新聞が挙がるようになればいいなと思ってます。

とはいえ、中途半端に未来のことばかり言って地に足がついてなければ意味がありません。とにかく目の前の大会を成功させることが第一なので、高校生に愛される大会にしていきます。

――当面は年1回の予定ですか?

田邊:
全国高校eスポーツ選手権はそうです。ただ、これとは別の企画をやってみたいという話はあります。

――年1回でもタイトルの流行が変わりますし、かといって毎年タイトルをころころ変えるのも厳しいですよね。改めてゼロから練習するとしても、1つのタイトルを習熟するにはかなり時間がかかります。誰でも出場できるオープン大会ならそれでもいいかもしれませんが、高校生向けの大会は1年生が2年生になっても、2年生が3年生になっても出場できるところに価値がある気がします。

田邊:
たしかにそうなんです。今大会に出場するために『LoL』を始めてくれた1年生や2年生も多いので、第2回で別のタイトルにするのは……どうするのがいいかは検討中です。中学生から「僕が高校生になっても大会はありますか」という問い合わせもあって、この問題は特に考えさせられてます。できるなら現タイトルを維持しつつ増やしていきたいですが……。

――オリンピックも同じ問題を抱えてますよね。ほかにはどういった課題がありますか?

田邊:
ゲーム障害やスマホ依存症に対して何らかの解決策を提示していかないといけないと考えてます。我々だけで解決できることではなくとも、高校生のための大会として真摯に向き合わなければなりません。それと、高校生が学業を疎かにするのではという懸念は必ずあるので、保護者の方が安心して子供を出場させられる大会にしていこうと思ってます。

――ゲーム障害については、正直ゲーム会社もゲームメディアもきちんと向き合ってるようには見えないのが現状です。もちろんゲーム障害自体が妥当かという議論もありつつ、毎日新聞社ではどういった取り組みをしていくんでしょうか。

田邊:
例えば、大会の告知をするときにしても大会や選手の紹介などだけでなく、ゲーム障害のようなネガティブな面も取り沙汰されてることを掲載していくつもりです。ポジティブな面だけを都合よく取り上げるのはやめよう、という点で社内は一致してますね。実は、今大会には「ゲームとの上手な付き合い方を提示する」という裏テーマもあるんです。

ゲーム会社が子供たちでもハマってしまう面白いゲームを開発するのは当然です。子供たちが夢中になるのは悪いことではありませんが、しかし、そこから抜け出せるように対策するのも大人の役目ですよね。

今回はサードウェーブさんが「eスポーツ部発足支援プログラム」を実施してくれてまして、これは部活動として時間を区切ってゲームに取り組むことを定着させる狙いもあります。そのために、学校に部活動や同好会として認められてることがPCレンタルの条件になってるんです。

たぶん、今後出てくるであろう強豪校ほどメリハリの利いた時間の使い方ができてるだろうと思います。高校生がゲームとそういう付き合い方をするようになれば、中学生や小学生にもその姿勢が伝わっていくんじゃないでしょうか。

――プロゲーマーの練習時間が話題に上がることはあります。毎日何時間も、ほとんどゲームとだけ向き合ってるような。でも、これって高校生にはできません。兼業プロゲーマーや高校生プロゲーマーもいますから、彼らがゲームとどう付き合ってるのか、各メディアにはもっと発信してもらいたいですね。

田邊:
練習すればするほど強くなるのは当然だと思うんですが、専業じゃないならほかにやるべきこともありますし、そのバランスをどう取るかですよね。調べたところでは、海外のプロゲーマーはスポーツのアスリートのように取り組んでる例が多く、そういう情報も届けられればと思ってます。

――主催者として「こういうふうに練習したらどうか」といった提案はされますか?

