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映画考察:『TENET』における『時間事象』のイラスト付き解説、のつもり。

TENET感想記事といいたいが、正直一回だけで書ける気がしなかった。

TENETという言葉の意味を知らない人はさっさと劇場に行って映画を見てくるように。【ネタバレ必須】のあっちむいてホイだ。改行してあげるからそのうちに後ろを向いて全速力でバックするように。

ただこの概念を知っていれば、より「時間」についての理解が深まるはずなので、アリかもしれないしナシかもしれない……

一応前回の記事も貼りつつ、以下からがイラスト付きの考察だ。

さて、クリストファー・ノーラン監督作品はほぼ全てにおいて時間がテーマとして扱われている。
記憶が維持できない男の物語であるメメント、夢の奥深くのレイヤーに入れば入るほど時間の流れが遅くなっていくインセプション、数千年の時すら飲み込む深淵の宇宙と果てしない絆の物語のインターステラー。どれも時間が物語に密接に関わっていて、今作のTENETでも時間が最重要のテーマとして用いられていた。

すなわち、「逆行時間」だ。

しかし今回のTENETは、インセプションやインターステラーと比べてもとてつもなく難解なSFになっているので、逆行時間の個人的な考察をしてみよう。
ホワイトボードに書いたイラストなので少々の汚れは愛嬌としておいてくれ。

右から左に、未来から過去に矢印が向いているのが逆行時間。上の矢印だ。

左から右に、過去から未来に矢印が向いているのが順行時間。下の矢印だ。

現実(我々が日常で観測している範囲)では下の順行時間だ。そしてTENET作中で出てきた逆行時間は実に興味深く、実は逆行時間も順行時間も「時間の流れが一方通行であり、一定の速度である」ことには変わりないのだ。

作中で出てきたPu241もとい「アルゴリズム」を用いた反射装置を使うと、時間が逆転するのではなく「矢印の向きが変化する」のである。ここで重要なのは、時間は常に一方通行であり、そして時間の速さも一定のままだということ。
これによって逆行世界の中に入ることができるのだが、必ずしも万能のタイムマシンであるとは限らない。

「3日前に戻りたい」と思ったとしよう。
逆行時間軸を使えばそれは可能だが、時間は一方通行であり速度は一定だ。

3日前に戻りたいのであれば逆行時間で3日間待つ必要があるし、1年前に戻るのであれば逆行時間で1年間過ごすことを強いられるのである。逆行時間の空気は呼吸できないため酸素ボンベの密閉空間が必要になるがな。
とにかく誰にも会わないような空間の中で日々を過ごさないといけない。過去の自分に会うのはもっての外だ。過去の自分が自分に出会っていないのならパラドックスが発生する。

話を戻そう。そして3日前に戻ったら、順行時間軸に戻らなければならない。そのままでいたら、一方通行で一定の速度の逆行する時間でどんどん過去へと遡っていってしまう。

反転時間から順行時間に戻るなら話は簡単。
どこかの反射装置の中に入って、時間の矢印の方向を反転させて元通りになればOKだ。そうすればその時点から順行時間に戻れる。まさしくタイムマシンだな。

ついでに上の図の波線部分を注目。波線部分から向こう側の波線に注目するような視点をイメージしてもらおう。
順行時間から逆行時間を見れば逆に動いているように見える」のは当然だが、それと同時に「逆行時間から順行時間を見れば逆に動いているように見える」のだ。

まさしくこれは「鏡による鏡像」と非常によく似ている。鏡は左右が逆転しているのではなく、正確に幾何学的にいえば「前後が逆転」しているのである。

すなわち鏡が「鏡像の前後を逆転させる」ように、TENETの反射装置とは「時間の前後を逆転させる」のである。なんというスマートで単純な事象か!

これが順行時間と逆行時間のわかりやすい図……だと思う!

逆行時間の不自由なとこはいくつもある。「逆行したい時間の分だけ同等の逆行時間を過ごさなければならない」点だ。50年戻るなら50年を逆行時間で過ごさなければならないし、50年前の世界に反射装置はないから永遠に逆行時間に閉じ込められるだろう。
これは時間の速度が一定であることの弊害だ。50年を1秒で過ごせるなら話は別だが、相対性理論が働くような事象でもなければ無理な話だ。

もう一つは「一度起きたことは変えられない」ことにもある。これは時間が常に一方通行であることの弊害だ。逆行時間は過去を自由に改変できるようで実はそうではなく、祖父殺しのパラドックスに代表されるようないくつもの矛盾を孕む。過去の自分が観測した以上のことを変化を与えることはできないのだ。
もし無理にパラドックスを実践しようとしたら対消滅なりで予想にもつかないような大惨事が発生するだろう……という推測だが、此処から先は時間解説の領域を越えて本編のネタバレに抵触するのでここまでにしよう。

本編感想は後日また書くのでその時までにまた会おう。

しかし一つ語るとしたらこれだな。
TENETを見るまえにメメントを見ていてよかった! 次の感想ではここらへんも触れながら語りたいと思っている。

私は金の力で動く。