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中国映画鑑賞記 「花の生涯ー梅蘭芳」と、「さらば、我が愛 覇王別姫」

先日、チェン・カイコー監督の「花の生涯ー梅蘭芳」を鑑賞したのだが、不意に「さらば、我が愛 覇王別姫」の凄まじさを思い出してしまった。今回はこの二作を比べつつ、「さらば、我が愛 覇王別姫」の魅力について紹介していきたい。

まず、私が最近鑑賞したのは『花の生涯~梅蘭芳~』2008年の中国映画である。

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実在した京劇の名女形、梅蘭芳の一生を描いた伝記物。148分とかなり長い尺で、若かりし梅蘭芳がこれまであった京劇の型を破り、改革を起こしていったかを描いている。冒頭のシーンからすでに、京劇に命を捧げる梅蘭芳の一生を象徴している。本作は香港の人気俳優、レオン・ライが主演していることが注目されていたが、個人的には青年期を演じている余少群(ユィ・シャオチュン)が鮮烈に印象に残った。映画やドラマへの出演はあまり多くないようだが、中国の伝統劇・漢劇の俳優で、チェン・カイコーの指示で本作のために京劇の稽古を行ったそうだ。

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ちなみに普段はこんな感じ。もちろん美青年。

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史実としてのある京劇役者の一生を描くのも良いのだが、やはり女形の美しさ・儚さが重要である。彼が演じる青年期のシーンは華麗な美しさを堪能出来るのだが、レオン・ライ演じる中年期になると、結婚して妻に尻に敷かれたり、その抑圧から真実の愛を求めて若い女優と不倫したり・・とありがちな中年クライシスに陥ってしまう。

一方、同監督の京劇映画「さらば、我が愛 覇王別姫」は、カンヌ国際映画祭でパルムドールまで獲得した名作中の名作である。今は亡き香港の伝説的俳優、レスリー・チャンが女形を演じている。本作の魅力は、女形の美しさ、人生の無情、歴史に翻弄される文化人・・・それらが壮大なスケールで描かれている点にある。原作は同名の小説である。

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この二作の決定的な違いは、「同性愛」があるかないかであろう。レスリー・チャン演じる蝶衣は、幼い頃から彼を守ってくれた兄的な存在である小楼に対して、同性愛的な感情を抱いていく。舞台の上のみならず、私生活でも女になっていて、小楼の妻である菊仙に激しい嫉妬を抱く。

「花の生涯~梅蘭芳~」では、良いのか悪いのか結婚した中年男性なら誰でも起こりうるような平凡な不倫を描き、不倫相手も妻も何故か腹が据わっているというか、嫉妬に狂っているような描写はない。京劇に身を捧げ、大きく道を外れることがなかった真面目な梅蘭芳の一生を表現している。ある意味、美談におさまっているのだ。


人間が堕ちていく様、歴史に翻弄される姿、極地に陥った時に愛する人が取る行動・・・人間の汚く醜い部分までしっかりと表されているのが「さらば、我が愛 覇王別姫」であろう。(現実味があるかどうかは別として)


嗚呼、記憶を辿っているうちにもう一度見返したくなってきてしまった! ぜひ一度、歴史的名作である「さらば、我が愛 覇王別姫」を鑑賞していただきたい。


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