マガジンのカバー画像

感想

26
運営しているクリエイター

記事一覧

「あるはなく」(千葉優作さん)

千葉優作歌集『あるはなく』を読みました。好きだった歌などを。

装幀も良いのです。ちらちらと細くひかる金が美しい。箔押しはともすれば華美になりそうなものですが、タイトルと著者名が黒字であるためか、落ち着いた風合い。手触りはちょっと布のようなざらつきがあって、ああ紙の本は良いなぁと改めて思いました。

《こはれもの注意》の札を このところ海を見たがる君の背中に
たはむれに君に蹴らるるよろこびのくすぐ

もっとみる

ともだちにならう蜜柑を剥いてあげる/喪字男

ともだちにならう蜜柑を剥いてあげる/喪字男(「彼方からの手紙」9号)*1

初めてこの句を見たとき、怖いと思った。今でもそう思っている。一見どこにも怖い要素はないのに怖さを感じさせる、すごい句だと思う。それは、怖い言葉を使って人を怖がらせるよりもずっと難しいことだ。
蜜柑を剥くことで友達になろうとする不器用で温かい句という読み方もできるようだし、もしかすると作者の意図はそちらかもしれない。
しかし

もっとみる

ちかかさんの短歌

ちかかさんの短歌5首選と感想。
ブログ「すれ違いの猫たち」から引かせていただきます。連作から歌を抜き出して感想を書いてしまう点、ご容赦ください。

コンビニのカラーボールを君の背に投げたい午後だ眩しい青だ/ちかか
(2017.1.14 「紙の蕾を濡らすのは」)

この歌好きです。下の句で二回「だ」と言い切っているところに、強さが出ていて良いなと思う。コンビニのカラーボールは相手に染料を付けて犯人で

もっとみる

nu_koさんの短歌

nu_koさんの短歌5首選と感想。
nu_koさんの、今年に入ってからのnote(@nukothecat)の記事より短歌をいくつか引かせていただきます。


なんかこう、わからんけれど感覚がぼくのやつってゆがんでますか?/nu_ko
(2017.1.1「さよならドライマーク」)

普通は「ぼくの感覚ってゆがんでますか」になると思うのですが、「感覚がぼくのやつってゆがんでますか」と語順がちょっ

もっとみる

「未完成」(住宅顕信)

住宅顕信の自由律俳句の句集「未完成」を読みました。好きだったものをいくつか引きます。

P4
だんだんさむくなる夜の黒い電話機
(住宅顕信)
「だんだんさむくなる」と「夜の」と「黒い」が全て「電話機」にかかっていると思ってずっと読んでいたのですが、もしかして「だんだんさむくなる」は「夜」にかかっているのでしょうか(「だんだんさむくなる夜の/黒い電話機」という切れ方?)。電話機が「つめたくなる」では

もっとみる

「無伴奏」(岡田幸生さん)

冴えない短歌詠みが自由律俳句を読んでみたシリーズです。と言いつつ特にシリーズ化はしてなかったですね、はい。

岡田幸生さんの自由律俳句の句集「無伴奏」を読みました。
何句か引かせていただきつつ、感想のようなものを書きます。

P19
春の電車の坐れば眠る
(岡田幸生)
大学時代の、2コマとか3コマで授業が終わって帰るときのことを思い出しました。平日の昼間だから、電車がらがらなんですよね。四人がけの

もっとみる

「新しい靴」(天坂寝覚さん)②

天坂寝覚さんの自由律俳句の句集「新しい靴」、感想の続き。

つらつらと思ったことを書きます。

天坂さんの句は対象から目をそらさない感じがします。見ると言うより見つめるに近いのかもしれません。句の中で瞬間とか数秒ではなく、もう少し長い時間が流れているように思います。
何か動いている物が目に入ったときに、その存在を認めて句にするだけではなくて、天坂さんは動きのないもの、例えば鍵穴の暗さ(P53 鍵