田邊:
これから諸々発表していきますが、チーム同士で練習試合をする機会を設ける予定です。あと、コミュニティの方からも協力を申し出ていただいてるので、できれば連携して何かしたいと考えてますが、全国から応募がありますし、出場予定の全チームに個別でコーチングするのは難しいので、皆さんにとって機会が平等になるようオンラインでいろいろできたらなと思います。

押しつけず、高校生にとってベストな大会にしたい

――今回は『LoL』と『ロケットリーグ』の2タイトルを採用されて、特に『ロケットリーグ』の発表後はコミュニティがざわついてました。田邊さんもそうした雰囲気は感じられてましたか?

田邊:
はい、嬉しい反響でした。『LoL』を発表したあと『ロケットリーグ』を発表するまで間が空いて、FPSタイトルを希望される声が多かったので不安はあったんです。でも、少しは受け入れられたのかなと安心しました。日本ではこれからのタイトルだと思いますが、その盛り上がりに力添えできればいいなと思います。

――Twitterで今回の2タイトルを選んだ理由を投稿されてましたが、改めて教えていただけますか?

『LoL』の採用理由
『ロケットリーグ』の採用理由

田邊:
今回は海外のようなesportsシーンを日本でも作りたいという目標がありました。この大会を通じて初めてesportsを知る人も多いはずで、私たちの無知がゆえに下手なことを仕出かし、「やっぱりゲームはよくないものだ」と思われてしまっては本末転倒です。

これまでコミュニティの皆さんが築かれてきたシーンを台無しにしたくなかったからこそ、まずは本場の雰囲気を感じてほしいと考えました。そこで、esportsのメジャータイトルで日本にも豊かなコミュニティがある『LoL』と、初めて観戦する人でも楽しめる『ロケットリーグ』を選んだんです。

――『ロケットリーグ』は海外で急成長してますが、言ってみれば『LoL』もいまの『ロケットリーグ』と同じ道を歩んできたタイトルですからね。esportsとして成熟したタイトルと、これからそこに追いつこうとしてるタイトル、この2つのバランスはとてもいいと感じました。決勝会場も幕張メッセと、ツボを押さえてるという印象です。

田邊:
会場選びはなかなか決断が難しかったところですが、いまの日本で「esports大会の決勝会場」といえば幕張メッセが馴染み深いですよね。高校生にとっても目指す場所としていい会場じゃないかなと思います。

――甲子園みたいな象徴的な場所ですよね。幕張メッセでは9月の東京ゲームショウでもいろんな大会がありましたし、RAGEや闘会議を筆頭にesportsの聖地の1つになりつつあります。先日発表されたクラロワリーグ 世界一決定戦も幕張メッセです。言わずもがな、LJLも2017年のSummer Splitは幕張メッセが決勝会場でした。

田邊:
ただ、毎年幕張メッセで開催するかは未定で、全国のいろんな都市で開催することも検討してます。やはり全国から応募があるからこそ、その思いにこちらも応えたいです。もちろん、次の会場を考えるより今回の決勝に観戦しに来てもらえるようにするのが優先事項ですね。会場や観戦に関する情報はこれから発信していく予定です。

演出などで工夫もしたくて、私はきっと高校生たちが喜んでくれるから「Faker選手を呼びたい」と思いましたが、それはさすがに無理でした(笑)。

――先日のWorlds 2018で歴史的勝利を収めたDetonatioN FocusMeには日本のFakerがいますよ! 僕としてはLJLのプロチームを呼んでいただきたいなと思います。高校生からすれば日本のプロリーグは目標の1つになりますし。

田邊:
それらも含めていろいろと議論してるんですが、高校生がどういうことを望んでるのか、そこを探りながらになりますね。いずれにしろ、私たちがあれもこれもと押しつけるのではなく、主役である高校生にとってベストな大会にしていきたいです。

高校生にとってesportsは最初からスポーツ

――最後のトピックとして、ここからは少し広い視点でお話をうかがいたいと思います。いまesports業界の一部では「esportsを文化にする」というテーマが重要視されてます。僕もそれ自体はいいことだと思いますが、「文化にする」って実際にどういう意味なのかは人によって違います。田邊さんもマイナビのインタビューでおっしゃってましたが、具体的にどのようにお考えですか?

