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復讐と復習【短編】

 旅人が焚き火を灯して傍らに腰掛けている。森の暗がりから、もうひとりの旅人が現れる。

「焚き火にあたってもいいですか?」「ええ、どうぞ」
「ありがとう」「……静かな夜ですね。あなたの旅の目的は?」

「復讐です」
「復習ですか」

「長年続けています」「継続は力です」
「成果に結びつかないんですよ」「焦りは禁物です」
「徒労に思えてなりません」「諦めないのも立派なことです」

「あなたは強い人だ……自分で始めたことなのに、重圧にすら感じてしまいます」
「たとえ好きなことでも続けるのは苦難でしょう。重責と思うのならば、一度荷を下ろして休むのも選択の一つです」
「それができればどれだけ楽か……けれど、長くない人生なのに、自分から無駄に足踏みして停滞しているのではないかと、迷ってしまいます」
「あなたが真面目な証でしょう。目的を成し遂げるのも大事ですが、思いつめてばかりですと潰れてしまいます。どんな駿馬であろうと限界を越えてしまえば走れませんよ」

「そういうものですか」「さぁ、温かいお茶でも飲んで」
「どうも。ああ、これはいい」「緩急があってこそ次への伸びしろへと繋がるのです」
「あなたには色々教えられてますね」「人生とは学びです。一度学んだことをもう一度学び直すように、過去を振り返るのも大事でしょう」

「ええ、私も考えを改めましたよ。あなたの温和な態度を見ると諦めてしまおうかと思いました……『先生』」
「おや? 私がなぜ教師であることをご存知で?」

「調べはついてるんですよ。あなたが私の大切な人を殺した犯人であることも、教師という立場を隠れ蓑にしてることも」
「あなたは大変な誤解をなさっています、どうか落ち着いて」
「お茶に遅効性の毒が入ってるのもお見通しです。飲んだふりに気づきませんでしたか」
「い、一体何をおっしゃるんです」
「二度も同じ手が通じると思っていましたか……学習が足りていませんね」
「まさか、あなたはあの村の生き残り」

「一度やり遂げると決めたからには、復讐を成し遂げなければならないんです。もう終わりにしましょう」
「頼む、お願いだ、殺さないで──、」

 焚き火が消え、辺りはぬばたまの闇に覆われる。森のどこかからフクロウが羽ばたく音が聞こえ、静寂が戻る。

【おわり】

私は金の力で動く。