もっとみる

「新しい靴」(天坂寝覚さん)①

天坂寝覚さんの自由律俳句の句集「新しい靴」を読みました。感想みたいなものを書きます。
何句か引かせていただきます。

P16
新しい靴で辞めた
(天坂寝覚)
短さはかっこよさ、みたいに思っているところが私にはあるのだと思います。私はときどき短歌を作りますが、短歌は31音なので、その感覚で見るとこの11音の句はとても短く感じます。短い!
「新しい靴」というのがどこか決意じみた響きがあって、「辞めた」

もっとみる

「お腹いたいっていいながら胃の辺りを押さえる」(しま・しましまさん)

控えめに告知されている、しま・しましまさんの短歌ネプリ「お腹いたいっていいながら胃の辺りを押さえる」を読みました。ツイッターやブログに載せられた「ヨソに出せない」歌だそうですが、好きな歌がたくさんありました。うたの日に出されているのよりも自由で、理屈から解放されるような感じが心地よいです。

さくらからビニールシート星人がつぎつぎ湧いて寝たり起きたり
(しま・しましま)
お花見なのかなぁ。風が吹い

もっとみる

「冬の星からこぼれる」

文佳さんが企画してくださった冬の短歌ネプリ、「冬の星からこぼれる」。私以外の6人の方の連作から一首引いて、一言だけの感想のようなものを。

雪国で生まれた女ですだから平気じゃないなんてはずないのに
(「正六角形の悲しみ」深川青)
生まれという絶対的なものを盾にしてでも感情を抑えようとするのが痛々しい。普段から「〇〇さんって冷静だよね」とか言われて困った顔で笑っていたりするのかななどと想像してしまう

もっとみる

「fuyu-gokko」(天坂寝覚さん)

天坂寝覚さんの定型俳句ネプリ「fuyu-gokko」、好きな句と感想みたいなものを。

住所不定中卒無職冬銀河
(天坂寝覚)
すごく好きです。短歌だと全部漢字にするのは難しいし、たとえできたとしてもくどくなる気がする。俳句だからできることなのでしょうか。始めの三語の持つ厳しさのようなものは冬の厳しさに繋がるような気がするのですが、そこから冬銀河という美しい言葉でパッと視界が開ける感じが鮮やかで、も

もっとみる

「平成二十七年天坂寝覚自選十句集 あ、ろーん」(天坂寝覚さん)

天坂寝覚さんの自由律俳句ネプリ「平成二十七年天坂寝覚自選十句集 あ、ろーん」から、2句だけ。

めし炊けた音の炊飯器ながめる
(天坂寝覚)
めし炊けたんだからめし食べれば良いのにそうしないで、炊飯器をながめる。この人は今ひとりなのだろうと思う。独りを孤独とも思わず、ただしんとして一人でいる。夜、部屋が真っ暗になるまで電気をつけることを忘れている、そんな人のような気がする。寂しさが漂ってはいるのだけ

もっとみる

「The attempt by the 26 verbs.」(天坂さん)

天坂さんの短歌ネプリ「The attempt by the 26 verbs.」から、好きな2首を。

「感情の点検をした為、一部私に遅れが出ております」
(天坂)
あっこれ好きと思った。ショック?(良い知らせかもしれないし、そうでない知らせかもしれない)から立ち直るために時間を要しているという歌でしょうか。自分の一部が自分に追いつけなくなる苦しさを、さらっとした言い回しで緩和しようとしているふう

もっとみる

「虹の蕾」(木原ねこさん)

木原ねこさんの、うたの日で花束を取った短歌32首を集めたネプリ「虹の蕾」から。感想のようなもの。

幼児語が家族の言葉になってゆくてろんてろんは踏切の音
(木原ねこ)
この幼児語って、犬を「わんわん」と呼ぶような一般的な幼児語ではなくて、その子供が編み出した独自の言葉のことだと思います。子供って何をどうしたらその言葉がそんな風に聞こえるの?みたいな言葉を使ったりしますよね。踏切のカンカン鳴る音を聞

もっとみる