田邊:
またEVO Japanでの経験になりますが、海外から家族連れやカップルで出場された選手が何人もいて、esportsにはこれほど人を動かす魅力があるんだと驚きました。同時に選手とファンが一緒に試合を観戦してる様子を見て、これが皆さんの築き上げてきた文化なんだなと直感的に思ったんですね。

これが海外になるともっと規模が大きくなるわけです。韓国のesports専門施設であるネクソンアリーナで観戦をした際は会場の一体感にとても興奮しました。

日本でああいうシーンができ上がるには、esportsがゲームの単なるイベントやコンテンツではなく、社会的に認められた文化になることが重要だと感じたんです。「新しいスポーツ」と言うと誤解がありますし、私が話を聞いた選手たちは別にスポーツになることを望んでるわけではありませんでした。でも、「新しい文化」であれば、それこそ新しい視点で受け止めてくれる人が増えるんじゃないでしょうか。

――実際にどうなれば文化になったと言えると思いますか?

田邊:
必ずしも大多数の人に理解されてなくても文化は成り立ちます。その意味では、これまで情熱を持ったコミュニティの方々が作ってこられたesportsシーンはすでに文化になってると思います。プレイヤーがいて、大会があって、勝敗に一喜一憂する。そこにファンがいて、一生懸命応援する。これってまさに文化ですよね。

その一方で、私はEVO Japanで自分がそうなったように、ゲーマーだけでなくもっと多くの人にもこの楽しさを知ってほしいと思ったんです。なので、私たちとしてはコア層の熱狂をもうちょっと広げて、より一般的に愛されるものにしていきたいと考えてます。その手段として、大会では高校生に、そしてその親や先生の世代に向けても魅力を発信していきます。

もしかしたら、毎日新聞はesportsがオリンピック競技になるから、あるいはビジネスになるから目をつけてると思われてるかもしれません。そうではなくて、純粋にesportsが面白いもので、プレイヤーを応援したくて取り組んでるんです。そうした想いを伝えるためにも、大会のメッセージとして「esportsを文化にする」と言う必要があると思ってます。

もしオリンピック競技にならなくても、アメフトのスーパーボウルみたいな熱狂的なシーンはあります。日本でもesportsをそういう存在にできるはずです。

――たしかにそのとおりだと思います。「esportsをスポーツにする」という議論もありますが、これを言ってるのもごく一部の人だと思うんですよね。esportsとして盛り上がればいいわけで。

田邊:
実は高校生と話してると、その区別がけっこう曖昧です。一部の高校生にとってesportsは最初からスポーツなんですよ。フィジカルのスポーツを怪我や病気で諦めてしまった人が、新しい目標をもってesportsをプレイし始めたという話も聞きました。

もちろん全員がそうだとは言えませんが、彼らは海外のプロ選手を見て学んでますし、esportsをスポーツと捉えるのは自然なことのようです。大人は先にゲームとして認識してしまったので、あとからスポーツと言われると違和感があるのかもしれません。

――それはもう高校生が正しいですよ。彼らがこれから時代を作っていくんですから。

田邊:
彼らが思ってることを尊重すべきで、こちらが決めることではありませんよね。とはいえ、ただのゲーム大会で終わってしまわないように、高校生にとって特別な価値を得てもらうようにするのは私たちの役割です。そのために学生リーグや教育現場との連携が進んでる海外の事例を研究してますね。

――センバツを参考にすることもあるんですか?

田邊:
学べるところは学ぶという姿勢です。私は選手宣誓をやりたいと思ってるんですが、本当に実施するかはまだ分かりません(笑)。れまでのesports大会で当たり前のこと、そしてesports大会では当たり前ではないけれどスポーツ大会では当たり前のこと、これらをいい具合に橋渡しできればいいなと考えてます。

――優勝賞品がesportsを体験する韓国旅行というのはいいアイデアですよね。Negitaku.orgのYossyさんも激賞されてました。

田邊:
ありがたいです。賞金を渡すのは難しいですし、優勝した高校生は今後esports業界で活躍してくれるかもしれませんし、高校生活の思い出としてもいい体験になれば嬉しいです。それをもとに韓国のesports情報を発信してくれればなお嬉しいですね。ジャーナリストや記者以外の目線で伝えてもらうのも大事だと思います。

――本当に同意しかなくて、いまの高校生が心底羨ましいですね。取り組みは始まったばかりですが、たいへん期待しております。

田邊:
まだ大会を成功させるどころか実施すらしてないので、実はこうしたインタビューにお応えすべきなのかも悩みました。でも、お伝えしたいことはあるんです。なにより、高校生などアマチュアのシーンを健全に発展させていくお手伝いをしたいということです。どんな反応をいただくか恐る恐る始めたプロジェクトですから、どんな意見でも参考にさせていただきます。

繰り返しになりますが、全国高校eスポーツ選手権の主役は高校生です。自分たちの思い込みや勘違いで判断しないように、彼らの言葉に耳を傾けることが欠かせません。それに、コミュニティの皆さんに盛り上げていただかないと成功はないので、一緒にesportsの歴史を作っていければ嬉しく思います。

インタビューを終えて――esportsと大人の責任

いまの、そしてこれからの高校生はゲームのプロ選手やプロリーグ――要するにesportsが当たり前に存在する世界に生きることになるだろう。実際、すでにそうなりつつあると田邊さんは語ってくれた。esportsが彼らの人生に与える影響力は計り知れないし、ゆえにesportsを教育に取り入れようとする動きも理解できる。

だが、田邊さんが率直に核心を突くように、高校生(もちろん小学生や中学生も含めて)にesportsをやらせようとするなら、そこには大人としての責任も伴う。

かつて阪神タイガースは15歳の辻内賢人をドラフトで指名したことがある。辻内は結局1軍には上がれず20歳で戦力外通告を受けた。本人は28歳(2017年)になってのインタビューで「入団してよかった」と話しているが、「いまは、もう全然、野球が気にならない」とも言っている。あれほど野球に夢中だった選手が、と物悲しい。

esportsは野球と違って年齢が若いほど活躍できる領域だ。すでに高校生のプロ選手が何人もいる。だからこの先、選手発掘はますます加熱していく。いまシーンにいる大人は高校生選手にプロ活動と学業を両立させようとする良心的な人がほとんどだが、この先も自制することはできるだろうか。彼らが学業よりもesportsを選択するとき、大人はどう対応するのがいいのか。高校や大学を選ばなかった彼らの人生にどんな責任を持つべきなのか。

セカンドキャリアを保証すればいいという話ではない。高校や大学で学ぶ学問はこれまで人類が数千年かけて蓄積してきた知の体系であって、esportsを通して得られる経験や知識が代替できるものではないのだ。教育は何よりも尊い。それを学ぶ機会を、esportsは奪いうる(前述のようにesportsに限っての話ではない)。

試験前に徹夜でゲームするのが当たり前、みたいなゲームの絶大な影響力を知る我々だからこそ、そうした議論を経ずに軽々しく「学校教育にesportsを」とは言ってはならないはずだ。プロゲーマーという新しい職業を確立しようとしているのだから、せめてその点には自覚的でいたい。

もちろん、これも田邊さんが言ってくれたように、esportsが高校生の新しい居場所になりうるという考えは、一口に言って最高だ(僕もそんな時代に高校生をやりたかった)。このポジティブな面と、ゲーム障害などネガティブな面、両方を伝えていくと明言してくれた田邊さん、そして毎日新聞の姿勢はあまりにも誠実である。これこそesportsの普及・推進に取り組む人たちのあるべき姿勢ではないだろうか。

後記が長くなってしまったが、esports(ゲーム)業界は未成年が当然のように関わってくる領域ゆえに議論しなければならない課題がある。今回のインタビューを通して、読者には毎日新聞の取り組みや理念を知るとともに、大人としての責任についても考えてみてもらいたい。

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全国高校eスポーツ選手権 公式サイト
全国高校eスポーツ選手権【公式】 @MAINICHIesports

取材・執筆・撮影
なぞべーむ @Nasobem_W

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謎部えむ

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